リスクを効果的に伝える3つのポイント
リスク・コミュニケーションはただ行なうだけではダメです。必ず結果を出さなければなりません。リスクを減らし、かつ不要なパニックを誘発しないような形でのリスク・コミュニケーションでなければなりません。
では、どのようにすれば、そのような効果的なリスク・コミュニケーションが可能になるのでしょうか。
まずは3つのポイントに留意しましょう。それは、
だれが聞き手なのか
状況はどうなっているのか
なんのためにやっているのか
です。まずは、「だれが聞き手なのか」 について説明します。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と孫子は言いました。もちろん、リスク・コミュニケーションにおいて聞き手は「敵」ではありませんが、対峙する相手ではあります。相手のことを理解せずに、一方的にこちらからメッセージを発信しても、コミュニケーションはうまくいきません。それは一般的なコミュニケーションにおいて、相手を知らずに一方的に情報発信しても、うまくいくはずがない事実を考えれば、自明ですね。
聞き手の科学や医学に対する理解や知識、聞き手が懸念している問題、などを十分に理解することが大事です。科学の知識が十分ある聴衆に、
「インフルエンザ・ウイルスはとっても小さくて、目には見えないんだよ~」
なんて言えば「バカにすんな」と怒られるでしょう。逆に、小学生の健康教室みたいなところで、
「インフルエンザ・ウイルスは、エンベロープを持つマイナス鎖の一本鎖RNAウイルスで……」
と説明しても、チンプンカンプンでしょう。両者を入れ替えれば、適切なコミュニケーションが可能になりますね。
相手の懸念事項を把握するのも大事です。これは後述する「メンタル・モデル」で詳しく説明しますが、
「今度、海外旅行に行くから心配」
「子どもの健康が心配」
「なんだかよく分からないけど心配」
と、人はいろいろな理由で心配しています。人によって心配の力点の置き方が違うのです。
例えば、エボラ出血熱について考えてみましょう。
海外に行くのであれば、「どこでどの感染症が流行している」という「場所」の情報が重要になります。「今、シエラレオネでエボラ出血熱が流行していて……」という感じです。ざっくりと「アフリカ」では不十分で、より正確な情報が必要とされているかもしれません。
でも、「子どもの健康が心配」な場合には、「お子さんが感染する可能性は極めて低いですよ」というメッセージで十分かもしれません。「シエラレオネ」ではチンプンカンプンかもしれませんから、単に「アフリカで流行してます」でも十分な場合もあるでしょう。
このように、聞き手によって重要度の高いメッセージは変わり、メッセージの出し方もそれに応じて変わってくるのです。
岩田健太郎
神戸大学医学部附属病院感染症内科教授