新型コロナウイルスの感染拡大で日本人の働き方が大きく変わった。東京都の外出自粛要請に始まり、政府の緊急事態宣言が出され、多くの企業でオフィスワークを在宅勤務に切り替えるなど対応に追われた。出版業界も例外ではない。出版社もリモートワークが始まり、新しい働き方が模索されている。通勤するサラリーマンが減ったため、都心部の大型書店は休業を余儀なくされた。出版業界も撃沈かと思われたが、実はいろいろなことが起こっていた。新型コロナ禍の下での出版事情をレポートする。

感染症対策は日本も世界も初動で間違った

10年も前に、なぜこの本を書いたのか、現実に起きたこととの誤差がなぜこれほど少ないのだろうか──、著者の高嶋氏が答える。

 

「当時、SARS(サーズ)、MERS(マーズ)、新型インフルエンザなどが流行したころ、今こそ感染症について書かねばと思い書き上げました。もちろん予言とかではなく、歴史的事実と科学的考察を重ね合わせてこうなるだろうと書いたのですが、今読み返してみたらわりと的を射ている。もしも当時、多くの人がこの本を読んでくれていたとしたら、もっと違った結果になったのではないかと思います」(NHK神戸放送局動画より)

 

高嶋哲夫氏は、知る人ぞ知るパニック小説の第一人者である。『富士山噴火』『都庁爆破!』『M8』(東京直下型大地震について)『TSUNAMI津波』『原発クライシス』(原発とテロ)『東京大洪水』(巨大台風)と、作品タイトルを並べるだけで背筋に緊迫感が走る。経歴もまた異色だ。慶應義塾大学工学部修士課程を修了し、日本原子力研究所研究員になった。1979年には日本原子力学会技術賞を受賞。科学技術の根拠が明示されているから、読者は素直に非日常の世界に身を委ねることができるのだ。

 

感染症に限らず、未曽有の自然災害や国家の緊急事態に直面したとき行政はどう動くか、人々はいかに自衛するか、将棋の有段者のように何十手先まで読めるのだと思う。とはいえ、事実は小説より奇なり。今回のコロナ禍は創作の世界を凌駕してはいないだろうか。編集者経由で高嶋氏からコメントをいただいた。

 

「基本的にはすべて想定内でした。日本も世界も初動で間違った。感染症対策は適切な“隔離”に尽きますが、それができていなかった。今回、これほどの騒ぎになったのは、他の自然災害と違って、自分が被害者になるかもしれないという恐怖からでしょう」

 

他の自然災害では被害者は一瞬のうちに決まり、自分たちは対象外となる。相手が目に見えないウイルスということで、必要以上の恐怖を抱いてしまったと高嶋氏は分析する。

 

「想定外といえば、日本を含むアジア圏と欧米の感染者、死亡者の数が違い過ぎること。いろんな説が出ていますが、単に生活習慣の違いとは考えにくいと思います。落ち着いたら世界が協力して調べるべきでしょう。将来は、さらに致死率の高いウイルスが出てくる可能性がありも今回の事態を検証して次に備えねばならない。一つの大きな解決策として『首都崩壊』(幻冬舎文庫)を書きました」 

 

『首都感染』では東京は閉鎖された。第二波の襲来が必至とされる今日、これ以上現実が虚構に近づかないよう祈りたい。

 

ちなみに『首都崩壊』の主題は、東京一極集中の回避と首都遷都である。


平尾俊郎

フリーライター

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