ECB債券購入枠拡大の事情

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欧州中央銀行(ECB)のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)による債券購入枠の拡大そのものは、ヘッドライン『ECB政策理事会レビュー、何を見るべきか』で想定した通りです。ただ、投資制約の変更には踏み込まずとも、購入枠拡大で市場を安心させた格好です。4日にはドイツで追加財政政策も合意され、通貨ユーロは回復傾向です。

ECB政策理事会:PEPPによる債券購入枠を市場予想を上回る規模に拡大

欧州中央銀行(ECB)は2020年6月4日に政策理事会の結果を発表しました。新型コロナウイルス危機への対応として3月に新設した7500億ユーロ(約93兆円)のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を1兆3,500億ユーロへ6,000億ユーロ拡大しました(図表1参照)。拡大額は市場予想(5,000億ユーロ)を上回りました。なお、PEPPは少なくとも21年6月末まで継続するとも述べています。

 

時点:2020年5月末、キャピタルキーは19年1月(ギリシャ含) ※PSPPが参照するキャピタルキーは除ギリシャ  ※PSPPはECBの債券購入プログラム(APP)の国債等を購入  出所:ECBのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成
[図表1]ECBの債券(国債等)購入プログラム累積残高 時点:2020年5月末、キャピタルキーは19年1月(ギリシャ含)
※PSPPが参照するキャピタルキーは除ギリシャ
※PSPPはECBの債券購入プログラム(APP)の国債等を購入
出所:ECBのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成

 

ECBユーロ圏の成長率とインフレ率の予想を公表、20年のGDP(域内総生産)をマイナス8.7%、インフレ率を0.3%と予想し、3月時点の予想から大幅に下方修正しました。

どこに注目すべきか:PEPP、キャピタルキー、ECBスタッフ予想

ECBのPEPPによる債券購入枠の拡大そのものは、今日のヘッドライン6月2日号で想定した通りです。ただ、投資制約の変更には踏み込まず、購入枠拡大で市場を安心させた格好です。4日にはドイツで追加財政政策も合意され、通貨ユーロは回復傾向です。

 

3月に新設したPEPPは、5月末までに2,346億ユーロの資産を購入しており、7,500億ユーロのうち、すでに3分の1近くは使用済みです。このままのペースなら年内には使い切ってしまう計算で、「増額」は想定されていました。

 

一方、記者会見ではPEPPの投資制約に関連した質問が記者からありましたが、ジャンク債(投資不適格債)への投資を可能とする規制緩和は含まれませんでした。また、各国国債配分の目安となるECBへの出資割合(キャピタルキー)の投資制約も維持されました。

 

なお、PEPPのキャピタルキーの制約は一部柔軟で、特定の国の国債を購入して後から帳尻を合わせる運用も可能と見られていましたが、ここまでの購入実績(図表1左の棒グラフ)を見ると、ほぼキャピタルキーの割合通りの運用です。

 

そこまで踏み込まなくても、投資制約が緩和されれば購入増が期待されるイタリアなどの国債利回りは一時の最悪期に比べれば落ち着いていることが背景かもしれません。

 

ただ、それでもイタリアやスペインの利回りは相対的に高く、緩和が不要というわけではないでしょう。先月、ドイツ連邦憲法裁判所がPSPPを一部違憲とする判断を下したことに多少配慮した可能性はあります。ECBは今回経済予想を公表しましたが成長率の低下と共に、他の中央銀行があまり触れないインフレ率の低下にも言及しています(図表2参照)。PSPPはECBの目的である物価の安定から逸脱した政策との疑念をドイツ連邦憲法裁判所が指摘しているため、文句のつけようが無いインフレ率(を理由とした投資)に言及したのかもしれません。その点を意識してか記者も裁判所の一部違憲判決がECBの行動を制約するか尋ねていますが、ラガルドECB総裁は、中央銀行の中立を保つと述べています。複雑な問題ながら、債券購入政策を守り抜く意志は固いように思われます。

 

 

時点:2020年3月と、6月の予想、予想年は20年~22年、数字は20年予想 出所:ECBのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
[図表2]ECBスタッフによるユーロ圏成長率とインフレ率の推移 時点:2020年3月と、6月の予想、予想年は20年~22年、数字は20年予想
出所:ECBのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ECB債券購入枠拡大の事情』を参照)。

 

(2020年6月5日)

 

 

梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社

運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト

 

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ピクテ投信投資顧問株式会社
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日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

著者紹介

ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

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