「お金あんの?」小料理屋の女将に閉店を迫る、容赦ない義弟妹

年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、義父の死が招いたトラブル事例を、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

義父と夫とその妻…3人で切り盛りした小料理屋

「最初は、『なんでこんな人と結婚したんだろう』って考えていましたよ」

 

そう笑うのは、街でも名の知れた小料理屋の女将、A子さん。結婚したのは、いまから20年ほど前のことで、夫は小料理屋の後継ぎでした。店を始めたのは、50歳にして脱サラした義父。その1年前に最愛の妻を亡くし、ふさぎこんでいた義父でしたが、一念発起し、駅近くの1戸建てを購入。改装して小料理屋をオープンさせたそうです。夫は当時、大学生でした。

 

「何をやっているんだよ、母さん亡くなったばかりなのに」と、最初は突然会社を辞めて店を始めた父に呆れていたといいます。しかし50歳にして大きなチャレンジをしている父のことが、次第に格好よく見えてきたといいます。一度は普通に就職をした夫でしたが、3年ほどで会社を辞めて、父の店で働くようになりました。

 

A子さんとその夫が出会ったのは、夫が大学卒業後に就職した会社。同期だったこともあり、意気投合して交際に発展したといいます。

 

「付き合い始めて3年ほど経ったとき、大事な話があるといわれたんです。プロポーズだと思うじゃないですか。そしたら、『会社を辞めてお父さんの店で働く』っていうんですよ。そんな自分だけど、これからも付き合っていってほしいって」

 

A子さんは、あまりに思いがけない恋人からの告白に、ただただびっくりしたといいます。

 

「それで、なぜかわたしからプロポーズしちゃんたんです。付き合うのは無理。かわりに結婚してって。変ですよね」

 

こうして二人は結婚。A子さんはそのまま会社で働いていましたが、ある時、小料理屋が雑誌で取り上げられたのをきっかけに、客足が止まらに人気店に。父と息子だけで切り盛りするには忙しすぎると、人を雇うことを考えていました。

 

「それで思わず、会社を辞めて、店を手伝うようになったんですよね。それがすべての始まりでした」と笑うA子さん。店は忙しく、毎週の1日ある定休日は、夫婦、泥のように眠る――そんな結婚生活だったといいます。

 

「休みなんてゼロ。忙しすぎて、夫婦だけの想い出なんてないんです。いま思えば、無理やりでも新婚旅行に行けばよかったですね」

 

そう寂しそうに話すA子さん。なぜなら、夫は3年前に他界してしまっていたのです。

突然の夫、そして義父を亡くした女将は…

それは突然のことだったといいます。仕込みをしているときに急に苦しみだし、病院に救急搬送されましたが、すでに手遅れでした。そのときばかりは、1週間ほど、店を閉めたそうです。

 

「休んだのは1週間だけでしたね。夫には、弟と妹がいるんですが、たまに手伝ってくれることもありますが、基本的に義父と二人で店を切り盛りしてきました。お店を開けないと、生活していけないですからね、わたしたち。でも、ゆっくりと夫のことを思い出す時間くらい取りたいな、と最近は思うんですよね」

 

そんなことを考えていた矢先、今度は義父が倒れてしまいます。すぐに病院に運ばれましたが、意識不明。いつ、何が起きてもおかしくない、という状態でした。A子さん、そのときばかりは、店を閉めようか悩んだといいます。しかし義父、そして夫の思いがたくさん詰まった大切な店です。メニューを絞り、座席をカウンターだけにして営業を続けることにしました。

 

「奇跡が起きて、お義父さん、眼を覚ますかもしれないじゃないですか。だからお店は閉められないと思って」

 

しかし、その願いはかないませんでした。1週間後、義父は帰らぬ人になりました。葬儀が終わり、初七日が過ぎた店先には、A子さんの姿がありました。

 

「お店!? これからも続けていきますよ。常連さんが、うるさいんです。『いつお店を開けるんだ?』って。大切なお客様ですから、ないがしろにしていたら、義父や夫に怒られてしまいます」

 

