「天才だったんです」東大A判定のメンサ会員が落ちぶれた悲愴

子を妬む母、愛し方が分からない父――「毒親」とも呼ばれる彼らの姿。書籍『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ社)を上梓した脳科学者の中野信子氏は、「パンドラの箱を開けるような気持ち」で、毒親の実態、そして子の苦悩を語っている。

親の愚直な願いが天才を蝕んでいった

◆子の「勉強」は誰のため?

 

わざわざ勉強をしなくてもとても勉強ができたのに、「真面目に勉強をやってほしい……」という親の気持ちを忖度(そんたく)してコツコツと勉強をやるようになった結果、成績が落ちてしまい志望校に合格できなかったという男性を知っています。

 

勉強もできるけれど、何より頭がキレて、弁も立ち、合理的でスマートな問題解決をさらりとできる人。そういう人に無駄に勉強させてしまったせいで、むしろその芽が摘まれてしまったのです。彼はJAPAN MENSAの会員の方で、私はその方と大人になってから出会ってその話を聞きました。

 

高校一年の段階で、東大模試でA判定が出ていたのに、勉強すると全体像がブレて、点数がとれなくなった。本人は、周囲が頑張るようになったから、相対的に自分の順位が下がっただけだよ、と言いますが、とてもそんな風には思えないようなキレの良さを持っているのです。聞けば、彼自身は必要な勉強というより、やったことをアピールできるような勉強法に途中から変更したということでした。

 

彼のお兄さんはコツコツやるタイプだったようです。お兄さんがそうだったから、弟である彼にも同じように、と思ったのかもしれません。彼自身も「母親がこうあってほしいと思う子ども」像を敏感に察知して実行したのでしょう。しかしその結果、自分を犠牲にすることになってしまった。

 

結局彼は東大には合格せず、中堅私大に入学しました。ご両親は東大卒のお兄さんのほうを誇りに思っているようだと、彼はいくぶん自虐的に言います。

 

彼は私立大学を卒業後、持ち前の頭脳を生かして事業家として成功していますが、本人としては後悔もあるようですし、学歴に関係する事物へのコンプレックスもあるようです。そもそも男性はヒエラルキーにとても敏感ないきものです。彼の中でも自分はお兄さんに負けているかもしれないという意識が拭えないのかもしれません。

 

とはいえ、彼本人は頭がよすぎて、向かい合って話していると緊張して変な汗が流れるような感じがするほどの人です。声を荒らげる姿など、一度も見たことはないのですが、何もかも見透かされているような気がして、すごく怖い。彼のことを知っている人は皆、一様に「おっかない人だよ」と言います。

 

話しているときの頭のキレや知識の豊富さ、興味の範囲、物の見方などから、東大には楽々受かるポテンシャルのある人だということは容易にわかります。実際に知能指数は高く、地頭がとてもいい人です。

 

勉強すればするほど頭が悪くなっていった
勉強すればするほど頭が悪くなっていった

多くの東大生が「勉強するな」と言われてきた?

私の周囲の東大生に話を聞くと実は「勉強しろ」と言われて育った人は少数派であるような感があります。私がそうであったように「勉強するな」と言われたり、本を読んでもいい顔をされないので隠れて読んでいたり。あるいは「この子は変わっている」「子どもらしくない」と心配されたり。統計を取ったわけではないのでリアルなデータはわかりませんが、少なくとも私の周りは「勉強しろ」と言われて素直にコツコツとやってきたタイプは少なかったのです。

 

勉強ができ、成績がよくても親は心配になるもののようです。心配していた親の心理はどういうものであったか。自分の手元からどんどん離れていき、自分をはるかに凌駕する感じが親としては分離させられるようで寂しかったのではないでしょうか。親御さんたちは、子どもが社会の中でうまくやっていけるようにと心配する気持ちももちろん持っているでしょうが、絆が薄まってしまうことへの不安のほうが時に大きくなってしまうことがあるのかもしれません。

 

子との絆に親としてのレゾンデートル(存在価値)を求めるのは完全に親側の自分勝手な都合です。絆に何かを求める気持ちが強すぎて、「この柵の向こうへ行ってはいけませんよ」と枠を設けて子どもを支配下におくことで安心しようとする。たしかに自分の子どもなのに、自分にははかりしれない能力を持っていたら、戸惑ってしまう気持ちにもなるでしょう。しかし、能力と絆は別ものです。自分が親であるという事実は変わらないのです。

 

子どもは親の影響を受けて育ちます。けれど完全に別人格の存在でもあります。自分と似ていなくても、自分とそっくりでも、淡々とその子の人格を受けいれることができれば、互いに幸せだろうと思います。「こんな子に育ってほしい」というのも親のエゴかもしれないのです。

 

 

中野 信子
脳科学者

 

 

脳科学者

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から2010年までフランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務。2015年、東日本国際大学特任教授に就任。テレビのコメンテーターとしても活躍中。

著者紹介

連載毒親~毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ

本記事は、中野信子著『毒親』(2020年3月25日・ポプラ新書刊)より一部を抜粋・編集したものです。最新の情報には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ

毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ

中野 信子

ポプラ新書

家族についての悩みはあなたのせいではない! 気鋭の脳科学者が、ついに「パンドラの箱を」開ける! 「毒親」の正体とその向き合い方を分かりやすく説きます。 ●親を憎んでしまうのは、自分のせい? ●なぜ、子どもを束…

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