株・人民元上昇…米国最大の貿易相手国は「いまだ中国」の現実

中国・国家統計局が7月16日に発表した中国経済の第2四半期GDPの伸び率は前年同期比3.2%増だった。 第1四半期は同マイナス6.8%と惨憺たる状況にあった。そこからは大きく伸びたことになる。また、鉱工業生産は前年同月比4.8%増加と3ヵ月連続で増加した。一方で、小売売上高(6月)は前年同期比で1.8%減少し、5ヵ月連続で減少となった。1-6月の固定資産投資は前年同期比3.1%減った。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO、長谷川建一氏が解説する。

第2四半期の中国GDP成長率は好転

全体としては、予想を上回ったと言える数字で、中国経済が新型コロナウイルス感染拡大の影響から全体として回復しつつあるとの安心感を与える統計だった。しかし、明暗ははっきりと分かれている。インフラ・不動産投資などが好調に見えるのは、与信面の刺激策など、政府の支援策は企業部門に重点が置かれており、その効果が大きいためである。政府の支援策が今回の急回復を主導したという側面は強いだろう。

 

一方で、小売売上高や民間投資の回復は遅れている印象で、消費者は慎重であり、個人消費の回復には、時間がかかると受け止めるべきだろう。実際に、都市の商業施設や飲食店などは、閉鎖措置など厳しい感染抑制策からは徐々に緩和されているものの、客足の戻りは鈍いと伝えられている。

国内需要は政策効果もあり回復。課題は輸出回復。

今年1-3月期に、中国政府は厳しいロックダウンを実施して、経済活動を全国規模で抑制した。これにより、事実上一時停止した経済を支えるため、3月以降、様々な経済対策を実施してきた。

 

税控除や増値税の減免といった減税措置、企業向け社会保障費の減免、各種管理費用の免除、納税申告の期限延期、国有銀行による中小企業向け融資の拡大、企業の利払い延期容認、雇用調整助成金の支給など、実に幅広い措置が取られてきた。また、新規の企業融資に係る支払利子の補填など、資金繰り難に直面する中小企業を支援して、中小企業の倒産やそれによる雇用の悪化を回避してきた。他にも、商品券の配布や5Gに関連した投資の拡大、自動車の購入規制緩和など、需要刺激策が講じられてきた。

 

こうした措置が功を奏して、ロックダウン解除以降は、内需が回復し始めた。新車販売台数は新型コロナウイルスの影響で今年2月・3月に歴史的な落ち込みを記録したが、4月は前年同月比でプラスに浮上している。

 

生産現場も順調に再開したことで、PMI(製造業購買担当者景気指数・国家統計局)は、2020年2月に35.7と大きく低迷したものの、翌月3月には52.0と大きく持ち直し、4月50.8、5月50.6、6月50.9と景況拡大と悪化の分かれ目である50を上回って推移している。

 

サービス業PMI(財新)は、2月に26.5と驚くほど落ち込んだが、5月は55.0で景気判断の節目となる50を超え、6月は58.4へと一段回復し、中国国内での経済活動が回復基調にあることが示された。

 

内需は回復が認められる一方で、輸出は3月に前年同月比-17.2%と大きく落ち込んだ。その後、4月に一旦プラスに転じたものの、5月は再び同3.3%減となり、欧米からの外需の伸び悩みが響き、低迷が続いている。

 

世界需要の回復が弱い現状では、輸出の勢いが戻らなければ中国経済の回復基調入りは確認されないとの見方も根強い。その点は、全人代(5月22日から28日)の政府活動報告でも、パンデミックと世界経済・貿易環境に関する強い不確実性が中国経済を左右しかねないリスク要因として触れられたとおりである。当面、楽観は許されないだろう。

 

しかし、新常態経済への脱皮、すなわち、中国国内の所得水準を持続的に高め、貿易主導型の経済から国内の消費主導型の経済への転換を進める中国政府にとっては、構造改革の追い風との見方もある。これは、ある意味では、中国経済のポストコロナのテーマの一つと言えるだろう。

