「父が恥をかかないように」長男の懇意が悲劇を生んだ
山田家では1カ月前に83歳の父親が亡くなりました。母親は6年前に他界しているので、3人兄弟のうち54歳の長男・Aさんが喪主となり、葬儀を執り行いました。
山田家は昔からの資産家で、亡くなった父親は、いわゆる地元の名士でした。しかし遺言もなく、生前に父親から「こんな葬儀をしてほしい」という希望を聞いたことも、葬儀に関する話し合いを親子でしたこともなかったため、長男であるAさんは、自分の判断で、葬儀一切を取り仕切りました。その結果、葬儀は非常に大がかりなものになり、戒名も「亡き父が恥ずかしい思いをしないよう、わが家の格に合ったものを」と思い、一番高額なものをつけてもらいました。
葬儀費用は香典代を引いて300万円かかりました。Aさんは、父親の相続財産の一部を葬儀費用に充てるつもりで、一時的な立て替え分として、自分のお金から300万円を葬儀社に払いました。
ところが葬儀後、ひと段落して、妹のB子さん、弟のCさんと遺産分割の話し合いをしたときのことです。
B子さんが、「お香典を引いても300万円もかかったってどういうこと? どうしてこんなにお金がかかるお葬式をしたのよ! 兄さんが見栄を張りたかっただけじゃないの? 遺産から出してくれなんて、とんでもないわ」と言いだしたのです。
Aさんからすれば、全ては長男としての責任を果たそうとしたまでのことです。兄弟たちから感謝こそされ、なじられる筋合いはありません。これを発端として兄弟仲が険悪になり、遺産分割協議は決裂。裁判にまで発展しかねない状態が続いています。
親としては、自分の葬儀費用のことで兄弟が決裂するとは、到底、想像もできないことでしょう。「うちの子どもたちに限ってあり得ない」と感じる人も多いのではないでしょうか。
ところが、実際にこのようなことは非常に多く起こっているのです。