再び、活気を取り戻したかのようにみえた小料理屋。しかし突然の危機が襲います。ある日、開店前の店に、夫の弟と妹が姿を現しました。

 

A子「今日はどうしたの?」

 

義弟「ちょっと話があって」

 

A子「はなし?」

 

義妹「このお店のことなんだけど、お父さん(=義父)のものじゃない、このお店」

 

A子「そうね」

 

義弟「だから、俺らが相続することになるんだけど……」

 

A子さん、瞬間的に嫌な予感がしたといいます。

 

義妹「お兄ちゃん、話しにくいなら、わたしが話すわよ。お義姉さん、このお店、売ることにしたわ」

 

A子「……それは、もう決めたこと?」

 

義弟「ほら、この辺のずいぶんと土地の値段もあがっただろう。業者に聞いてみたんだよ、この店、どれくらいになりますかって。そしたら、軽く、億を超えるって」

 

A子「このお店、お義父さんや夫の想いが詰まっているんです……」

 

義弟「わかるよ。でも税金とか、払うのA子さんじゃないでしょ、俺らでしょ。それとも俺らから、この店買ってくれる? そんなお金、あんの?」

 

義妹「仕方がないのよ。お父さんの相続のことで、お義姉さん、何もいえないんだもの」

 

確かに、自分には義父の相続で口を挟む権利はない。しかし義弟や義妹は、義父や夫の気持ちをくんでくれるに違いない――そう考えていたA子さんでしたが、残念ながら店は閉店することになったといいます。

 

このお店だけは……
このお店だけは……

相続人に財産を残すなら遺言書の作成を

法定相続人は、民法で定められた相続人のことをいいます。配偶者は必ず法定相続人になり、配偶者以外の法定相続人には優先順位があります。第1順位の法定相続人は子供ども、第2順位は直系尊属である父母、第3順位は兄弟姉妹となります。

 

今回の事例では、父(=義父)の配偶者は亡くなっているので、その子どもたち、すなわち弟(=義弟)と妹(=義妹)は相続人ですが、亡くなった兄(=夫)の配偶者であるA子さんは相続人ではありません。

 

このように、相続人ではない人に遺産を残したいのなら、遺言書が有効です。遺言書に遺志を綴れば、法定相続人以外にも遺産を残すことができます。

 

その際に気を付けるべきは遺留分です。遺留分は、亡くなった人の家族が、今後の生活に困らないようにするために、必要最低限の金額は相続できるようにするための制度です。その目安は、法定相続分の半分。事例において、たとえば「遺産のすべてをA子さんに相続する」という遺言書があったとしても、義弟や義妹は、法定相続分の半分を遺留分として請求できるわけです。

 

事例のように、万が一のことが突然おこり、トラブルに発展することはよくあります。相続人ではない誰かに遺産を残したいと考えるなら、早めに遺言書を作成することをおすすめします。

 

 

【動画/筆者が「遺言書の基本」について分かりやすく解説】

 

橘慶太
円満相続税理士法人

 

円満相続税理士法人 代表 税理士

大学受験の失敗から一念発起し税理士を志す。大学在学中に税理士試験に4科目合格(法人税法の公開模試では全国1位)し、大学卒業前から国内最大手の税理士法人に正社員として入社する。
勤務税理士時代は相続専門の部署で6年間、相続税に専念。これまで手掛けた相続税申告は、上場企業の創業家や芸能人を含め、通算400件以上。また、銀行や証券会社を中心に、年間130回以上の相続税セミナーの講師を務め、27歳という若さで管理職に抜擢される。
2017年1月に独立開業し、現在6名の相続専門税理士が在籍する円満相続税理士法人の代表を務める。週刊ポストや日本経済新聞、幻冬舎、女性自身など、様々メディアから取材を受けている。また、自身で運営しているYouTubeのチャンネル登録者は4万人を超えており、相続分野では日本一のチャンネルに成長している。

円満相続税理士法人:https://osd-souzoku.jp/

著者紹介

連載円満相続税理士が楽しく解説!「相続の基礎知識」

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