日本の東西分裂を回避した「東京奠都」という究極の大英断

ビジネスで海外の人々と関わる際、自国の歴史の知識は必須だといえます。しかし、日本人が注意しなくてはならないのが「外国人に関心の高い日本史のテーマは、日本人が好むそれとは大きく異なる」という点です。今回は、株式会社グローバルダイナミクス代表取締役社長の山中俊之氏の著書『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)から一部を抜粋し、「東京奠都」の理由と、海外の人への説明が難しい、日本の「天皇の存在」について解説します。

なぜ、天皇は京都から離れることになったのか

外国人に明治維新について話す際に、東京奠都(てんと)について言及する必要があるでしょう。実質的には東京「遷都」なのですが、京都市民の心情等に配慮して、都を“移す”のではなく都を“定める”という意味の奠都という用語が用いられたのです。教科書等では、東京奠都についてはあまり多くの説明がなされていません。

 

千年以上にわたり京都を拠点としてきた天皇が関東に移るというのは、天皇家にとっても公家にとっても極めて大きな出来事であったことに相違ありません。

 

朝廷や公家の内部に「なぜ東京にいかなくてはいけないのか」「千年の都・京都を離れるなどもってのほか」といった意見が噴出したことは容易に想像できます。

 

天皇を身近に感じてきた京都の市民にとっても大きな衝撃でした。なし崩し的に東京に行ってしまった天皇について皇后も東京に移ると決まった時に、京都御所には多くの京都市民がつめかけ「皇后さま、東京にいかないで」と陳情したともいわれます。

 

一般に東京奠都の理由は、次のようなことだと言われています。

 

・東北地方や北海道に残る幕府軍を制圧するには京都では西に寄りすぎている

・京都や大坂は幕末の争乱やその後の戊辰戦争によって焼かれて、首都として適切な場所がなかった

・京都では旧来の公家勢力の影響を受けて新しい日本が築けない

・商業が盛んな関西地域は政治的中枢がなくても繁栄するが、江戸は衰退する

 

もし明治維新後も天皇が京都に留まり、京都(又は当初検討された大坂)が首都になっていれば、江戸をはじめとする関東や東日本は、戊辰戦争の爪痕、官軍に対抗したことが尾を引いて新政府に対する反発が長く残り国民感情が分断された可能性があります。東西の分裂や対立は、天皇が関東に行くという新政府による究極の大英断で回避されました。

 

「東京奠都」という大英断により、東西分裂を回避することができた
「東京奠都」という大英断により、東西分裂を回避することができた

 

現在は東京一極集中についての議論が盛んであり、そのための是正策が政策の俎上(そじよう)によく載せられます。長きにわたり地方圏からは人材が流出しており、地方が疲弊しているのは事実であると思います。

 

「関東が衰退してはいけない」という思いで東京奠都を実行した凄腕政治家の大久保利通も、150年を経て、政治だけでなく経済も含めた東京一極集中がここまで進み、弊害が出るとは予測できなかったでしょう。利通も草葉の陰で驚いているかもしれません。

海外の人への説明が難しい、日本の「天皇の存在」

さて、天皇制を海外の人に伝えるのは、非常に難しいことです。私もさまざまな国々の人から質問を受け、苦労してきました。

 

天皇制について、憲法に定められた象徴としての役割を基に現代的意義を世界の人々に説明する際の最も大事なポイントは次の二つだと考えます。

株式会社グローバルダイナミクス 代表取締役社長

神戸情報大学院大学教授。「世界と日本」の歴史や文化に関する企業研修やセミナーを多数実施。1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、90年外務省入省。エジプト、英国、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。また、首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、株式会社日本総合研究所入社。全国の自治体改革の案件に多数関与。09年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にてグローバルリーダーシップの研鑽を積む。10年、グローバルダイナミクスを設立。SDGsカードゲームファシリテーターとしてSDGsの普及にも務める。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士

著者紹介

連載世界96ヵ国をまわった元外交官が教える「外国人にささる日本史12のツボ」

世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ

世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ

山中 俊之

朝日新聞出版

ビジネスで海外の人々と関わるのであれば、自国の歴史の知識は必須だ。しかし外国人に関心の高い日本史のテーマは、日本人が好むそれとは大きく異なる。本書は海外経験豊富な元外交官の著者が外国人の興味を引くエピソードを解…

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