進学塾で頑張って、トップクラスの私立有名中学に合格したものの、「ダメな子になってしまった…」という例は多くあるものです。一体、どこに原因があるのでしょうか。* 本記事は、書籍『東大・京大に合格する子どもの育て方』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

名門私立中学校に入れば安心というわけではない

仮に、本来ならそれほど頭の柔らかくない子どもが、進学塾で必死にがんばった結果、最難関とされる中学校に合格したとしましょう。もちろん本人の喜びは言葉にできないほどでしょうし、保護者の方も大喜びされるでしょう。

 

けれども、ここは要注意です。中学受験を突破したのはいいけれど、そこで人生が終わるわけではありません。そこから新たな学校生活が始まるのです。そのことを、ぜひ考えてあげていただきたいと強く思います。

 

なぜなら、トップレベル校が本来求めているのは、柔らかな頭を持った子どもだからです。そうした学校の多くが中高一貫校で、独特なカリキュラムを組んでいます。まず、授業の進度が恐ろしく速い。例えば数学なら、中学3年生までの内容を中学1年生の終わりまでには終えてしまい、直ちに高校数学へと進んでいきます。そして中学校を終える頃には、高校の数学Ⅱ(普通なら高校2年生で学ぶ内容です)を修了しているのです。

 

中学入試の算数問題なら、解法を必死で暗記することで何とか対応できたかもしれません。けれども、本質的な論理的思考力が求められる数学に、暗記は通用しません。自分の頭で考えて理解することができなければ、授業にはまったくついていけないのです。

 

それでも小学校時代のやり方を続け、問題の解き方を覚えることで、何とかして、ついていこうとがんばるかもしれません。がんばることにかけては、小学校時代から飛び抜けた力を持っている子どもたちですから、それぐらいの努力は惜しまないでしょう。けれども、考えて理解することを前提とした進度の速さに、暗記で対抗するためには壮絶な努力が必要となります。ほんの少しでも気を抜き、サボっただけでついていけなくなる。ついていけなくなると、その先の学校生活は悲惨なものとなる恐れがあります。

 

憧れだったトップ校にせっかく入れたのにも関わらず、途中で脱落してしまう。小学校時代のがんばりが水の泡と消えてしまうのです。もしかすると、それぐらいで済めば、まだマシなのかもしれません。仮に学校の授業についていけなくなった結果、途中でやめてしまうようなことにでもなれば、その傷は一生ついてまわる危険性もあります。

 

頑張って「暗記する」だけでは、ついていけない世界が待っている。
頑張って「暗記する」だけでは、ついていけない世界が待っている。

 

ですから、子どもさんを進学塾にあずけている保護者の方には、ぜひ一度、自分の子どもの頭が柔らかいかどうかを考えていただきたい。これを切に望みます。

 

頭が柔らかいかどうかを見極める方法は、実は簡単です。子どもがまだ習っていない難問を、与えてみればよいのです。例えば月刊誌『中学への算数』(東京出版)には、学力コンテストのコーナーがあります。このコーナーに掲載されている問題に挑戦させてみてください。問題を見て3分も経たない間に「無理だ、こんな問題は習っていない」と音を上げるようなら、まず頭が柔らかくないと判断すべきでしょう。逆に、この問題を面白がり、時間をかけてあれこれ試行錯誤しながら考え続けられるようなら、頭の柔らかさは相当なものだと考えられます。もちろん、現時点で投げ出したとしても何も問題はありません。今、頭が柔らかくないからといって、これから先もそうだとは限らないからです。頭を使う訓練をすれば、誰でも必ず頭は柔らかくなります。

 

ただ、少なくとも今はまだ頭がそれほど柔らかくないことがわかったなら、中学受験を無理にさせないことが賢明な選択肢となります。レベルの高い進学塾でトップクラスに入れるだけの基礎学力があり、しかもがんばる力と暗記力にも優れているのなら、公立中学に進めばよいのです。公立中学の授業は、私立に比べれば、はるかにゆっくりした進度です。ですから授業についていけないはずはなく、簡単すぎると油断さえしなければ、それほど苦労することなく学年トップクラスに入れるでしょう。

 

そうした環境の中で、少しずつでいいから頭を使う勉強に取り組むことを薦めます。最初は、慣れない勉強に苦しむかもしれません。けれども、人並み以上にがんばる力があれば、頭を使う練習を続けると、いずれその楽しさに目覚めるはずです。考えることによってものごとを理解できるようになれば、学校の授業がもっと楽になります。数学や理科などの論理的思考力があれば対応できる教科については、おそらく授業を聞いているだけで十分理解できます。宿題をサボったりするのは問題だけれど、それ以上の勉強をあえてする必要がなくなる可能性もあるのです。それで学年トップクラスを維持することも、ほとんど苦労せずに実現できるでしょう。

