「銀行オープンAPI」で銀行と外部事業者をデータ連携
もう一つ、ビジネスの世界における「ソサエティ5.0」の動きとして注目されるのが、「銀行オープンAPI」です。
APIとはApplication Programming Interfaceの略で、あるアプリケーションが持つ機能やデータ等を他のアプリケーションから呼び出して利用するための仕組みを指します。そして、APIを他の企業などに公開することを「オープンAPI」と呼びます。つまり、「銀行オープンAPI」とは、銀行と外部の事業者(特にフィンテック企業)との間のデータ連携を可能にするものです。
これによって、例えば複数の銀行口座の情報を一つの画面上でまとめて閲覧できるアカウント・アグリゲーションサービスが可能になります。また、支払いや入金について、銀行の口座データをAPI経由で取り出すことにより、手動での入力どころかスキャナーなどによる読み取りも不要となります。あるいは、会計システムに仕入の支払い情報を入力すれば、銀行への振込依頼も一連の操作で済んでしまいます。
銀行にとって、勘定系基幹システムにおける口座情報の管理や入出金の明細照会、振込指示などはまさに業務の根幹に関わるものです。そのシステムへの接続仕様を外部の事業者に公開し、アクセスを認めるということは、かつては想像もできないことでした。
しかし、時代の変化から金融庁で議論が進み、2017年に成立した銀行法等の改正によってオープンAPIを利用して銀行と接続する事業者(電子決済等代行業者)が登録制となるなど、制度の整備が進んでいます。
金融庁の調査(2019年6月)によれば、回答のあった銀行137行中130行がAPI開放を表明し、そのうち99行はすでになんらかのAPIを公開済みでした。また、2019年8月末時点で登録している電子決済等代行業者は58社にのぼっています。中小企業を含め多くの企業にとって、銀行オープンAPIは経理や財務業務の大幅な効率化につながるはずです。
中小企業の「ソサエティ5.0」対応は「蛙跳び型」
今、このようにさまざまな分野で「ソサエティ5.0」へ向けた動きが加速度的に進んでいます。しかし、多くの中小企業にとってはどのように対応すればいいのか、コストはどれくらいかかるのかなど、心配な点も少なくないでしょう。
そこで政府では各種補助金を設けたり、税負担を軽減したりするなどの対策を講じてきました。例えば、2017年から設けられている「IT導入助成金」は当初、3年間で全中小企業・小規模事業者の約3割にあたる約100万社にITツールの導入を目指すとしており、2020年度以降も継続されています。
こうした企業におけるIT化の流れを象徴するキーワードが、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」です。DXとは、あらゆる業種、あらゆる規模の企業がクラウドやビッグデータなどのIT技術をフル活用し、顧客に新しい価値を提供すると同時に、市場における競争優位性を確保しようとする動きです。
この点、かねてよりIT化を積極的に進めてきた大企業では、既存のシステムが事業部門ごとに構築されたり過剰にカスタマイズされたりした結果、全社横断的なデータ活用が難しかったり、複雑化・ブラックボックス化しているという問題に直面しています。大企業の経営者がDXを進めようとしても、既存のシステムが抱える今述べたような問題を解決したり、業務自体の見直しが必要になったりします。現場サイドの負担も大きいでしょう。
経済産業省によると、こうした問題を克服できない場合、DXが実現できないのみならず、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性があるとして、「2025年の崖」と呼んでいます。一方、IT化が遅れていた中小企業は逆に、最先端のIT技術を比較的安いコストでスクラッチから導入し、効率的なデータ活用の基盤とシステムをスムーズに構築できる可能性があります。
こうした現象は、「リープフロッグ(leapfrog:蛙跳び)」と呼ばれます。アフリカなどの新興国において、固定電話を飛ばして一気に携帯電話やスマートフォンが普及したように、途中の段階を飛び越して、最先端の技術・サービスが広がる現象のことです。中小企業は今こそ、「ソサエティ5.0」へ向け、ITの導入と活用において、リープフロッグ型の対応に乗り出すべきです。
岡本 辰徳
株式会社YKプランニング 代表取締役
鈴木 克欣
税理士法人SHIP 代表社員税理士
株式会社SHIP 代表取締役