新型コロナウイルス感染拡大で日本は緊急事態宣言が出され、外出自粛のパニック状態になった。新型コロナの集団感染が起こったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船し、動画を配信したことで話題となった神戸大学医学部附属病院感染症内科・岩田健太郎教授の著書『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)の一部を抜粋し、リスク・コミュニケーションの観点からパニックによる被害拡大を防ぐための方法を明らかにする。

正確な状況把握もやはり大事な理由

とはいえ、先の言葉と矛盾するようですが、正確な状況把握もとても大切です。

 

「エボラ出血熱が医療者の間ですごく増えている」

 

という情報は、状況を正確に伝えていません。「すごく」というのはどのくらい「すごい」のか。「増えている」とは本当に増えているのか。本当に増えているとすれば、「どのくらい」増えているのか。

 

「エボラは、医療者1000人中、○人に感染した」

 

という数値化された情報であれば、情報の妥当性が増します。

 

「すごい」とか「増えた」と判断するのは各人各様です。その判断は、ある程度は相手に委ねないといけないこともあるのです。

 

「増える」「減る」は経験の少ない研修医がよく陥る間違いです。

 

「患者さんの体温が38℃まで上がりました」

「患者さんの体温が37.7℃まで下がりました」

 

と逐一報告したりします。

 

患者は人間ですから、ずっとまったく同じ体温というわけにはいきません。通常、朝には体温が下がり、夕刻には体温が上がり気味になります。38℃から37.7℃までの微細な体温の変化は、プロであれば「熱が下がった」とは解釈しません。数時間後には39℃台まで再び体温が上がることもしばしばです。そのたびに一喜一憂しても詮無いことです。

 

もっと長いスパンで、微増微減する体温は放っておいて、「大きな視点」から体温を評価することが大事です。株や円相場の上げ下げの評価と同じですね。素人ほど、細かな違いに一喜一憂するものです。

 

「増えた」は本当に増えているのか。誤差範囲内ではないのか。きちんとクールにプロフェッショナルに評価することが大事です。ニュースの内閣支持率などは、しばしば統計学的な分析とは全然関係ない形で、「上がった、下がった」と報道されています。

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「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門

「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門

岩田 健太郎

光文社新書

新型コロナウイルスの感染拡大によって、緊急事態宣言が発令された。政府、自治体は不要不急の外出自粛の要請、学校の休校、さまざまな商業施設への休業要請も行われ、日本人はパニック状態になった。 エボラ出血熱、新型イ…

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