超・大手スニーカー販売会社の失策で知る「ESG経営の実情」

近年、世界で急速な拡大を見せているといわれる「ESG経営」。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)のそれぞれに企業が配慮し、長期的な経営を目指す取り組みです。本連載は、ESG経営、そしてESG投資について、キャピタル アセットマネジメントがわかりやすく解説します。

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NIKEや雪印乳業で露呈した大企業のずさんな経営

過去、世界を代表する多国籍企業をはじめ、多くの企業は財務パフォーマンスにしかフォーカスしていませんでした。そのため、目先の利益を上げることに集中した結果、自国や発展途上国の環境を破壊したり、従業員の健康を損なうような作業内容を押しつけたり、消費者の安全を阻害する商品を販売したりといったケースが多発していました。

 

こうしたケースが大きな社会問題としてメディアで取り上げられた結果、消費者の不買運動につながって経営的にはマイナス、計画していた財務目標が未達成になるだけではなく、企業の倒産にまで至った…という本末転倒な事態も起きています。

 

海外の例では、1997年、米NIKE社がインドネシアやベトナム等の工場で、低賃金労働、劣悪な環境での長時間労働、児童労働等を強いていたことを『CBS』『The New York Times』等が報道し、製品の不買運動が世界的に広まりました。NIKE社がこの問題によって失った売上高は、5年間で1.4兆円以上にものぼりました。

 

日本国内の例としては、雪印乳業が2000年に集団食中毒、同社子会社が2002年に牛肉偽装を起こしました。その子会社は消費者からの信頼をなくし、再建ができず86年の歴史に幕を下ろすこととなり、親会社も大きな打撃を受ました。

 

このような事業リスクを低減するためにも、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した「ESG経営」が重要になってきているのです。

 

◆ESG課題とステークホルダーの関係

 

企業にとって、本業に関わるESGへの取り組みを行うことが、利害関係者に有益な場合があります。以下では、社会課題になったESGへの取り組み事例を紹介します。

 

【ESGで定番な環境対応】

Environment(環境):環境保全対策を経営目標に取り入れる

 

かつて積極的な環境保全対策は企業にとって余分なコストと考えられていました。企業価値増加につながらないことが多いため、真面目に取り組む企業は少数だったのです。

 

しかし、国際標準化機構(ISO)が環境マネジメントシステム(ISO14000シリーズ)を発効したことに伴って、企業の環境対策は効率性・生産性向上になるという認識に変化し、多くの企業が環境保全対策を採用するようになりました。最近では、環境課題に配慮する顧客のため、レベルの高い「省エネ」や「クリーン技術」等の製品開発を進めることが競争力の源泉にさえなってきました。

 

【身近で理解しやすく範囲が広い社会問題】

Social(社会):働き方改革で労働力不足を解消

 

少子高齢化は企業の持続的成長を妨げる大きな社会問題です。企業側の具体的な取り組み例としては、高齢者の再雇用で就労促進を図ることや、仕事と育児の両立を支援し女性の活躍を促すことが挙げられます。コロナウイルスの感染拡大の防止策でもある在宅勤務制度も、重要なESG経営の1つです。

 

【今でも不祥事を起こす企業がある…重要な企業統治】

Governance(企業統治):社外取締役の設置で会社を危機から保護


基本的には会社は株主のものであり、経営者のものではありません。株主に対して最大限の利益を還元するためには、企業価値向上に努める必要があります。不祥事等によって企業価値が毀損されないように、社外取締役の設置や、リスクマネジメントの徹底、組織全体で法令・規則を守る体制の構築等が重要になります。

ESG経営「だれが」「どんな課題」に関心があるのか

◆ESG経営はステークホルダーを重視する

 

利害関係を有する主体のことを「ステークホルダー」と呼びます。企業にとっては顧客(消費者)、従業員、株主、金融機関、地域社会等が対象となります。それぞれの立場で企業の行動に関心を抱いているため、様々なステークホルダーに配慮し、多様なニーズや価値観に沿うように企業経営を行うと、事業リスク低減につながります。

 

 

[図表1]は「だれが」「どんな課題」に関心を持っているのかという一般的な例です。ステークホルダーは、通常多数存在し、企業に対する影響力は様々ですが、近年以下のステークホルダーが大きな影響力を持っています。

 

[図表1]企業にとってのステークホルダーと重視しているESG課題

 

(1)消費者

 

企業が起こした不祥事に対して不買運動をし、雪印乳業の例のように、倒産危機まで追い込めることができます。

 

(2)従業員

 

高度経済成長期の日本的終身雇用時代では、新卒での入社後、定年まで1つの企業で勤めあげることが一般的な考え方でした。しかしながら、人材の流動化が進み、転職も当たりまえとなり従業員が自ら働くべき企業をより厳しい目で判断するようになりました。

 

優良企業だと世間から高く評価される企業には就職希望者が殺到する一方、不祥事(例:新入社員の過労自殺事件)を起こした企業の人気は軒並み低下し、大学生の就職先として希望する企業のランキング調査では大きく順位を落とすことになります。優秀な人材を集められない企業は競合企業に比べて競争力が弱くなるため、従業員の満足度向上は各企業にとって重要になっています。

