「長男の嫁に遺産を」のはずが…8000万円の分割、嫁の怒髪天

年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、口約束が招いたトラブル事例を、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

姑との関係に疲れた長男の嫁…さらに義父の介護も

「本当に疲れますよね、長男の嫁って」

 

そう愚痴をこぼすA子さん。4人兄妹の長男と結婚して、今年、銀婚式を迎えました。結婚以来、夫の両親と同居をしてきましたが、気苦労の連続でした。「長男の嫁として」毎食、食事の用意をして、「長男の嫁として」お盆やお正月には親族を迎える準備をして、「長男の嫁として」率先してご近所づきあいをして、「長男の嫁として」……。

 

「“長男の嫁として”って何なんですか! 奴隷ですよ、奴隷」

 

家は長男が継ぐもの、という考えが根強く残っている田舎に暮らすA子さん。夫とは、大学時代から交際していました。卒業後、夫は田舎に帰ったため、しばらく遠距離恋愛となりましたが、難局を乗り越えてゴールインしたのでした。

 

結婚が決まったとき、田舎暮らしがどのようなものなのか、義理の両親との同居とはどのようなものなのか、深くは考えなかったといいます。

 

「あのときは、夫にプロポーズされて、舞い上がっちゃったんでしょうね。何も考えずに、夫の田舎に行くことを了承しちゃいました」

 

義理の両親と同居を始めたとき、最初は、“都会からやってきたお嬢さん”として、大切に扱われていました。しかし段々と義母のあたりがきつくなってきたといいます。そして、「長男の嫁として、しっかりしなさい!」とことあるごとに叱られるようになったのです。

 

「そんな様子を見ても、夫も、義父も見て見ぬふりですよ。隠れて、どんなに泣いたことか。本当に男の人って、頼りにならないんだから」

 

そんなA子さんにとって憎き姑は、3年前に他界。さすがに、亡くなったときは気が抜けてしまったというA子さんでしたが、しばらくすると、また「長男の嫁として」奮闘しなければいけなくなりました。義父が階段で転倒し、人の手を借りないと移動するのが困難になったのです。

 

「プロの手を借りないと無理というレベルですよ。でもこの田舎では『親を施設に入れるなんて!』と陰口を叩かれるんですよ。ビックリですよ。それに対して、夫もだんまり……なんなんですかね、本当に!」

 

A子さん、「長男の嫁として」家事に、義父の介護にと忙しい日々を送っています。しかし義父は「いつもありがとう、A子さん」と、ことあるごとに感謝を口にするようになったといいます。

 

「…わたしも単純なんですよね。『ありがとう』といわれるだけで嬉しくなって。お義父さんに施設に入ってもらわなくて、良かったと思っちゃうんです」

 

ある年の正月。義父はA子さんと4人の兄妹の前でいいました。

 

――万が一のことがあったら、自分の財産はA子さん含めて5人で等分するように

 

A子さんが献身的に義父を支えていることは、すべての兄妹も知っていたので、特に異論が出ませんでした。そんなことがあった、2年後。義父は穏やかに旅立っていきました。

「5人で分けなさい」父の遺言は口約束でしかない…

義父は晩年、ことあるごとに「万が一のことがあったら……」と自分が亡くなった際のことを話していたので、みんな心の準備ができていたのでしょう。葬儀は悲しくも、どこか温かなものだったといいます。

 

しかし状況は一変。兄妹全員がそろった話し合いは、修羅場と化したのです。

 

長男「初七日も済んで落ち着いてきたころだから、そろそろ親父の相続のことを話そうか」

 

次男「そうだな、こういうことは早めに決めたほうがいいよな」

 

長女「具体的に、お父さんの遺産は何があるの?」

 

長男「まずこの家だろ。そして預貯金が、これらの通帳の合わせて……8000万円ほど。それくらいかな」

 

次女「合わせると結構な額になるのね」

 

長男「こんな田舎だから、この家の評価はたかがしれてると思う」

 

次男「そうだな。実質、この8000万円を4人でどう分けるか、だな」

 

