一向に落ち着く気配のない「新型コロナ感染拡大」。米国では、ニューヨーク連邦準備銀行の発表した製造業景況指数が、2001年の調査開始以来の最低水準を更新するなど、景況の悪化が深刻だ。一方、新型コロナ収束ムードの中国では、3月の経済指標が急回復し、「ポストコロナ禍」ともいえる様相が伺える。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO、長谷川建一氏が解説する。

米国「過去10年に創出された雇用がすべて失なわれた」

◆足元は厳しい現実

 

3月は人的移動制限が経済活動を大きく阻害し、生産活動も消費活動も混乱に陥ってしまったため、今後の指標面では悪いニュースが続くと予想されている。

 

米国では、3月の経済指標に影響がはっきりと出ており、新規失業保険申請件数が4週間の合計で約2200万件に達するなど、失業者の増加が際立ってきた。リーマン・ショック後の2009年半ばから創出された雇用は約2150万人といわれるので、過去10年間分の雇用がすべて失なわれたことになる。

 

多くの店舗が休業・閉鎖を余儀なくされたことや、失業者の急増により収入が絶たれたことから消費にも影響は出てきており、小売売上高は大幅に減少した。3月は2月比で8.7%減と、この統計が発表されるようになった1992年以降で最大の減少率を記録した。また、3月の米国住宅着工件数は前月比22.3%減の122万戸と8ヵ月ぶりの低水準で大幅に減少、1984年以来の急激な落込みとなった。

 

生産では鉱工業生産の総合指数は前月比5.4%減少し、こちらも1946年以来の大幅な落込みを記録した。製造業生産指数も前月比6.3%低下した。特に自動車生産は前月比28%も低下して、2009年1月以来のマイナス幅だった。機械生産も同5.6%低下と、いずれも工場の操業停止が製造業に大きく響いていることを示した。原油価格の急落で掘削が減少した影響から鉱業では同2.0%低下した。設備稼働率は72.7%という2010年4月以来の低水準となった。

 

景況感も大幅な落込みを示しており、ニューヨーク連銀が発表した製造業景況指数(4月の第1週に調査実施)は、マイナス78.2と2001年の調査開始以来の最低水準を更新した。ちなみに3月はマイナス21.5だった。当面、経済指標はたいへん厳しい現実をみせつけるだろう。

 

IMF(国際通貨基金)が4月14日に発表した最新の世界経済見通し(WEO)にも、厳しい現実をみることができる。IMFは、新型コロナウイルス感染防止のための「大規模ロックダウン(都市封鎖)」を受け、過去10年で最も深刻なリセッション(景気後退)に陥ると予想し、感染が長引いたり再来したりすれば景気回復は予想を下回る恐れがあるとの認識を示した。

 

◆IMFも世界経済の減速を覚悟

 

今回のWEOでは、今年の世界GDP(国内総生産)を3.0%減と予測している。前回1月のWEOに示した3.3%増から大幅に下方修正し、1929年の大恐慌以来最大の落込みとなる可能性に言及したのである。これは、2009年の金融危機で▲0.1%成長となって以来の減速である。新型コロナウイルスの感染拡大による経済的影響は、世界全域に及び、2020年の各国GDPは米国5.9%減、ユーロ圏は7.5%減、日本は5.2%減、先進国全体でも6.1%減と大幅に凹む見通し。中国とインドは2020年でもプラス成長を維持するが、それでも、中国が1.2%増、インドが1.9%増と伸びが鈍化する。

 

2021年の世界経済のGDPは5.8%増と2020年の反動増が予想されている。これは1980年以来の高成長になる。国別では、米国・ユーロ圏とも4.7%増、日本は3.0%増、中国は9.2%増、インド7.4%増と経済対策などが奏功して急回復する形にみえる。しかし、2020-2021年の比較では一見V字回復のようにみえるが、均してみると新型コロナウイルス流行前の成長軌道を下回ることになる。加えて、新型コロナウイルスの感染阻止までの時間が長引けば下方修正のリスクが高まることも指摘されており、WEO報告でも「極端な不確実性」がことさらに強調されているのは、頭に入れておくべきだろう。

 

なお、IMFは新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミック状況が、今年後半には収束し、封込め措置が徐々に解除できることをメインシナリオとして想定している。

厳しい政策を実行した中国では大幅に景気が回復

◆市場の注目は、ポストコロナ禍へ

 

市場は、徐々にポスト新型コロナウイルス禍にも視線を移し始めている。そこで、押さえておくべきは、厳しい外出制限など社会距離政策を実行し早期に対策を取った中国の例ではないだろうか。

 

中国や韓国では、人的制限などの対策開始から1ヵ月半から2ヵ月程度で感染拡大のペースが落ちたことがわかる。ロックダウン自体は、武漢市を例に挙げると1月23日から実施され4月8日に解除と、約2ヵ月半かかった。経済指標では、中国のPMI(製造業購買担当者指数)をみると、2月は35.7と大幅に落ち込んだものの、3月は52.0へと急回復した。中国の製造業は3月から地方ごとに順次、稼働を再開したが、それがPMIの改善にも寄与した。

 

中国人民銀行が発表した3月のマネーサプライ(M2)は前年同月比で10.1%増加と3年ぶりに大幅な伸びを示した。3月の経済全体のファイナンス規模も5.1兆元(約79兆円)、新規融資は2.8兆元と、大きく伸びたことがわかった。中国政府による景気支援策の効果が数字になって表れているようで経済活動の回復ぶりが顕著である。

 

また、4月9日に中国国家鉄路集団が発表した鉄道貨物輸送量(3月)は前年同月比で横ばい、前月比では4.5%増の3.46億トンとなった。貨物輸送量の安定的増加は、生産・操業再開が順調であることを伺わせる。新華社通信の報道によれば、中国政府は鉄道部門の減税・料金引き下げ政策を後押しし、貨物輸送の諸費用を引下げによる企業の物流コスト削減を支援することで、感染による影響を食い止めるとしている。若干、目立つ数字が誇張されている感はあるが、中国経済の回復は、今後の世界経済の「新型コロナ禍後のシナリオ」を占うのに、先行指標として追いかけておく必要があろう。

 

◆長期投資の視点から、相場に入るタイミングを検討

 

米国株式市場は、S&P500でみると、2月19日に市場最高値を付けたが、3月23日までの1ヵ月で、トランプ大統領が当選した2016年11月からの上昇相場の上げ幅をすべて失う水準まで下げた。このあと、戻り歩調となり、下落幅の25%程度を戻してきている。

 

ここからは、世界経済が切り返して再度拡大に向かうのか、感染拡大が止まらず経済活動の面でさらなる不況に陥るのかで、強気の相場展開に回帰するのか、弱気な相場になるのかの分岐点にあるといえるだろう。市場の焦点は、世界的なパンデミック状態が、「どれほど拡大するか」という点から、「どれほど長く続くか」に移っている。

 

一方で、各国政府の政策は実行段階に入ること、ウイルス対策など感染拡大抑止への成果も積み上がっていくことが期待される局面である(関連記事『2月時点では「対岸の火事」だった新型コロナ…相場激変の背景』)。予断は許さないが、市場での懸念は3月前半に比べれば薄らいでおり、ひとつひとつのニュースに、一喜一憂するよりも、長期投資の観点から、リスクを取るかどうかを判断していくことをおすすめしたい。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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