近年、世界の運用マーケットで急速な拡大を見せている「ESG投資」。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)のそれぞれに対して、企業がどのような取り組みを実施しているかを調査・分析し、それらを基準として投資する手法を指します。本連載は、企業の成長を促し、業績にポジティブな影響をもたらすとされるESG投資について、キャピタル アセットマネジメント株式会社がわかりやすく解説します。

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環境・社会・企業統治に着目した取り組み

2006年に世界16ヵ国の主要機関投資家(運用資産残高2兆ドル)から国連責任投資原則(UN-PRI)が提唱されました。

 

日本でも、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に署名し、現在ESG投資が広がろうとしています。

 

日本での個人投資家の間では資産運用といえば投資信託がポピュラーな資産運用商品ですが、日本の個人投資家には、どれくらい「ESG投資」という言葉が浸透しているのでしょうか? まだまだ聞いたことがない、という方も多いかも知れません。そこで本記事では、ESG投資の概要をお伝えしていきます。

日本企業のESGへの取り組みも実は進んでいる?

日本企業のESGへの取り組みについて調べると、最も長い会社では10年以上の記録があります。我々と関りが深い調査会社によれば、日本企業によるESGへの取り組みは、全業種で確認できましたが、企業間の格差があるのも事実です。

 

同社によるESG調査では、各企業をE・S・Gそれぞれの評価項目ごとに100点を配分し、総合で300点を満点としています。

 

2013年のデータを分析すると、東証33業種のESGへの取り組みは平均で82点となりました。その平均スコアよりも低い業種は不動産業、サービス業、小売業となり、取り組みへの評価が高い業種は海運業、化学、電気・ガス業となりました。

 

6年後(2019年)のデータでは、企業はESGという課題についての理解を進め、環境にやさしい企業活動、働き方改革、企業ガバナンス強化という重大なESG課題への対応を行っています。またほとんどの業種でもESGへの取り組みについての改善が見られており、業種平均スコアは117点に改善しました。そのなかで、業種平均スコアが大きく伸びた業種としてはゴム製品、空運業、電気・ガス業があげられます[図表1]。

 

[図表1]業種別のESGスコア
[図表1]業種別のESGスコア

 

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ESG投資が事業リスクを低減し、収益改善につながる

“ESGへの取り組み”というと、企業の収益とは関係のない、余計な負担をかけるもので、株価には無関係あるいはむしろマイナス材料になると考える人もなかにはいますが、筆者はそうは考えておりません。ESGへの取り組みは、単なるコストではなく、持続的成長の源泉であると捉えています。

 

ESG課題への取り組みにより各企業は事業リスクを軽減し、競争力を強化することで、企業価値増大につながるようなメリットが期待できると思っています[図表2]。

 

[表2]ESG課題へ取組む利点
[図表2]ESG課題へ取り組む利点

 

時に、ESGを軽視した企業の株式は、欧州を中心とした海外の機関投資家から「ネガティブ・スクリーニング(事前に設定されていた特定の社会的または環境に対する基準を満たさない企業を排除すること)」の考え方に基づき、投資ユニバースから外されて、株価パフォーマンスが(ESGへの取り組みに積極的な銘柄と比べて)相対的に劣後することは容易に推測できることです。「ネガティブ・スクリーニング」の対象に留まることはその企業の今後の資本政策(ファイナンス)に悪影響を及ぼし、企業間の競争力を削ぐことにつながる大問題であるといえます。

 

ESGへの取り組みは昨今の激しい環境変化のなかで、その企業が競争力を維持し、生き延びることができるか否かを決定付ける必須の経営課題であるといえるのではないでしょうか?

ESG投資にはダブル・リターンが求められている

近年、長期投資の視点に立ち、企業の将来性を勘案する株式分析手法としてESG分析が注目を集め始めています。2005年、世界の21機関投資家(ノルウェー政府年金基金、米・カリフォルニア州職員退職年金基金等)が当時のアナン国連事務総長の呼びかけに対して、世界の持続可能な発展のために、国連責任投資原則(UN-PRI)を公表し、投資判断に環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の各要素を考慮することを提言したのがその出発点となっています。

 

「私達は将来の世代のための金融資産を運用しており、その長期リターンには企業ガバナンス、マーケット動向、経済環境との関連性が強いことを認める。責任投資原則を通じて長期投資リターンの源泉についての理解が投資家のコミュニティ間で深まることを期待します」と、UN-PRI(国連責任投資原則)の6原則の立案者の一人、ナッツ氏(運用資産額2500億ドルを超えるノルウェー政府年金基金の事務局長)が述べています。

 

国連責任投資原則に署名した機関が環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)のそれぞれの課題を投資の意思決定に組み込む際に必要とする教育・理解を促進するためにPRI(Principles for Responsible Investment)が設立されました。

 

PRIとは国連環境計画・金融イニシアチブおよび国連グローバルコンパクトが事務局となって、投資家に働きかけをしている団体のことです。国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)は国連の補助機関である国連環境計画(UNEP)と200以上の世界各地の銀行、保険、証券会社等とのパートナーシップで設立され、金融機関や規制当局と協調し、経済的発展とESGへの配慮を統合した金融システムへの転換を進めています。国連グローバル・コンパクト(UNGC)には世界約160ヵ国で1万4000を超える企業・団体が署名し、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」を軸に未来世代の必要に応える活動を展開しています。

 

ヨーロッパでESG投資の普及が進んでいるのは、キリスト教文化との親密性の影響も?
ヨーロッパでESG投資の普及が進んでいるのはキリスト教文化との親密性も関係?

 

ESG要因を投資判断や株主としての行動に組み込むことで、「投資のリスクを軽減し、投資収益を増やし、受益者と顧客の期待に応えよう」という考えが欧州の機関投資家の間で進み、PRIへの署名機関数は世界中で増えています。機関投資家は、これらの取り組みをさらに改善するために、企業や政策立案者などにも直接的な働きかけ(エンゲージメント活動)を行い、環境および社会全体に、目に見える利益がもたらされると考えています。

 

投資期間が長期であるということは、公的資金だけにかかわる話ではありません。欧州では富裕層がファミリー・オフィス(※1)を設立し、これを通じて行う投資の運用成果を次世代の子供や孫が享受する仕組みがあり、そこでは未来の社会に貢献しない企業を排除する投資行動(ネガティブ・スクリーニング)を命じることもあります。

 

※1 ファミリー・オフィスは富裕層が信託形式を通じて、将来世代に富みを引き継がせる仕組みです。例:ロックフェラー・キャピタル・マネジメントは米・ロックフェラー家が1882年に設立したファミリー・オフィスです。

 

要約すると、責任投資原則を通じて、「次の世代が生きる世界が今より発展するように」と、我々のような投資家が、自分たちの投資行動について公約しているということになります。次世代を視野に入れた行動は、我々の将来の行動に対する制約をもたらします。投資先企業には「短期的な経済的リターン」だけではなく、中長期の戦略に「環境」や「社会」の面で企業の持続可能性に重要な影響を及ぼす経営課題への取り組みを期待し、一連の社会的リターンも企業に成果として挙げてもらわなければなりません。

 

余談ですが、責任投資原則がヨーロッパで広く採用され、ESG投資の普及が進んでいるのは、キリスト教文化との親密性の影響もあるようです。

 

次回は筆者が実践しているESGの評価手法について解説していきます。

 

 

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