日本では年間約130万人の方が亡くなっています。つまり相続税の課税対象になろうが、なかろうが、130万通りの相続が発生しているのです。お金が絡むと、人はとんでもない行動にでるもの。トラブルに巻き込まれないためにも、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが大切です。今回は、編集部に届いた事例のなかから、預金通帳にまつわる相続トラブル事例をご紹介。円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

神棚にしまった母の預金通帳はどこに消えた!?

ある日、Aさんの母が自身の終活について話しておきたいと、AさんとC子さんを呼びました。当時、Aさんの父はすでに他界。母も75歳を超え、いつ、何が起きてもおかしくないと考えるようになったといいます。母がいうには、

 

・実家は維持が大変なので売却する。自分は父(夫)が残したマンションに住み替える
・遺産は現金とマンション1戸になる予定。相続予定の現金は預金通帳に。預金通帳は神棚に置いておく
・残るマンションは相続発生時に売却し、預金通帳の現金と合わせて、子ども3人で等分すること

 

ひととおり、AさんとC子さんに遺志を伝えた母。Bさんにも電話で同じことを伝えるつもりだといいました。

 

「こんな年になっても、Bのことまできちんと考える……親はいつまで経っても親なんですよね」

 

実際にAさんの母の相続が発生したのは、それから3年後のこと。自宅で倒れ、病院に搬送されてから1ヵ月後のことでした。

 

葬儀で、AさんとC子さんは、父の葬儀以来、Bさんと10年ぶりに顔を合わせたといいます。しかし、会話らしい会話はありませんでした。そればかりか、AさんとC子さんにお金の無心をしてきたので、怒鳴りつけたといいます。

 

葬儀が終わったあと、AさんとC子さんは、母が暮らしていたマンションにやってきました。

 

Aさん「母さんが言っていたとおり、ここも売却していいかな」

 

C子さん「いいんじゃない。でもBにも、きちんと言わないといけないじゃない。Bも相続人だし」

 

Aさん「そうか。あと、預金通帳が神棚にあるって言っていたな」

 

C子さん「私、取って来るわよ」

 

そういって、C子さんが神棚のある部屋にいったきり、なかなか帰ってきません。不審に思い、Aさんが行くと、首をかしげるC子さんがいました。

 

Aさん「どうした?」

 

C子さん「預金通帳が見当たらないのよ」

 

Aさん「えっ?」

 

C子さん「お母さん、何度も『ここに預金通帳があるから』って見せてくれたじゃない。たしか、3ヵ月前のお正月のときも」

 

Aさん「そうだよな。『ここにあるから、忘れないで』って……」

 

預金通帳があるという神棚のほか、色々なところを探しましたが、それらしきものは見つかりません。途方にくれる2人。そのときピンときたAさんは、Bさんに電話をしました。

 

Aさん「預金通帳、どこにやった?」

 

Bさん「なんだよ、それ」

 

Aさん「母さんが『子どもたちに』と用意していた預金通帳だよ」

 

Bさん「知らないよ、そんなの」

 

Aさん「しらばっくれるなよ! お前、金に困っていたよな。預金通帳の存在を知っているのは家族だけだ。それがないんだよ。消去法で、お前しかいないんだよ!」

 

Bさん「知らないものは、知らないって、言ってんだろ!」

 

そういって、電話は切れました。現在、専門家に依頼し、口座の照会を進めているそうです。

 

弟への疑惑は深まるばかり……
弟への疑惑は深まるばかり……

 

 

次ページ解説:「遺産隠し」を回避するには?

※本記事は、編集部に届いた相続に関する経験談をもとに構成しています。個人情報保護の観点で、家族構成や居住地などを変えています。

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