ビジネスで海外の人々と関わる際、自国の歴史の知識は必須だといえます。しかし、日本人が注意しなくてはならないのが「外国人に関心の高い日本史のテーマは、日本人が好むそれとは大きく異なる」という点です。本連載は、株式会社グローバルダイナミクス代表取締役社長の山中俊之氏の著書『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)から一部を抜粋し、著者の外交官時代の経験をもとに、外国人の興味を引くエピソードを解説します。

話のネタにすると喜ばれる「日中交流」の歴史

鎌倉から室町時代前期にかけて交易で扱われた中心的なものの一つは唐物(からもの)といわれる珍しく贅沢な美術品でした。日本には当時からすでに普段の生活必需品は存在していたので、貴族は競って唐物を贈答品としていました。朝廷は遣唐使の代わりに唐物を買い付けるために入唐使(にっとうし)を送ったほどです。それだけ中国のものを喜んだのです。

 

茶道の茶器においても、千利休の時代以前の15世紀までは唐物が重宝されました。

 

当時の日本で唐物が重視されたことは、一般の中国人は知らないことが多く、歴史の一コマとして話題にすると喜ばれます。

 

鎌倉幕府は、宋とは公式の外交関係を持たなかったのですが、民間同士の交易や私度僧(律令時代に官許なく出家した僧)が宋に渡って修行を積むなどの交流は続きました。

 

この時代の宋との交易の拠点として発展したのが博多です。東海道・山陽新幹線の終着駅名が福岡でなく博多になっているのも、博多が長く貿易の拠点として歴史上影響力を持ってきたことと関連しているという人もいます。

 

一方、福岡という名称は江戸時代に黒田藩が同地に成立してから使われるようになりました。博多のほうが福岡よりも、より古くから使われているのです。

 

現在福岡は、日本の大都市の中で若者のIターンなどの移住や起業が多い街としても知られています。2019年1月時点の人口動態調査によると、福岡市の過去1年間の人口増加数は、1万人を超えて、全国の市の中で1位です。現在400社に上る外資系企業が福岡県に営業や生産開発拠点、研究開発拠点を持っており、特に自動車部品や医療機器関係の集積が進んでいます(JETRO資料)。

 

外資系企業への自治体の助成制度などが一定の役割を果たしていることは事実でしょうが、中世以来続く世界に目を向けた風土が好影響を与えているようにも思われます。

 

このような話もまた、小ネタとしてもっておくといいかもしれません。

日明貿易は、近代以前の「日中貿易の黄金時代」

さて、本論に戻ります。

 

宋を滅ぼし中国を支配した元が14世紀に崩壊すると、新たに誕生した明との間で再び良好な関係が生まれました。

 

日明貿易は、近代以前の日本と中国の貿易の黄金時代といってよいでしょう。室町幕府は、中国との貿易が大きな利益を上げることを博多の商人から聞いていました。

 

そして室町幕府が安定した15世紀初めに三代将軍足利義満は遣明使を送り、明との貿易を始めたのです。室町幕府は、この遣明使によって大きな利益をあげたのです。

 

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    山中 俊之

    朝日新聞出版

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