新型コロナウイルスの影響は、世界各地の不動産市場にも広がっています。今回は米国サンディエゴにおいて、不動産売買契約最終日の登記登録日に契約を取り消した夫婦のケースをみてみます。現地リアルターである、パシフィック サザビーズ インターナショナル リアルティの石橋由美子氏が、サンディエゴの最新事情も紹介します。

不動産業は「生活に必須のビジネス」に追加された

例年ならば、南カリフォルニアの4月は確定申告を済ませ、夏に向けて不動産市場が活発になり始める頃です。しかし、今年は世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルスによる影響で、街はひっそりとしています。 3月20日には感染拡大防止を目的に、カリフォルニア州から外出禁止令が出されました。

 

人々の生活に必須の職種を「Essential Business」と呼びます。例えば、食料品店、医療機関、農業、水道・電気・ガス会社、ゴミ回収業、銀行、ガソリンスタンドのほか、生活に欠くことのできないものを製造している会社が該当します。こちらサンディエゴでは、「Essential Business」以外は休業や自宅勤務を強いられています。

 

そのような中で、衣食住の「住」にあたるとして、不動産業は「Essential Business」に追加されました。

 

その結果、売買契約過程の物件(エスクローに入っている)は、基本的には、住宅の売買から登記登録までを遂行することができます。これには(1)最新テクノロジーを駆使した契約書やローン書類へのサイン、(2)電信扱いでの頭金や融資の振り込みが活用されます。

 

ホームインスペクション(物件の調査)を行う調査人や、物件評価額を算出するの査定人は、人との接近距離(ソーシャルディスタンス)を守りながらの業務遂行となり、住宅ローン、エスクロー、タイトル会社、登記登録業務を行うカウンティーなどは、テレワークで対応します。

感染防止に向け、内見回数を極力最小限にとどめている

世界各地の不動産エージェントとの情報交換によると、多少の違いはありますが、どの国も、どの州でも外出自粛要請や外出禁止令が出ているようです。このような中で、各国政府、各州、各地域の規制条項に従って、不動産エージェントは対応しています。

 

南カリフォルニアでは、オープンハウスや物件のショーイング(内見)の禁止例が出ています。したがって、不動産エージェントは規制条項に従いながら、さまざまな対応を行っています。

 

例えば、売り手側の不動産エージェントである場合には、買い手側の不動産エージェントから内見の問い合わせが入った場合、オーナーが居住しているならば、基本的に実際の物件の内覧は避けます。

 

ビデオツアーや、ドローンによる上空からの物件確認、周辺施設(公園、学校など)を撮影したビデオによる情報提供、さらには裏庭・前庭の内見許可を得て窓越しに内部を見てもらうなど、工夫を凝らした内覧を実施しています。

 

その物件に興味のある買い手には、実際の内見前に、売買契約申込書を提出してもらいます。そして、売り手側の希望価格や条件に合った売買契約申込書を出した買い手側のみが、実際に内見をする機会を与えられます。もちろん、買い手側は内見後に、どのような理由でも契約申し込みを辞退することは可能です。

 

このようなプロセスをとることにより、内見回数を極力最小限にとどめる工夫をしています。

 

実際に内見まで至った際には、リスティングサイドの不動産エージェントは内見者に対して健康状態に関する質問を行います。このほか、マスクや使い捨て手袋の着用、消毒液の使用、使い捨て靴カバーの着用を、買い手サイドのエージェントに要請しています。

不動産登記登録日の当日に契約キャンセル?

ここで3月16日に起こった、新型コロナウイルスの影響を直に受けた事例をご紹介します。南カリフォルニアに外出禁止令が出る4日前のことです。私が13年間、不動産エージェントをつとめている中で、不動産売買契約最終日の登記登録日に契約取り消しになった初めてのケースです。


私は売り手側の不動産エージェントという立場でした。買い手側のご夫婦は3月13日に住宅ローンの書類にサインを終えて、3日後に登記登録を待つのみという状況でした。

 

ところが、キャンセルを決めたのです。ご主人は自営業で今後の収入減少が危惧されるためとの理由であり、ご婦人が失業したことも影響しました。


この段階でのキャンセルは、コンティンジェンシー期間(キャンセルをした場合にデポジットが買い手側に全額返金される期間)を過ぎており、売り手側は買い手側が支払ったデポジット10,000ドル(約107万5,000円)を得る権利がありました。

 

今回のケースでは、買い手は不動産売買契約最終日の登記登録日に契約を取り消した。
今回のケースでは、買い手は不動産売買契約最終日の登記登録日に契約を取り消した。

 

しかし、カリフォルニア不動産協会がその数日後に、ある決定を行ったのです。それは、新型コロナウイルスの影響による緊急救済対策として、追加の契約書類を発行するというものでした。新型コロナウイルスの感染拡大という事態を受け、失業や収入減少に陥った買い手側を守るという内容です。

 

今回ご紹介したケースでは、買い手側がその書類を提出してきた場合、売り手側(つまり、私の顧客)は通常ならば契約に違反するキャンセルのペナルティとして徴収できるデポジットを、徴収できなくなってしまいます。そこで、私は売り手側に連絡を入れて、早急にキャンセルに応じたほうが良い旨を伝えました。

 

無事にキャンセルが成立したことで、売り手側は違約金として買い手の納めたデポジットを徴収することができたのです。

 

ただ、売り手側はデポジットを徴収できたものの売却延期の状態となり、買い手側はデポジットを没収され、マイホームを諦めざるを得なくなりました。新型コロナウイルスは、このようにサンディエゴの不動産取引にも、大きな影響を与えたのです。

 

しかし、このような状況でも、問題なく登記登録を済ませて、売買を完了している物件も多数あります。米国における今後の不動産市場の動向や、物件価格が下落するのかといったことを、引き続き注視していきましょう。

 

石橋 由美子

パシフィックサザビーズインターナショナルリアルティ不動産エージェント

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