子への「妬みの感情」を抑えきれない父親たち
◆妬む父
本連載では母が子に対して持つ妬みについて触れてきました。しかし、近年の研究によれば、実は妬みの感情は男性にこそ強く存在します。
男性、つまり父親が、自分の子に才能の片鱗が見えたときに「この子はすごいぞ」「ここをのばしてあげよう」となればいいのですが、どうも才能の芽があると感じられたとき、それを早いうちに摘んでしまう人がいるようなのです。それも、無意識の場合が多いのでよけいにたちが悪いのです。父親にとって、妻を奪い合う最大のライバルは息子であるので仕方のないことかもしれません。
妬みの感情は男親のほうがひょっとしたら女親より怖いものである可能性もあります。
男性に妬みの感情が強いのは、企業内の人間関係において顕著に表れているでしょう。妬みの強い男性は、見どころのある後輩だと思ったら、自分の下に付けて何とかコントロールしようとしたり、もしくは自己評価を低める方向に心理的に操作したりして芽が出ないようにする。
知識が豊富で野心のある、いわゆる「面白い」タイプよりも、無難でおとなしく、自分が知らないことを言わない後輩がこのような男性からは好かれます。面白いタイプは脅威となる可能性が高いからです。
「徹底的に踏みつぶせばいい」疑似家族、その深い闇。
大学に学生として在籍していた頃、ある研究室の教授が「東大は教育するのがとても楽な大学だ」と言っていたのを耳にしたことがあります。「徹底的に踏みつぶして、這い上がってくるやつだけを使えばいい」というお考えでいらしたのです。
ただし、これは、そもそも学生側に能力も一定以上あることが入試によって保証されており、野心があることもわかっている環境だから使える方法です。這い上がってくる人、使える人が入ってくるところでなくてはこの考え方は成立しません。
「こいつは見所がある」と思うからこそ、最初に厳しくするのも一つの教育方法たり得るという部分があったのでしょう。しかしながら、まずは徹底的に踏みつぶすというその姿勢にはぞっとさせられるようなドロドロしたものを感じさせられました。
研究室はある意味「疑似家族」。閉鎖的で密な関係が築かれる場所だからこそ、「父の子殺し」にも似た現象が生まれたのかもしれません。
「若い子が怖い」から、やんわりじんわり芽をつぶす
◆子どもの可能性をつぶす
つい最近、ある大企業に勤務する方とお話をする機会がありました。その会社はインターンシップ制度を取り入れていて、大学生はもちろん、大学を途中で辞めてしまった子でも、見どころのある子を集めて教育するシステムがあるとのこと。
しかし、いざ蓋を開けてみると、大学を中退している子たちの中に、とても斬新な発想を持っている子がいることがしばしばあるそうです。でも彼らがそれを提案してくると、役員はそのアイデアを持て余してしまう。役員は自分の手柄になるわけでもないし、その子たちをすごく使いにくいのだといいます。「正直困っています」と苦笑いされていました。
自分の知らないことを知っている若い子たちが怖いから、やんわり芽をつぶそうとする。この行為を、親側もやってしまいがちです。
子が女の場合「女の子が生意気だと結婚できないよ」「女の子はそんなに勉強しなくてもいい」などと、周囲の大人からいわれないことはまずないといっていいでしょう。子が男なら、親を凌駕するような発言をすると「世間のことをろくに知りもしないくせに、何を甘いこと言っているんだ」「おまえにそんなことができるわけがない」と頭から否定されてしまったりします。
大人の言動を観察するうちに、子どもたちの中には、そんな大人の言動に対して「何十年も生きているわりに、不条理なことを言う。非合理的だ」などと考え始める子がでてきます。親に洗脳されることなく、むしろそんな親を心の中でダサいと思ってしまう。そういう子は自己肯定感が強いともいえ、「親は親、自分は自分」と考えられるので、心配はいらないでしょう。親の言動によってつぶされることはあまりないでしょうから。
一方で、いわゆる素直で人の意見を聞きやすい子、また自己肯定感の低い子では、自分が間違っているのかと思って萎縮してしまうおそれがあります。そして親からコントロールされてしまう。「いい子」ほど、大人に支配されやすく、親から可能性をつぶされてしまうかもしれないというのはなんとも悲しいことです。
中野 信子
脳科学者