新宿は、東京の中でも特に生活保護受給者が多い街だと言われています。大都会・新宿で彼らがとりわけ苦労するのは「家探し」だそうで、どこの大家も所得が著しく少なく高齢である受給者らの入居に難色を示すとか。本記事では、そんな大家の事情に着目しながら歌舞伎町の不動産事情をご紹介します(本記事は、川嶋 謙一著『誰も知らない 不動産屋のウラ話』より一部を抜粋・再編集したものです)。

「支給家賃」は5万3千円…新宿には住める家がない

新宿区は生活保護を受けている人が多く、東京23区中6位(2016年出版データ)です。新宿区には外国人が多く住んでいますが、外国人でも日本人と同じように生活保護費を受給できることから、貧しい外国人が多い新宿区に生活保護者が多いのも頷けます。

 

筆者の不動産会社は新宿区内にありますので、毎日のように生活保護に関する相談を受けます。相談に来るのは、これから生活保護を受給する人や、役所の担当者から許可を得て「部屋を探してください」とやってくる人です。時には役所の担当やケアマネージャーと共に部屋探しにやってくる人もいます。仕事がない、病気や事故で働けない、母子家庭や父子家庭、介護のために仕事ができないなど理由はさまざまですが、困っている人が多いのは事実です。

 

新宿区の福祉課には担当者が数多く在籍していますが、常時30~40人ほどを1人で担当しているらしく、常に大忙しです。なかでも部屋探しはとても難しく、なかなか条件に合った部屋が見つかりません。それには次のような理由があるのです。

 

●生活保護受給者には部屋を貸さない大家さんもいる(生活保護受給者は一度入居したら亡くなるまで退去せず、事故物件になってしまうなどのさまざまな理由から)

●貸したくても家賃などの条件が合わないので貸せない

●出稼ぎ外国人労働者が安くて条件のいい部屋を借りてしまう

 

新宿区内では、風呂とトイレが付いた部屋なら最低でも6万円前後必要ですが、法律で決まっている役所の支給家賃の上限は5万3700円です。それ以上の部屋には住めないのです。外国人労働者も風呂付きでいちばん安い部屋を探しますので、少ないパイを取り合いしているのが現状です。

70歳以上の入居は「死に場所になってしまう」

筆者の会社には、ほかの不動産屋に断られた生活保護受給者が数多くやってきます。たとえば、年齢制限を超えた人です。ほとんどの大家さんは、入居者の年齢は70歳ぐらいまでと言いますし、中には60代までと念を押す大家さんもいます。ところが筆者の会社に多く来るのは70代後半から80代と高齢です。

 

社員が福祉に詳しく、何より72歳の現役部長も活躍していますので、部屋を探すというより大家さんを説得して、入居できるように交渉しているということです。しかし交渉は厳しく、大家さんはほとんど「死に場所になってしまうから」と取り合ってくれません。とはいえ、高齢者で、身内もなく住む部屋もないほどみじめなことはありません。

 

身体障害者で施設に入れない人や、障害が軽度の人、高齢者で介助が必要な人、元組関係者で入れ墨がびっしり入った人、小指が欠損している人、過去に罪を犯したけれど罪を償った人など、普通の不動産屋が嫌がる人にも、できる限り部屋探しをしています。

 

寝たきり老人等の立ち退きのときなどは、おんぶして内見に行ったこともあります。それは、かつて筆者も破産をして仕事で苦労した過去があるうえに、筆者の身内も生活保護でお世話になったことがあるからです。

 

「死に場所になってしまう」
「死に場所になってしまう」

「一見、静かな事務所」でもドアを開いてみれば…

「無店舗型性風俗特殊営業」なるものがあります。キャバクラやソープに許可が必要なのと違って、管轄警察に届け出をすれば営業できるのが、この「無店舗型性風俗特殊営業」つまりデリバリーヘルスです。

 

「無店舗でもいいの?」と聞かれるかもしれませんが、店舗があったらダメなのです。許可制にしてしまうと、行政が正式に認めてしまう形になるうえに、通常の風俗店と同列になってしまうからだと思われますが、この届け出をすれば出張ソープや出張ヘルスのような店を経営することができます(ただし本番はできない決まりです)。

