子を妬む母、愛し方が分からない父――「毒親」とも呼ばれる大人の姿。子が自分より優秀だと薄らぼんやり気づいてしまったそのとき、彼らは自身の子を「弱点」と捉え、否定してしまう。書籍『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ社)を上梓した脳科学者の中野信子氏は、「パンドラの箱を開けるような気持ち」で、毒親の実態を語っている。

「オキシトシン」が人間にもたらす驚愕の効果が…

◆愛情ホルモン「オキシトシン」

 

オキシトシンの話をもう少し詳しくしたいと思います。オキシトシンというホルモンの名前は、最近よく聞かれるのではないでしょうか。愛情や信頼感を形成するので「幸せホルモン」「愛情ホルモン」などと呼ばれることもあり、ストレスを緩和し、幸せな気分をもたらします。不安時に出るホルモン「コルチゾール」の産生を抑制し、信頼関係を強める効果があります。前頭葉が育つように働きかける役目もあります。

 

アミノ酸がいくつかつながったものをペプチド(小さなタンパク質分子)といいますが、アミノ酸が9個つながっているものがオキシトシンです。オキシトシンは、良好な対人関係が築かれているときに分泌され、闘争心や恐怖心を減少させます。この物質があるといろいろと面白いことが起きることが実験的にわかっています。

 

たとえば「鼻薬を嗅がせる」という言い方がありますが、オキシトシンを点鼻しておくと、本当に相手に対する信頼度が増して、投資の金額を、それまでの倍出してしまったり、不利な取引契約を結んでしまったりと、ちょっと不思議な行動が起きるのです。相手に対して好感を持つようになるとか、仲間であると思いやすくなったりするという現象が起こるからです。

 

同じ職場の人間同士であるとか、同じプロジェクトチームでよく顔を合わせているなど、親密な関係ではもっとたくさんのオキシトシンが分泌されます。

 

昔から「同じ釜の飯を食う」という言い方があります。たとえば運動部の合宿などで、チームのメンバーが生活を共にし同じ釜の飯を食べると連帯感が生まれるという意味でよく使われていますが、科学的な根拠があることもわかっています。

 

オキシトシンはスキンシップで脳内に分泌されます。握手などの簡単な皮膚への刺激でも分泌されるのですが、食事をするときにも出るのではないかという説もあります。消化管も上皮細胞なので体の外ではあるのです。

 

一緒に食事をし、その場で良好な関係になっていく過程で、オキシトシンの分泌が増える傾向があるのです。職場の同僚でも、チームメイトでも、一緒の場にいるときに食事をするということが絆を深める上で重要であるということ。当然のことながら、性行動もオキシトシンを出させるための行為として含まれます。

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本記事は、中野信子著『毒親』(2020年3月25日・ポプラ新書刊)より一部を抜粋・編集したものです。最新の情報には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ

毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ

中野 信子

ポプラ新書

家族についての悩みはあなたのせいではない! 気鋭の脳科学者が、ついに「パンドラの箱を」開ける! 「毒親」の正体とその向き合い方を分かりやすく説きます。 ●親を憎んでしまうのは、自分のせい? ●なぜ、子どもを束…

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