父親が「父親としての自覚を持てない」科学的な根拠
◆父親の育児脳
オキシトシンは、母親と赤ちゃんの絆を作るための物質だというお話をしましたが、だったら父親と子どもはどうなの?という疑問が生じるのではないでしょうか。父親と子どもの関係は、母親と子どものそれと比べて、ややこみ入っています。
過去の実験で、男性が赤ちゃんとたっぷり触れ合うとオキシトシンが分泌されることがわかりました。分娩も授乳もしませんが、子どもができると、オキシトシンのレベルは上がります。一緒にいる期間が長かったり、抱っこをしたり面倒を見たりするうちに、母親ほどの濃度ではないけれども、父親の脳にもオキシトシンが増加する。そして、少しずつ父親らしくなっていくのです。
母親は出産を機にオキシトシンが脳内に放出され、いきなり母親になりますが、父親は少しずつ父親になっていく。だから、子どもが小さい時期に家にいられなかったお父さんは、オキシトシンが分泌されないので、なかなか父親としての自覚を持てないのかもしれません。子どもに対しても、すこし後ろめたい気持ちがある場合も。
まったく疑う余地もないのに「この子は本当に自分の子どもなのだろうか」と感じてしまうこともあります。母親のように生まれた瞬間から赤ちゃんと強いつながりを感じにくいところが、男の人の悲しいところかもしれません。半面、子どもに執着しすぎることなく、風通しの良い関係を築くことが期待できるかもしれません。
オキシトシンは男性ホルモン、テストステロンと拮抗する関係にあります。独身時代はテストステロンに溢れていても、結婚して子どもができると、家族に対して献身的になります。
動物実験では、オキシトシンの出ているオスは、新しいメスより交配を終えた相手を選び、一夫一婦制を形成しました。また、面白いことに、赤ちゃんが家にいるところによく帰るお父さんは性的な衝動がおちていきます。子どもの存在がオキシトシンを増やし、テストステロンを下げる。テストステロンは筋肉増強剤として使われることもあるぐらい代謝を上げるのですが、オキシトシンは逆に脂肪を増やすので、ちょっと太るかもしれない。いわゆる「幸せ太り」が起きます。ちゃんと子どもと絆を作っている証拠です。
逆に、子どもが生まれたばかりの父親なのに、独身時代と変わらずに精悍なイメージのままで「あれ? あんまりおうちに帰ってないのかな? 子どもとスキンシップをしていないのかな?」と思えるような人も中にはいます。とはいえ、もちろん、個人差はあるのでしょうが。
中野 信子
脳科学者