2020年6月調査 日銀短観

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

大企業・製造業・業況判断DIは▲34と6期連続悪化、09年6月調査(▲48)以来の低水準

 

大企業・非製造業・業況判断DIは▲17で3月調査のプラスからマイナスに転じる

 

20年度ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模設備投資+0.9%

 

大企業も中小企業も、製造業の雇用判断DIが「不足超」から「過剰超」に転じた点は気がかり

 

 

●6月調査日銀短観では、大企業・製造業・業況判断DIが▲34と前回3月調査(▲8)から26ポイント悪化した。悪化は6期連続で、09年6月調査(▲48)以来のマイナスになった。

 

●新型コロナウイルスの感染拡大の影響で世界的に経済活動が停滞し、景況感が急速に悪化したかたちだ。

 

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は17年12月調査で4%まで低下したが、そこを底に19年3月調査では8%に、6月調査では9%、9月調査では10%に、12月調査では12%、20年3月調査では19%と増加してきたが、今回6月調査で41%まで大きく増加した。

 

●なお、6月調査で「悪い」と答えた割合は「最近」では41%だが、「先行き」では32%と9ポイント減少の見込みである。一方、「よい」と答えた割合は「最近」では7%、「先行き」では5%で、2ポイント減少となっている。

 

 

●6月調査の大企業・製造業の業況判断DI▲34は3月調査の「先行き」見通し▲11より23ポイント悪化した。足元の景況感が予測より相当悪かったということになる。

 

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIは▲27と「最近」の▲34から7ポイント改善が見込まれている。6月調査の20年度の想定為替レートは107円87銭で、足元の実際の為替レート(7月1日東京市場寄り付き:1ドル=107円93銭)とおおむね同水準である。

 

●新型コロナウイルスの感染拡大の影響で営業自粛を迫られた業種を中心に非製造業も直撃した。大企業・非製造業・業況判断DIでは、前回3月調査の+8から今回6月調査は▲17と25ポイントも低下した。非製造業がマイナスとなったのは11年6月調査(▲5)以来だ。

 

●なお、大企業で唯一、3月調査より業況判断が改善したのは小売で、前回3月調査の▲7から今回6月調査は+2と9ポイント改善した。ステイホームでスーパーの売り上げが増えたことなどが影響していそうだ。一方、新型コロナウイルスの感染拡大で訪日外国人客が急減し、また県をまたぐ人々の往来が減少したことで大きく影響を受けた、宿泊・サービスの業況判断DIが▲91という史上最低水準になった。

 

●大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は17年9月調査19年12月調査まで4%または5%で安定的に推移していたが、前回20年3月調査で一気に8ポイント悪化し13%になった。今回6月調査では19ポイントも悪化し32%になった。

 

●大企業・非製造業・業況判断DIの「先行き」は▲14と「最近」の▲17より3ポイント改善が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「先行き」は22%で「最近」から10ポイント減少している。一方、「よい」と答えた割合は「最近」では15%、「先行き」では8%で7ポイントの減少だ。「よい」が増えないことからは、先行きが見えない新型コロナウイルスの感染拡大の影響に対する不安感の強さが垣間見られる。

 

●中小企業・製造業の業況判断DIは今回6月調査で▲45と3月調査の▲15から30ポイントマイナス幅が拡大した。3月調査の「先行き」見通しでは▲29とみていたので、足元の景況感は予測よりもかなり悪かったという結果である。

 

 

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10ヵ月ぶりのプラスになった。内需の底堅さを背景に、14年12月を新しい調査対象企業でみると25期連続してマイナスになっていない状況が続いていたが、20年3月調査で▲1と14年12月調査の旧企業ベースの▲1以来のマイナスがついてしまった。20年6月調査ではさらに悪化し▲26になった。▲26という数字は、慎重にみる傾向がある3月調査時点の「先行き」▲19さえも7ポイント下回る水準で、予測よりはかなり悪かったということになろう。

 

●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は▲47と「最近」▲45から2ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は▲33とこちらは「最近」▲26より7ポイントの悪化見通しである。

 

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになり、以降プラスが続いていたが、前回20年3月調査で▲4と19年12月調査の+4から8ポイント低下しマイナスになってしまった。今回6月調査では▲31と2ケタのマイナスになってしまった。「先行き」は▲27と6ポイント改善の見通しだが、終息が見通せない新型コロナウイルスの影響で改善テンポはかなり緩やかな状態が続く見込みである。

 

●ただし、売上高や経常利益の20年度の計画の前年同期比をみると、上期は大幅な減少傾向、下期は大企業の一部で増加傾向に戻るものの、多くは依然減少傾向という状況だ。

 

●雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は20年3月調査までは人手不足感が強く、「不足超」を意味するマイナスが2ケタであったが、今回6月調査では新型コロナウイルスの影響で、製造業が、大企業も中小企業も「過剰超」を意味するプラスに転じる結果となった。それでも非製造業では「不足超」の状態が続いており、大企業・全産業の雇用人員判断DIは▲3と前回3月調査の▲20から17ポイントマイナス幅が縮小したものの、マイナスを維持した。「先行き」は▲6と不足超がやや増加する見立てである。また、中小企業・全産業では3月調査で▲31であったが、今回6月調査は▲7と24ポイントマイナス幅が縮小したものの、マイナスを維持した。しかし、「先行き」は▲11と4ポイントマイナス幅が拡大する見通しだ。

 

●6月調査の20年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+3.2%になった。一方、20年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲16.5%だった。20年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は▲0.8%になった。

 

●また、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2020年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+3.1%。一方、20年度の中小企業・全産業で▲13.4%だった。20年度の全規模・全産業では+0.9%と19年度の+1.6%よりは低いが、新型コロナウイルスの影響がある中でプラスを維持した。テレワークや5Gなど新しい環境に備えた投資が下支えしている面がありそうだ。

 

●「企業の物価見通し」では、全規模・全産業でみて、物価全般の見通しでは、1年後が+0.3%と前回3月調査より▲0.2ポイント低下、3年後が+0.7%と前回より▲0.1ポイント低下、5年後が+0.9%と前回より▲0.1ポイント低下となった。新型コロナウイルスの影響による景気悪化や、低水準の原油価格の影響で物価上昇の鈍化が見込まれている。

 

●今回の日銀短観は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、製造業、非製造業とも、業況判断が大幅に悪化し、リーマンショックの時以来の水準になったが、当時の最悪水準(09年3月調査)は下回らなかった。5月中旬から下旬にかけ緊急事態宣言が解除され、経済活動が動き出したことから大企業では業況判断DIの先行き改善が見込まれてはいるものの、不透明感が強く改善のテンポは極めて緩やかである。また、今回の短観では製造業の雇用判断DIが「不足超」から「過剰超」に転じたことが気がかりだ。次回9月調査が注目される状況だ。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年6月調査 日銀短観』を参照)。

 

(2020年7月1日)

 

宅森 昭吉

株式会社三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト 

 

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 理事・チーフエコノミスト

旧三井銀行(現三井住友銀行)で都市銀行初のマーケットエコノミストを務める。さくら証券チーフエコノミストなどを経て現職。
パイオニアである日本の月次経済指標予測に定評がある。身近な社会データを予告信号とする、経済・金融のナウキャスト的予測手法を開発。その他、「景気ウォッチャー調査」などの開発・改善に取り組んできている。「より正確な景気判断のための経済統計の改善に関する研究会」など政府の経済統計改革にも参画。「景気循環学会」常務理事。
著書に『ジンクスで読む日本経済』(東洋経済新報社)など。

著者紹介

連載【宅森昭吉・理事・チーフ エコノミスト】エコノミックレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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