長男「ん!? ちょっと待てよ。4人じゃなくて、5人だろ?」

 

長女「何いっているのよ、わたしたち4人兄妹じゃない」

 

長男「いや、親父が遺産はA子含めて、5人で分けろって」

 

次女「何いっているのよ、そんなの口約束でしょ。本当に5人で分けるわけないじゃない」

 

長男「でも親父は……」

 

次男「兄貴は、5人で分けたほうがいいもんな。だからそんなに必死なんだろ」

 

長男「バカにするな、おれはただ、親父の遺志を」

 

A子「あーーーーー面倒くさいですね、本当にこの兄妹は」

 

全員「えっ!?」

 

A子「わたし、お義父さんの遺産なんていらないです」

 

全員「えっ!?」

 

A子「その代わり、わたし離婚します」

 

A子さんはそういい放つと、テーブルの上にバンっと1通の書類を叩きつけました。それは、離婚届けでした。

 

長男「えっ!?」

 

A子「もう、こんな面倒くさい家族、いらないです!」

 

長男「ちょ、ちょ、落ち着けよ……」

 

こうして、遺産分割協議はいったん中断。先に離婚協議が続いているといいます。

 

り、りこんだなんて……
り、離婚だなんて……

口約束は意味がない…遺志は遺言書にして残す

遺産分割の方法は実にシンプルです。遺言書がある場合には遺言書の通り、遺言書がない場合には法定相続人全員での話し合い(遺産分割協議)によって分け方を決めていきます。

 

今回の事例では遺言書はなく、法定相続人全員で話し合いをしなければなりませんでした。義父が生前言っていた「長男の嫁にも遺産相続を」というのは、口約束でしかなく、法定相続人が否定すれば、実現しません。このようなことがないよう、遺志は遺言にして残すことをおすすめします。

 

遺言書には、大きく、法的な効力が弱い自筆証書遺言と、法的な効力が強い公正証書遺言があります。

 

自筆証書遺言は、15歳以上の人であれば、誰でも紙とペンだけで簡単に作ることが可能です。気をつけたいのは、亡くなった人が自筆証書遺言を残しておいた場合には、その遺言書をすぐに開封してはいけないということです。遺言書を家庭裁判所に持っていき、相続人立会いのもと開封します。この手続きを検認といいます。自筆証書遺言は、簡単に作成できる一方で、偽造や変造も簡単にできてしまいます。そういった事態にならないように、家庭裁判所で遺言の内容を明確にしておく必要があるのです。

 

公正証書遺言とは、公証役場で公証人が作ってくれる遺言書です。偽造変造のリスクが一切なく、公証役場で預かってもらうこともでます。

 

今年の7月から、自筆証書遺言の保管制度が始まれば、「遺言書が紛失した!」というトラブルは減るかもしれません。しかし遺言書自体の不備、というリスクが自筆証書遺言にはつきまといます。筆者の経験上、遺言書を残すのであれば、公正証書遺言を選択することをおすすめします。

 

 

【動画/筆者が「遺言書の基本」について分かりやすく解説】

 

橘 慶太
円満相続税理士法人

 

円満相続税理士法人 代表 税理士

中学・高校とバンド活動に明け暮れる。大学受験の失敗から一念発起し税理士を志す。大学在学中に税理士試験に4科目合格(法人税法の公開模試では全国1位)し、大学卒業前から国内最大手の税理士法人山田&パートナーズに正社員として入社する。

税理士法人山田&パートナーズでは相続専門の部署で6年間、相続税に専念。これまで手掛けた相続税申告は、上場企業の創業家や芸能人を含め、通算300件以上。また、三井住友銀行・静岡銀行・ゆうちょ銀行を中心に、全国の銀行で年間130回以上の相続税セミナーの講師を務め、27歳という若さで管理職に抜擢される。

税理士の使命は、難解な法律や税金をできる限りわかりやすく伝えることだと考えている。平成29年1月に表参道相続専門税理士事務所を設立し、平成30年より法人化に伴い、円満相続税理士法人に商号を変更した。

著者紹介

連載円満相続税理士が楽しく解説!「相続の基礎知識」

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