高成長によって貧困削減を実現した中国の成果とは?

発展途上国の経済成長は、貧困削減・所得格差是正に役立つのか? 新興市場への投資を検討する際、やはり理解しておきたいこのテーマ。財務省OBで、現在、日本ウェルス(香港)銀行独立取締役の金森俊樹氏が、中国を例に詳細分析する。今回は、中国における貧困削減の成果を見ていきたい。

アジア地域の絶対貧困率は下がっているが・・・

pro-poor growthのロジックを明確化するため、理論的に定式化するとどのようになるのか。いくつかのアプローチがあり得る。

※こちらについては技術的になるので<参考>にまとめておく。ご興味のある方は<参考>「貧困削減に資する成長」のロジックとは?を参照願いたい。

 

さて、国際的な貧困の基準(絶対貧困は1日1.25ドル以下、通常の貧困は1日2ドル以下)を基にしたADB(アジア開発銀行)の2015年推計によると、同地域の絶対貧困率は1990年55.3%から2011年15.3%へと低下、この間、約9.5億人が絶対貧困から解放された。ただし、以下の2点に注意する必要がある。

 

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第1に、1日1.25-2ドルで生活する「弱者(vulnerable)」と呼ばれる層は、むしろ1990年9.2億人から2011年11億人へと1.8億人増加している。

 

第2に、①消費構造の変化、②食糧品へのアクセス(食糧品価格が一般物価より上昇率が高い場合が多い)、および③自然災害・温暖化・疾病・経済危機などに対する脆弱性を考慮すると、おそらく1日1.25ドルという絶対貧困基準は、少なくともアジア太平洋地域については低すぎるという指摘がある。これら要因を考慮すると、実際の絶対貧困率はかなり上昇する(2010年でみると、通常の貧困率20.7%に対し49.5%、人口で約10億人増加)。

高成長による貧困削減に自信を深める中国

中国が独自に設定している国内貧困基準については、以前から、急速な経済成長に比し貧困基準の引き上げが追いついていないとの議論があり、基準が年々引き上げられてきた。以前は絶対貧困と低収入者が別々に区分され、2007年時点で、年間収入ベースで絶対貧困は785元以下、低収入者1,067元以下とされていたが、2008年に貧困基準として1,067元に統一され、2009-2010年、これが1,196元に引き上げられた。

 

さらに2011年11月、貧困白皮書の発表後、2,300元(2010年不変価格)にまで大幅に引き上げられた。国内的には政府が貧困対策を強化しているとの姿勢を示して社会の不満が増幅することを抑える一方、国際的には中国がなお途上国であると主張する根拠を強めるねらいがあったとみられる。

 

年収2,300元は当時の1ドル約6.3元のレートで計算すると、ちょうど1日1ドルで国際的な絶対貧困基準よりなお低いが、基準が引き上げられた時点で、中国当局によれば、貧困層と見なされる人口が2,688万人から1.28億人へと約1億人増えた。その後、国家統計局によると、2014年末の貧困人口は70.17百万人、13年末から12.32百万人減少している(2015年7月25日付新華ネット)。

 

中国は、国際的に見て、高い成長率が絶対貧困の削減に大きな効果を挙げた典型的な事例と見られている。アジア太平洋地域で人口の大きい中国、インド、インドネシア、パキスタンの4カ国の絶対貧困の比率を見ると、同時期のデータは揃わないものの、インドが49.4%から23.6%(1994-2012年、同期間の年平均実質経済成長率は6.9%)、インドネシアが54.3%から16.2%(1990-2011年、同4.9%)、パキスタンが64.7%から21.0%(1991-2008年、同4.8%)の低下に留まっているのに対し、中国は60.2%から6.3%(1990-2011年、同10.1%)と、顕著な貧困削減の成果を挙げている。

 

上述のAIIB(アジアインフラ投資銀行)を推進する中国の主たる動機は政治安全保障面にあるとは思われるが、その背後にも、インフラ投資、高成長を通じて、貧困削減面でも成果を挙げてきたという経済面での自信がある。多くの途上国がその事実を肯定していることは、彼らがいち早くAIIBへの参加を表明したことからも明らかだ。

 

(注)カッコ内は全人口比%
(出所)UNESCAP, ADB, UNDP ‘Asia-Pacific Aspirations: Perspectives for a Post-2015’ Sep. 2013′他
(注)カッコ内は全人口比%
(出所)UNESCAP, ADB, UNDP ‘Asia-Pacific Aspirations: Perspectives for a Post-2015’ Sep. 2013′他

 

 

 

 

 

 

 

(出所)世界銀行 ‘Working for a World Free of Poverty’他
(出所)世界銀行 ‘Working for a World Free of Poverty’他

 

 

(注)1日1.25ドル以下の人口の総人口に占める割合
(出所)(参考1)と同じ、および豪NZ銀行
(注)1日1.25ドル以下の人口の総人口に占める割合
(出所)(参考1)と同じ、および豪NZ銀行
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 独立取締役

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載中国の例に見る「途上国の経済成長と貧困削減・所得分配の関係」

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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