「ハゲ遺伝説」に戦々恐々だった青春時代
私の身内の男は、みんなハゲでした。
だから、高校に通っていた頃から、いつも「いつか必ず、俺はハゲる」という、確信と恐怖を抱えて生きていました。今でこそ「ハゲ遺伝説」は否定している私ですが、若い頃はけっこう俗説に囚われていたのです。
中学のときは、野球部に入っていました。しかし、夏の中体連地区大会が終わったあと、高校に行っても野球を続けるかどうかに迷い始めました。それでも部活を引退後、仲間といっしょに社会人野球を経験した先輩のところに行ったりして、硬式のボールに慣れるつもりで練習を始めてはいました。
中学は軟式野球ですから、高校野球で使う硬式球には憧れがあったのです。ですが、私のなかで、どうしようもないモヤモヤが広がり始めました。「高校でもがんばるぞ!」とイマイチ思いきれなくなったのです。理由のひとつは、「自分がいくらがんばっても、プロ野球選手にはなれないようだ」と、現実が見えてきたことでした。目標を見失った感じで、高校でも厳しい練習を続ける意味があるのかなって、ちょっと冷めてきたんですね。
そして、もうひとつが、大げさに言えば「髪の悩み」でした。
私たちの通っていた中学校は、校則で、野球部かどうかに関係なく、男子はみんな坊主頭でした。高校生になったら、野球部に入らない限り、坊主頭からは解放されます。みんな髪型の自由に憧れていたのです。とりわけ、〝将来ハゲる予定〟の私には、髪があるうちにおしゃれをしたい、という気持ちも強かったのかもしれません。
「いつ伸ばすんだ?」「今でしょ!」
そういう心の声が、坊主頭の中で、いつも反響していました。