 

結果的に、高校受験では公立のトップ校に進めるでしょうし、考える力を伸ばしていけば、大学受験でも国公立上位校が合格圏内に入ってくるはずです。

 

ここで一つ注意してほしいのが、私学のトップ中学にはついていけないにせよ、二番手グループぐらいの学校なら大丈夫なのではないかと考えることです。実は私立中学の二番手グループほど、進学塾並みの詰め込み教育を徹底しています。その背景にあるのは、進学塾がトップレベル校の合格実績をPRすることで入塾者を集めるのと同じ理屈です。二番手グループの私立中学も中高一貫校がほとんどで、そうした学校では、例えば東大や京大に何人入ったかがPRのためには重要なポイントとなるのです。

 

もちろん、そうした学校に入って、小学校時代に引き続いて、さらに6年間、必死にがんばり続ける選択肢を否定するつもりはありません。けれども、そんな学校から例えば京大に進学した学生には、大学に入ってから専門分野についていけないとか、燃え尽き症候群になっているなどという話を聞きます。

 

ここはぜひ、保護者の方には、お子さんの進路についてしっかりと考えていただきたいところです。

子どもの力を間違った方向に使わせている

いわゆる私立の最難関校に合格する子どものほとんどが、頭の柔らかな子どもたちです。彼らも多くが進学塾に通いますが、塾の勉強で学力を伸ばすというより、本来の頭の柔らかさで学力が伸びていくというべきでしょう。進学塾は、受験のためのテクニックを教えるなど、彼らがより確実に合格できるようサポートしているのです。

 

もちろん、進学塾にいるのは頭の柔らかな子どもたちだけではありません。考える力はそれほどなくとも、がんばる力なら負けない子どもたちもたくさんいます。彼らにも合格テクニックの詰め込み教育を徹底することは、先に述べました。その狙いは、最難関校への合格は難しいとしても、次のランクの難関校に一人でも多くの合格者を出すこと。合格者総数が塾の評価に影響するからです。

 

そのため、あの手この手を尽くして、子どもたちを鍛え上げようとします。小学6年生ともなれば、元旦から鉢巻を巻いて特訓に励む場面も見られます。そんな子どもたちの姿を見ていると、あまりにも健気で涙が出てきます。と同時に、激しい憤りを抑えることができません。

 

なぜなら、彼らのがんばる力を「考える」勉強、「頭を使う」本来の勉強に振り向けてあげることができれば、最難関校に合格することも夢ではないからです。がんばる力のある子どもたちが、「考える」勉強に集中的に取り組めば、驚くほど短期間で伸びる可能性があります。それにより「頭が柔らかく」なれば、暗記によってではなく、考える力をつけたことによって、最難関校に合格できるのです。しかも、考える訓練に必要な時間は、必死になって暗記するため時間の半分、いや3分の1でもよいかもしれないのです。

 

それにも関わらず、せっかくのがんばる力を間違った方向に使わせている。そうした指導を行う進学塾に対しては複雑な思いがあります。同時に、そうした塾に子どもを通わせる保護者の方々には、ぜひ考え方を変えていただきたいと思います。

 

もちろん、考える訓練に集中したからといって、すべての子どもが中学受験で望む結果を得られるとは限りません。けれども、程度の差こそあれ、訓練すれば考える力を必ず高めることができます。

 

だから、万が一、中学受験でうまくいかなかったとしても、自信を持って公立中学校に進めばよいのです。その方がきっと明るい未来が開けます。

 

がんばる力を持っていて、少しずつでも考える力がついてきた子どもが公立中学に進めば、普通にトップクラスに入るでしょう。そうなれば自分はできるんだという自信が自然に培われるはずです。さらに頭が柔らかくなっていけば、学校の勉強はどんどん楽になります。知らず知らずのうちに、理数系の科目に強い子に育っていきます。

 

結果的に高校受験では、公立トップ校に合格するのも、それほど難しいことではなくなります。しかも、さらに頭を使えるようになっているのです。私立の難関校で落ちこぼれないように必死にがんばることもなく、クラブ活動をして高校生活を十分に楽しみながら、国公立大学にすんなりと進んでいく。そんな人生の方が、子どもたちにとってはよほど幸せだと思います。

 

 

江藤 宏

灘学習院 学院長

 

東大・京大に合格する 子どもの育て方

東大・京大に合格する 子どもの育て方

江藤 宏

幻冬舎メディアコンサルティング

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