現時点で最も「言葉の壁」なく使える銀行は?
海外の金融機関を活用できない理由は、ほぼ「言葉の壁」のみです。香港であればわずか4時間のフライトで行くことができるし、売買や手続きに関わるやり取りも、言葉さえ理解できれば内容自体はさほど難しいものではありません。また、どういった商品に投資できるか、どの通貨が利用できるかなども気になるところではありますが、香港で国際的に事業展開している銀行であれば、それほど大きな違いはなく、いずれも日本の銀行と比べれば段違いの幅の広さです。
そのため、海外の金融機関を選ぶ際には、いかに「日本人にとって利用しやすいか」、もっと言えば言葉の壁なく使えるか、という観点が重要になります。
それを踏まえて、現時点で日本人に最も適した香港の銀行は、「日本ウエルス銀行(Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank、以下NWB)」でしょう。
NWBは、2015年5月に開業し、個人投資家向けの資産運用サービスを提供する日系金融機関です。日本の「新生銀行」や「マネックスグループ」「東急リバブル」、そして香港の金融会社「コンボイ・フィナンシャル・ホールディングス」など、日本と香港の10社による共同出資で設立されました。日本の大手金融機関が出資している企業が香港に進出するのは、極めて異例といっていいでしょう。
NWBは「香港金融管理局(HKMA)」から「銀行免許=銀行ライセンス(Restricted Licence Bank)」を取得していますが、日系の銀行としてはなんと51年ぶりの免許交付です。開業後の2015年9月には、銀行ライセンスに続いて証券ライセンスも取得。「The Securities & Futures Commission(SFC/證券及期貨事務監察委員會)」から「証券売買業務」と「証券アドバイザリー業務」を取得し、同年10月25日、銀行、証券にまたがる金融サービスを開始しています。
同行の登場は、日本人の富裕層に新たな選択肢を提供するものであり、私が本書を執筆した契機にもなりました。NWBの画期的な点は、これまで日本の個人投資家の前に立ちはだかっていた「言葉の壁」をすべて取り払ったことにあります。口座開設はもちろん、その後の取引もすべて日本語で対応してくれるのです。最低10万米ドル(約1200万円)の預り金から口座開設が可能で、既存のプライベートバンクのように数百万米ドルといった多額の資金も必要としません。
香港という立地と日本語サービスの充実。大多数が英語を苦手とする日本の富裕層・投資家にとって、ベストに近い選択肢といえるでしょう。
「NWB」の信頼性をどう見るか?
NWBは日本の富裕層・投資家に資産防衛の新たな道を開く可能性を秘めています。ただ、大切な資産を預けることになるわけですから、金融機関としての信頼性や、肝心のサービス内容は確認しておく必要があります。新たな銀行であればなおさらです。たとえ日本語が使えても、肝心のサービスが不十分であったり、仮に潰れてしまうようなことがあれば元も子もありません。
NWBは、香港に設立されたBVI法人「OJBC Co.Ltd(以下OJBC)」の100%子会社です。その主要株主は、以下の通り(下記図表参照)です。
・新生銀行(銀行)……50,0%
・マネックスグループ(証券グループ)……9,96%
・マーキュリアインベストメント(投資助言業務)……9,96%
・コンボイフィナンシャル(香港)……9,96%
・東急リバブル(不動産業)……4,11%
言うまでもないかもしれませんが、各社の概要をおさらいしておきましょう。新生銀行は、経営破綻して国有化された「日本長期信用銀行」が、米国の企業再生ファンド「リップルウッド」や外国銀行からなる投資組合「ニューLTCBパートナーズ」に売却されて再生した銀行です。法人向け、個人向けに幅広い金融商品、サービスを提供する、日本を代表する商業銀行の一つといっていいでしょう。
マネックスグループは日本有数のオンライン証券会社である「マネックス証券」を中心とする金融グループです。マネックスグループは、香港の地場証券会社「BOOM証券」を買収しており、すでに香港には進出済みです。将来的に、NWBとBOOM証券との連携などが予定されていると考えていいと思います。
マーキュリアインベストメントは、「日本政策投資銀行(DBJ)」と「あすかアセットマネジメント」とのジョイントベンチャーとして、2005年に設立されたプライベート・エクイティ投資会社です。未上場企業への投資アドバイザーとして知られています。
コンボイフィナンシャルは、香港にある多角的金融ナビゲーター。香港を拠点に、包括的な金融商品のプラットフォームを持っています。NWBの香港での資産運用プラットフォームづくりに参加しています。
NWBのプレス資料によると、経営陣やスタッフは日本をはじめ世界の有力金融機関で長年にわたって経験を積んだエキスパートばかり。英語、広東語に加えて日本語でのサービスを充実させる、とあります。
とりわけ、日本人投資家に対するサービスでは、「Global View‚ Japan Quality (世界を見据え、日本水準のサービス品質を実現する)」を合言葉に、顧客一人ひとりに対して高品質のウエルスマネージメントサービスを展開していく、としています。
なお、NWBは開業後の2015年6月に、米大手保険会社「マスミューチュアル・フィナンシャル・グループ」の香港法人「マスミューチュアル・アジア保険会社(MMA)」と業務提携しました。日本の保険業法では外国保険業者による日本国内の居住者への保険販売が禁止されていますから、アジア各国に駐在している日本人などに対して、比較的高利回りの終身年金保険や生命保険などを販売するようです。
具体的な投資商品については後の章に譲りますが、ここまで「日本人向け」に注力した海外の金融機関は他にないことは間違いありません。使いやすさという意味では抜きん出ているといっていいでしょう。