 

その昔、違法のマンヘル(マンションヘルス)や映画鑑賞会などがあり、これらが暴力団の組関係者の資金源になっていました。当然、税金など払っているはずもなく、店と客がトラブルになっても、無許可であるがゆえに警察も呼べないため、暴力団にお金を払ってもめ事を処理してもらうわけです。

 

この問題を解決するために新しい法律ができて、誰が経営しているのか、店名や電話番号、スタッフの名前、店の間取り、どんなサービスをするのか、女の子の年齢はいくつか、といったことを警察署に届け出をするようになったのです。店名を表記している以上、儲かれば税金も払ってもらいますということになるわけです。

 

その代わり、何か問題があれば警察に連絡して来てもらうことも可能になりました。しかも経営者やスタッフの中に組関係者がいれば、届け出も受理しないし摘発して営業をさせないので、組関係者の締め出しも兼ねているのです。

 

こうした風俗業は組関係者の「しのぎ」でしたが、この法律によって一般の人も大手を振ってデリバリーヘルスを営業できるようになりました。その結果、「風俗=儲かるうえに女の子商売で楽しそう」という理由で開業希望者が殺到したのです。ワンルームでもできて資金も少ない額でOKとなれば、独立開業、起業をすすめる書籍が多数出版されたことも理解できます。

 

これは不動産屋にとっても大きなチャンスとなりました。現在でも、独立してデリヘルを開業したいという人がしょっちゅう来店します。部屋を借りても、無店舗型として届け出をしているため、その場所でサービスはできません。事務所や女の子の待機場所として使う部屋を探しに来るわけです。ワンルームから3LDKなど、その規模によって希望の部屋を探します。

 

こうした部屋は、店舗でもなく、お客さんも来店しませんので、一見、静かな事務所といった使い方になります。儲かっていて女の子の在籍数が多い事務所は、女の子の出入りが多くなり、夜間帯にハイヒールの音やドアの開閉の音でクレームが来ることはありますが、接客しないため、基本的にクレームが少ない事務所だといえます。

 

しかし、実際経営となれば、素人が風俗、女の子の扱いなどできるはずもなく、始めても3~4カ月で辞めてしまうことがほとんどです。経営は難しく、お客さんを呼ばなくてはならないけれど、お客さんが来ても女の子がいないとなれば商売になりません。

 

お客さんも女の子もいる状態を維持しなければなりませんが、稼げる女の子はお客さんの来ない店は辞めてしまいます。女の子を引き止めるためには、お客さんがいない日も給料を保証しなければならず、店側は女の子全員に1~2万円を払うことになるのです。こんな日が何日も続いたら、すぐに資金が足りなくなってしまいます。こうした理由で、だいたい3カ月程度で部屋は解約となってしまうのですが、またすぐに次の希望者が現れて契約することになります。うまく事業が軌道に乗ればすぐに2号店を探すことになります。

逃げるデリヘル経営者…大家は敷金せしめて満悦

こうした用途の部屋の場合、普通の契約とは違って特殊事務所扱いですので、敷金、保証金などの名目で家賃2~4カ月、物件によっては6~10カ月程度を預かります。入れ替わりが激しいうえに、特殊扱いとして預かった敷金や保証金には、解約時償却といって敷金などが全額は戻らないという条項が付いています。

 

敷金を4カ月預かっていても、「解約時2カ月分償却」と契約にあれば残りの2カ月分から現状復帰費用とクリーニング費用を払います。事務所は東京ルール(賃貸住宅紛争防止条例。退去時の現状復帰のための費用負担について定めたもの)の適用外ですので、敷金や保証金はほとんど戻らないのが現実です。そのため、3~4カ月で退去されても大家さんが困ることはありません。

 

また、事務所の解約予告は3カ月前以上ですので、やっていけなくなった入居者は敷金を捨てて早めに出ていってしまいます。味をしめた大家さんは、またデリヘルの事務所OKということで次の入居者を募集するのです。

 

 

川嶋謙一

株式会社未来投資不動産代表取締役社長

誰も知らない不動産屋のウラ話

誰も知らない不動産屋のウラ話

川嶋 謙一

幻冬舎メディアコンサルティング

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