「ゴーストマンション予備軍」の特徴は…
◆ゴーストマンション症状1 初期状態(初期状況)
初期状態(初期状況)の可能性の見分け方としては、皆様の分譲マンションの長期修繕計画書の最終年限が、マンション終焉期を表わせているかどうか、つまり、存在する最終年限が表わされているかどうかにつきます。
現在、一般に作成されている長期修繕計画書は、25年間とか30年間です。そして5年ごとの見直しで5年分を追加して行きますが、ほとんどのマンションでは5年ごとの更新はされていないと考えられます。
実際には、大規模修繕工事時の直後に修繕工事費の実績を基に10年から15年程度の更新を主眼とした、25年間程度の修繕計画がなされるのが一般的だと思っています。つまり、次回予定の大規模修繕工事の時期までの、修繕積立金の状態を確認する為の計画になっているように思われます。
次回大規模修繕工事の想定工事項目や想定工事費の見直しもされ、修繕積立金の値上げの要否が検討されます。最終年限を含んだ超長期修繕計画になっていないので、仕方のないことです。
5年ごとの見直しは、国土交通省の標準指針が規範になっています。従いまして、各々の管理組合が管理している長期修繕計画書は、最長約25年間の長期修繕計画書が準備されていることになりますが、これはこれでひとつの将来計画ではありますが、十分ではありません。
なぜなら、建物の耐用年数には触れず、25年間の修繕計画書の最終では、修繕費用の累計額と修繕積立金の累計額が同額として示されていますので、最終年度の次の年は、修繕積立金の残高はゼロとなり、現実的な計画書にはなり得ません。
国土交通省の修繕積立金に関するガイドラインは、考え方を示しているものと思われ、実際に修繕計画書を作成する時は、もっと長期間の修繕計画書を作成して、修繕工事と修繕積立金のバランスを見る必要が出てきます。
また、この計画書では、超長期で見ると、エレベーターやタワーパーキングなど、当初計画では予定されていなかった修繕工事項目も必要な修繕工事として後から出てきて、修繕積立金の値上げということも起こります。
なにより不充分なのは、当該マンションの終焉期への対応策、つまり建物の解体費とか急に起こり得る地震など自然災害被害の復旧費の手だてが為されていないことです。急に必要となった復旧費などに、使途が明確になっている長期修繕計画書の修繕積立金をあてることは、計画書自体の破綻を意味します。
ほとんどの建物は「ゴーストマンション初期状態」
このようなマンションは、いずれゴーストマンションになる予備軍というべきマンションなのです。
だから区分所有者は、マンションの終焉対応について、築年数の浅い時期から勉強と検討をする必要があるのです。早ければ早いほど、新旧区分所有者間で平等な計画ができ、かつ負担感も軽減させることができます。しかし、現実問題として、築年数が浅いうちからの検討は、無理があると思われますので、せめて築30年から40年頃には、検討及び準備に入ることをお勧めします。
検討の目標としては、最も重要かつ困難なことかもしれませんが、区分所有者による管理組合解散に関するコンセンサスの醸成と、管理組合の解散時期(マンション建物解体時期)の想定です。
この時の話し合いのテーマとしては、納得できるマンション生活を、いつまで持続させるのかや、工学的観点からの客観的な建物寿命評価、あるいは現実的な空き住戸や管理費、修繕積立金滞納者など管理組合運営の将来性、そして老朽化や現在発生している不具合現象の事実などでしょうか。
この時のコンセンサスの目標は、明確でなくてもボンヤリとしたものでも構わないと思います。マンションの仕舞い方を話し合いましょう、との雰囲気がでれば十分と思います。検討する資料としては、現在、管理している長期修繕計画書およびマンション解体時期まで表わした超長期修繕計画書になります。
これらの超長期というべき修繕計画書がない状態が、ゴーストマンションの初期状況です。ほとんどの分譲マンションはこの状態と思われます。
一日でも早く、区分所有者の誰かが気付き、そして話し合いや勉強を始めなければなりません。できることならば、新築当初から検討を勧める国土交通省によるガイドラインの整備や強制的な解体準備積立金・災害対応準備積立金制度の法整備を提案いたします。
自動車やある種類の電化製品を購入する時に、自然環境保護や不法投棄の未然防止策として、リサイクル費用とか廃棄費用を先払いする制度になっていますが、これと同様に、戸建住宅や分譲マンションにも、解体費用積立金制度や供託金制度などの法整備が必要と考えます。
時すでに遅し「再生不能マンション」の特徴は…
◆ゴーストマンション症状2 悪化状態(再生不能状況)
この状態では、時間だけが経過して行き、築60年とか築70年頃になってくると、管理組合が機能しておらず、管理会社からは対応の煩雑さから見放され、管理業務委託契約の更新を拒まれ、自主管理するしかなく、将来計画も無く、資産価値の無くなった分譲マンションの状態になりますので、空き住戸は多くなりますが、転売が進まないマンションとなります。
適切な修繕も、修繕積立金の不足により実施されなくなり、見た目にも汚くなってきます。目に見えない設備機器や配管類の状況も腐朽して行き、水漏れなどの事故発生も多数散見されるようになってきます。しかし、修繕維持管理や修繕計画書も適切でないため、積立金も無く補修工事もできない状況になっています。
これらをまとめますと、以下のようになります。
1.解体の為の準備金はない=マンションの終焉意識のなさが理由ですが、個別の区分所有者自身の問題ではないので、特に動かない。この頃になると、転売できなくとも転居していく状態になり、外見からでも、荒廃しているように感じられるようになります。
2.総会決議なし=区分所有者の総意の確認手段がなくなり、リーダーも不在で、今さらどうしようもできない状態になります。
このような状態でも、固定資産税や他の税金の納税義務や、あるいは電気、水道、ガスの供給を受けなければならず、基本料金の支払いや配管の管理などに影響も出てきます。
区分所有者による、管理組合解散決議も解体費用の積立もない状態のため、管理組合による解体もできず、ましてや行政による解体などは到底できない。外部廊下や外部階段などは、腐朽による崩壊の危険や、災害時の消防設備や避難設備の不作動など、社会的にも悪影響を及ぼすことが予想される時でも、行政による手出しは難しいと考えます。もちろん、建物や消防設備の定期調査や定期検査報告では、指摘を受けることになります。
「リーダーの不在」がさらなる老朽化を招き…
前述の通り、報道では、戸建住宅などにおいては、行政による民家の代執行解体撤去がされていますが、分譲マンションは金額が大きくて、税金支出では議会承認も受けられず、太刀打ちできません。
今までに行われた代執行解体費で、当該所有者からの資金回収は約10パーセントと報道がありました。
3.リーダーの不在=このような状態になっても、管理組合のリーダーシップを発揮してくれる区分所有者が出れば良いのですが、無理でしょう。区分所有者は、所有権はそのままにして転出していく状態です。管理費や修繕積立金の支払い責務も曖昧な状態になってくると思われます。
※本記事は連載『分譲マンション危機』を再構成したものです。
小林 道雄
一級建築士 設備設計一級建築士