 

(3)投資家<株主・債権者>

 

企業を設立し経営するには、資金が必要不可欠です。資金を提供する投資家にとって企業価値は重要であり、企業の成長力が低下すると、投資家の資金が流出し、経営は危うくなります。従来、投資家の関心は企業の収益力や財務基盤の安定性にありました。しかし不祥事が発生し、財務の立て直しに時間がかかったり、企業の存続自体が難しくなったりしたケースを教訓にして、投資家の関心は、ESGへの取り組みに積極的な企業への選別投資に移りつつあります。

ESG課題への取り組みは猛スピードで広まっているが…

◆日本企業のESG評価を通じて確認できたこと

 

筆者の利用する(調査会社の)ESG調査では、各企業を「E・S・G」それぞれの評価項目ごとに100点を配分し、総合で300点を満点として評価しています。上場企業4,000社のなかから、同社のESG調査に参加してくれた企業は約1,000社でした。

 

これら会社の「E・S・G」それぞれの取り組みをスコア化することで評価し、時系列で分析しています。

 

【E(環境対応)についての取り組みは一番進んでいます】

 

1,000社の2012年の平均スコアは57.6点あり、ほかの取り組みよりも高いことがわかりました。多くの企業で消費者というステークホルダーを意識して、エコに優しい製品開発や環境マネジメント(ISO14000)の取得を目指す企業が多いという結果でした。2019年の調査では52.7点と若干スコアを落としました。

 

【S(社会責任)についての取り組みは遅れています】

 

1,000社の2012年の平均スコアは27.0点、環境対応に比べて企業の意識は低いといえるでしょう。女性活躍の促進、働き方改革という人手不足対策の必要性について、未だに認識不足であり、多くの企業は今までの雇用の習慣を変えることができていません。2019年の調査ではスコアは39.5点に伸びましたが、在宅勤務の制度作りやその整備は、まだまだ足りていない現状です。

 

【G(企業統治)についての取り組みは急ピッチで広がりました】

 

1,000社の2012年の平均スコアは28.4点、S(社会責任)と同じく、企業は長期投資家(株主・債権者)の存在を重要視していませんでした。しかしガバナンス改革を通じて、各企業は投資家が求めるリターン(ROE自己資本利益率の水準)、リスク管理(外部取締役選任)等への要求に応えるようになり、この8年間もっとも対応が進んだ取り組み分野となりました。

 

2019年の調査ではスコアは45.1まで伸び、多くの企業が投資家の利益を尊重するように変化していることが窺えます[図表2]。
 

[図表2]日本企業のESG取り組みの推移

 

ESGの総合スコアの分析という観点からすると、企業のESG取り組みに対する経営意識は年々高まっています。持続成長のため、ざまざまなステークホルダーの要求に、積極的に取り組んでいる姿勢が見て取れます。

 

日本企業の多くは長期的成長重視の姿勢で経営を行ってきましたが、バブル崩壊後のデフレ経済が長く続き、目先の収益だけを重視せざるを得なくなった企業も多いのです。だからこそ、長期的なESG課題に取り組んでいる企業の業績は良好であるといえます。

 

◆ESG課題への取り組みの評価方法には課題も


ESGへの取り組みはそれぞれの企業によってかなり異なり、開示される内容も企業によってまちまちとなっています。外部からの評価が難しい一方、企業側もどのような方法でESGに取り組むべきか、どのような内容を開示すればよいかについて悩んでいます。財務情報の報告のような統一基準がないため、困難になっているのでしょう。


[図表1]で示したように、各企業の取り組んだ課題がどのステークホルダーの関心に適合するのかを確認して、各取り組みにおける「計画」「実行」「成果」を一定の期間でモニターし、達成度合をスコア付けする方法があります。しかし評価に関しては、企業側のESGへの取り組み方、投資家側のESG情報の入手方法、ESGを専門に評価する会社のESGの定義、それぞれに相違点があります。評価の対象・手法が統一されていないのが現状であるといわざるを得ません。
 

そこで次回は、ビジネスの中核でもESG課題を取り入れている企業の業績を解説していきます。

 

キャピタル アセットマネジメント 調査部

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キャピタル アセットマネジメント株式運用部 部長
CFA 協会認定証券アナリスト 

1994年日興バーラ(現MSCI Barra)入社。ポートフォリオ・リスク管理アセット・アロケーションのコンサルタントとして活躍。1996年からロイター・ジャパン(現トムソン・ロイター・マーケッツ)でチーフ・フィナンシャル・エンジニアとして日本株式リスク・モデルの開発をリード。ロイター(英国)でクオンツ分析ツールのグローバル・プロダクト・マネジャー。

その後、リッパー投信評価の日本版確定拠出年金ファンドの評価・アワードを立ち上げて、機関投資家向けカスタム・インデックス業務に従事。2016年10月当社に勤務、CAM ESG日本株ファンドの運用プロセス・ポートフォリオ管理を担当。業界在籍年数25年。

著者紹介

連載環境・社会・企業統治に着目した「ESG投資」の全貌

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