近年では相続税の課税はますます重く、また、これまで許容されていた対策にも規制がかかるなど、非常に厳しいものとなっています。大切な資産を減らすことなく無事に相続を乗り切るには、どのような手段があるのでしょうか。「相続実務士」のもとに寄せられた相談実例をもとにプロフェッショナルが解説します。※本記事は株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。
相続人である義父の協力で、自宅は無事妻のものに
しかし、ご主人の法定相続人である父親が、マンションを夫婦2人で購入したことを承知しており、手続きに協力するといってくれたのは幸いでした。義父とF井さんとで必要な手続きを調べるうち、筆者の事務所を知ったとのことでした。
●マンションの権利を買い取ることに
とはいえ、亡きご主人の父親が協力を申し出ても、マンション半分の名義を、すぐに相続人でないF井さんに変更してもらうことはできません。
今回のケースの場合、順番としては、まず父親が相続して名義変更し、それからF井さんに遺贈・贈与・売買のいずれかの方法で権利を譲るとなります。
たとえば、現在2分の1は父親名義のまま住み続け、ご主人の父親に公正証書遺言を作成してもらって遺贈を受けることも選択肢のひとつであり、負担の少ない方法です。しかし、亡くなったご主人には妹さんがいるため、将来遺贈を受ける際に、ご主人の妹さんとトラブルにならないとも限りません。そのため、不安は残したくないとのことで、結局は父親の権利をF井さんが買い取ることになりました。
購入価格より値下がりしていますが、財産評価からすると2分の1でも1000万円以上になりました。譲渡税が多少かかりますが、売買契約書を作成し、相続登記と売買の所有権移転登記を一度にすることで、全部をF井さんの名義にすることができました。
相続実務士の視点
夫婦別姓が注目されて久しくなりますが、このような問題が潜んでいる現状には、直面するまで気づけないかもしれません。今回、相続人となったご主人のお父さんに理解があり、なんら権利を主張することもなく、全面的に協力を得られたことはラッキーでした。F井さんの温和なお人柄はもちろん、いままでの人間関係がよかったからこそだといえます。
また、ご主人が借りたローンは生命保険で相殺されたため、F井さんに負担がなかったことも幸いでした。これからの人生まだまだ長いですから、F井さんにとって、自分の住むところが確保できた安心感は大きいといえるでしょう。
円満に解決した今回のケースを見て、普段から親族間の関係を良好にしておくこと、そして、お互いの考えを理解しておくことの重要性を改めて認識しました。来るべき日をトラブルなく迎えるためにも、親族間ではきちんと話し合いの機会を持ち、理解を深めておくことをお勧めします。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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