国民の約10人に1人は分譲マンションで生活している今、マンションに住む人たちは大きな危機に瀕している。老朽化と大規模修繕、管理組合との付き合い、住民の転居と高齢化……。マンション購入時には明かされない課題を解説。 ※本記事は一級建築士である小林道雄氏の書籍『分譲マンション危機』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。

「漂流廃墟マンション化まったなし」怖すぎる事実

◆何故、皆様は自分のマンションの将来について無関心なのでしょうか

 

管理費と修繕積立金を支払っていれば、管理会社や理事会が将来にわたって、うまく運営や財産維持をしてくれると考えているのでしょうか。賃貸マンションと同じ感覚なのでしょうか。

 

これにより、大多数の区分所有者は、共同生活維持活動には『無関心』であるのでしょうか。理事会役員のなり手不足もコミュニケーション活動も『無関心』となります。この無関心は、皆様の個人財産である分譲マンションでも無関心なのですから、環境汚染にも無関心になるのでしょう。

 

違法投棄は環境破壊に繫がりますが、分譲マンションの建物もしっかり終焉処理をして、建物解体までやらなければ違法投棄と変わらず、国や環境を破壊することに繫がってしまいます。

 

◆マンションの終焉処理に対する将来計画を持っていない分譲マンションは必ず漂流廃墟マンション化していく

 

分譲マンションのような全く見ず知らずの他人が、ひとつの建物の中にある各住戸を所有し、管理費や修繕積立金を拠出して、あてがいぶちの管理組合を結成し、共同で資産を維持していく訳ですが、建物や生活の運営は難しいものです。

 

特に、現在の生活に関係のない事柄については無関心なのですが、自分たちの寿命に比べれば建物の寿命は少し長いために、大多数の区分所有者の『無関心』が、健全であった筈の新築当時の分譲マンションに無意識、無感覚に蝕まれていき、劣化が進むと、無意識の内に回復も解散もできない、浮遊する限界マンション(※)になっていくのです。

 

言い方を変えれば、この分譲マンションの将来についての対応計画を持っていないことが、漂流廃墟マンションを生み出すのです。

 

悲しいことかもしれませんが、例外なく全ての分譲マンションも、このように年ごとに劣化していきます。区分所有者が変わっても着実に劣化していきます。将来計画を持つ以外は、例外なく浮遊限界マンションになっていきます。ここでも区分所有者は、将来のことは自分に直接関係ないので『無関心』には変わりはありません。

 

※  浮遊限界マンションの定義:管理組合運営や建物管理が適正に行われておらず、改善や復旧の為の計画や人材及び資金もなく、ただ漫然と時間だけが経過している状態が続き、管理組合の解散や建物の解体もできない状態で浮遊する廃墟的な分譲マンション

15年後「必ず訪れる」分譲マンションの末路

◆2035年頃には『浮遊限界マンション』の存在そのものが顕在化する

 

東京オリンピックや大阪万博も終わり、世間が華やいだ一時的な賑わいが収まり、建設や観光の経済活動にも落ち着きが見えて、静かになった2030~2040年頃には、分譲マンションについては、高経年マンションが増加してきています。

 

浮遊限界マンション
浮遊限界マンション

 

そして、築40年以上の超高経年マンションは、空き住戸も多くなり建物維持活動も管理組合活動も停滞している、不全浮遊の限界マンションが目立ってきます。夜になっても部屋に明かりがつかず、人の出入りもなく、外壁には落書きがありゴミも積まれており、得体のしれない者が不法占拠するケースも出てくるかもしれません。

 

マンションの区分所有者に管理能力がなく、その上、解体も打開策も打ち出せず、管理状態にもないゴーストマンションとなります。正に、社会的迷惑物体となります。社会風紀や規律にそぐわない存在となります。

 

しかし、個人的な財産物件である為、行政の介入は一般的には、できないものと考えられます。余程のこと以外は介入できないと思います。社会治安に悪影響が出ているとか外装材などの剝落により第三者に被害を及ぼす恐れや災害時に避難経路の遮断などの影響が予測される場合は、強制的な行政による改善命令や解体代執行は考えられますが、この場合も、かかる経費は、税金では社会的理解が得られませんので、解体する以前の区分所有者に支払い義務は残ります。

 

解体後の更地の土地売却費を充当するとか、区分所有者に維持管理不良による民事罰が科せられると思います。そうでなくては国民間で不公平となります。民間の所有財産の処分に公金である税金を充当することはできません。

長年置き去りにされてきた、「ひとつの事実」

◆ゴーストマンション化の原因を考える

 

根本的な原因は、今から考えると、新築当初の販売時点にあったかもしれません。皆様は、分譲マンションの売買契約時点で、いろいろ手続きなどの説明を受けたと思いますが、抜けていたことがふたつあると考えています。ひとつは「建物全体の耐用年数」の話と、もうひとつは「建物解体」の話です。

 

販売会社が悪いとかということではありません。大規模修繕計画書及び修繕積立金の根拠となる、屋上防水層や外壁塗装などの修繕周期などは説明してくれますが、建物全体の耐用年数の話とか建物解体の話は、今後50年とか60年先の話であり、新しい建物で新しい生活が始まる時に、伝える内容ではないと思われます。

 

売買契約により、所有権が皆様に移りますが、販売会社は、マンション管理組合の立ち上げ支援や、これからの生活維持のための管理費や修繕積立金の金額まで教えてくれます。しかし、一旦、所有権が移ると、住人の方が考えることかもしれませんが「建物全体の耐用年数」と「建物解体」には触れていません。

 

このことが置き去りにされてきたことが、原因のひとつだと思っています。しかし、今となっては、区分所有者の皆様で対処していかなくてはなりません。不動産といえども分譲マンションは、耐用年数が存在する、有時限財産であると理解しなければなりません。

 

もうひとつの原因ですが、管理不全マンションに陥ったとしても、これといった明確な現象や痛みはないに等しい、というように自覚症状がなく、世代を超える長きにわたる蓄積で、ジワーと押し寄せる現象であり、目に見える変化はないに等しいのです。

 

管理組合の運営にしても、理事会の活動にしても、今後十数年先までの財産保全管理に終始していて、マンション建物の一生涯の期間全体の財産管理や、一生涯にわたる維持管理の計画はなく、区分所有者から徴収する修繕積立金についても、究極的には、建物の維持管理をいつまで継続するのか、更に、解体費用の準備などの概念はなく、十数年先までの修繕工事が計画されている長期修繕計画書とその修繕積立金のみが検討されており、その先のことは計画がなく、曖昧のままであったのです。今でもそうです。

 

これがゴーストマンション化の原因であると考えています。

 

 

※本記事は連載『分譲マンション危機』を再構成したものです。

 

小林 道雄

一級建築士 設備設計一級建築士


 

分譲マンション危機

分譲マンション危機

小林 道雄

幻冬舎MC

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