中国株式相場は上昇してきたが…

中国の株式相場は、今年3月に世界的な株式相場の下落とともに急落を経験したが、4-6月は順調に戻り歩調となり、代表的な株価指数であるCSI300では、7月に入っても上昇を続けて3月高値を超え、7月9日には、4840.77ポイントまで上昇した。

 

1日当たりの売買額も連日1兆元を超えており、市場に参加する個人投資家にも広がりが見られる。低金利や一部の人気理財商品での初の元本割れなどで株式に資金が流入している側面もあるようだ。

 

7月6日には、中国・新華社系の証券新聞である中国証券報が、健全な強気相場の準備が整いつつあるとの認識を示した。資本市場改革が進められてきた株式市場には国内外から資金が集まっていることや、ポストコロナで中国経済が回復しつつあることを理由としてあげている。

 

また、急速に発展するデジタル経済化への資金確保と、国家間の競争での影響力強化を念頭に政府の支援も指摘し、株式相場の上昇は必要との異例のコメントも掲載した。景気回復を印象づけたい中国政府による官製相場の様相も呈してきた。

 

株価の重しとなりかねない米国との関係は、通商交渉での駆け引きやハイテク産業での競争激化、新型コロナウイルス対応を巡っての批判など、緊張関係にある。しかし、6月17日の両国外交トップであるポンペオ国務長官と楊政治局員が会談して、1月に合意した両国間の第1段階の通商合意を履行することで合意し、中国側はトランプ政権の機先を制しているとも言える。

 

4月には中国が米国の最大の貿易相手国に返り咲いた。
4月には中国が米国の最大の貿易相手国に返り咲いた。

 

実際、4月には中国が米国の最大の貿易相手国に返り咲いている。米国の農家や輸出業者に限らず、再選を目指すトランプ政権にとっても、中国とは争うことはしても、叩くことはできない大切な存在である。香港国家安全維持法を巡ってのやり取りでもトランプ政権は、VISA発給の停止措置などは発動しても、より本腰の入った厳しい対応には出ていない。

 

米国との関係悪化は株式相場の上値を追うには重しとなるが、その懸念も当面ないとなれば、株式相場にとっては下支え要因であろう。その場合、相場の鍵を握るのは、輸出の回復、つまり世界的な需要の回復が本格化するのにどれだけ時間がかかるかということになろうが、これには、やや懐疑的にならざるを得ない。したがって、当面は欧米株式市場と同様に、高値波乱の展開に注意をしておくべきではないかと考えている。

人民元も上昇傾向鮮明だが

新型コロナウイルスの感染拡大を材料に下落圧力にさらされ、5月27日には1ドル=7.1671人民元まで下げていた人民元相場も、中国国内景気の回復が確認されてくるに連れ、上昇トレンドが鮮明になってきた。管理フロート制を採られる人民元は、為替レートの変動は市場のメカニズムに任されるものの、人民銀行(中央銀行)が発表する「基準値」から±2%以内に変動幅が抑えられる。人民銀行の動きは非常に重要だが、6月10日には、人民銀行が人民元相場の弾力性を高めるとコメントして、人民元の切り上げを方向づけた。易網総裁も、景気回復を後押しするため、人民銀行は潤沢な流動性を維持していくと語り、世界の投資家にとって人民元は極めて魅力的な資産だと指摘している。

 

7月に入って、株式相場の上昇につれる形で、人民元は節目である1ドル=7.00人民元を上回ってきた。先週(7月13日-17日)も14日以外は、基準値で7.00人民元を上回ってきた。当面は、世界的に新型コロナウイルスの感染拡大は継続していることから、安全資産と位置づけられる米ドルが、大きく調整する段階には至らないが、人民元が一方的に上昇を継続するとは予想し難い。そのため、人民元が現在の水準から急ピッチで上昇を続けるとは考えていないが、中国国内景気の回復期待は人民元を下支えすることにもなり、株式相場に大きな波乱がなければ、人民元は緩やかな上昇トレンドを維持する材料となるだろう。

 

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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