10人に1人?税務調査がダントツ多いのは「相続税」
相続税申告を手伝うなかで最も多い要望の1つが、「税務調査が入らないように適正な申告をお願いします」というものです。
相続税の申告については、ほかの税目に比べて税務調査される確率が高いといわれています。国税庁の統計データがありますので、本当かどうかを確認してみましょう。
(税務調査件数:12,576件/課税対象数:約11万2千人)
ほかの税目はどうでしょうか。参考として所得税について調べました。
ほかの税目に比べて課税対象者が少ないという点を踏まえたとしても、やはり相続税の調査率は高いです。
調査項目としては、金融資産(預金・有価証券)が49.3%と約半数を占めています。一方、不動産は13.6%。筆者自身、これまでの税務調査の経験のなかで、不動産が調査対象になったことは少なかったと記憶しています。
億超えの遺産のはずが「全然高値で売れないので…」
不動産の税務調査において、税務署が特に注視している点があります。以下では、筆者の実体験を紹介していきます。
調査対象者は、横浜市在住で遺産総額が3億円を超える方でした。申告業務のご依頼の際に、空家となったご実家の売却も併せて相談にのってほしいという要望がありました。
申告書の作成は特に問題なく進めていましたが、実家売却の件で問題がありました。土地に既存不適格な擁壁があり、擁壁のやり直しの費用がかかることから、売却価格が大幅に安くなってしまうというのです。路線価による土地評価額は8,000万円ですが、売却見込額が3,000万円となり、時価のほうが安くなるという逆転現象が生じていました。
様々な面から検討しましたが、路線価による通達評価では、この著しい価格差を解消するような合理的な減額要素がありませんでした。そのため不動産鑑定士に、擁壁の費用も加味したうえで、鑑定評価額を3,000万円と算出してもらいました。無事に申告業務が完了し、申告期限後程なくして売却も行われましたが、当初の想定価格よりも高く、売却価格は5,000万円となりました。
税務署から連絡が来たのは、申告期限から1年後のことでした。
国税調査官が登場!「話の筋はわかるが納得できない」
税務署の担当者は、大型事案を取り扱う役職である特別国税調査官でした。当然調査の論点は、「鑑定評価額3,000万円/売却価格5,000万円」という2,000万円に及ぶ価格差の件であり、税務署は「正しい土地評価額は5,000万円である」と主張しました。
土地の評価については、税理士・不動産鑑定士・不動産業者で連携して当時の鑑定評価額を算出していました。そこで税務署側には、評価額算出や売却までの詳細を下記のとおり説明しました。
不動産鑑定士・・・評価額算出方法や参考とした土地の性質
不動産業者・・・土地売却の経緯・詳細
担当者側からは「説明は合理的である」との回答を得ましたが、税務署側のほうでも再度検討をしたいということでその場は終わりました。
一週間後に再度バトル!税務署の最終判断は…
一週間後「検討が終わった」とのことで、再度税務署と協議しました。税務署側は、土地の購入業者に訪問し、購入の経緯について調査したそうです。その上で、やはり売却価格5,000万円での修正を要求されました。
筆者側は、複数の購入希望先があったこと、希望購入金額は鑑定評価額の3,000万円からスタートしたが、購入希望者の間で競争が行われた結果、売却金額が5,000万円に至ったことを伝えました(幸いにも当時の価格交渉に関する書類も残っていたため、こちらの主張に説得力を持たせることができました)。
結果として、不動産業者に交渉力や技術力があったことが認められ、修正はなく当初申告のままで是認となりました。
特別国税調査官が筆者に伝えた「コッソリな事情」
今回の税務調査で担当となった特別国税調査官からは、以下のような方針を伝えられました。
「原則的に鑑定評価を行ったすべての不動産については、国税庁から申告後の不動産の動向を探るようにいわれています。価格の算出根拠が合理的であるかどうか、またはその後に売却していないかどうかも調査しています」
相続税申告においては、よほど特別な理由がないと土地について鑑定評価を行いませんし、費用もかかります。鑑定評価を行う場合には、税務署が厳しい目で不動産の動向や金額の妥当性についてチェックしていることを認識しておきましょう。そして、修正申告にならないよう、信頼できる専門家に依頼してください。
税理士法人ブライト相続
戸﨑 貴之(とざき たかゆき)