トヨタの減産発表で製造業の厳しい事業環境を再認識
4月16日(木)の東京株式市場では、日経平均株価は軟調な展開になっています。ただ、朝方につけた19,154.51円を安値に下げ渋っており、底堅さも見せています。
2月期企業の決算発表が一巡し、3月期企業の決算発表までは間があるという微妙なタイミングであるため、業績の材料がある企業よりも、新型コロナウイルス関連の銘柄に「幕間つなぎ」的に物色が入っている印象です。
経済産業省が、台所洗剤に含まれる成分を使った消毒について、新型コロナに有効かを確認するための実証実験に乗り出すと伝わったことを手がかりに、ライオンの株価が年初来高値に上昇しています。
また、ソニーと新型コロナウイルスの感染症対策で協業すると発表したエムスリーが続伸し、2.47%の上昇で午前の取引を終えています。
しかし、全体的なムードは良いとはいえません。トヨタ自動車は15日(水)、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、グループ会社を含む国内の完成車全18工場で減産すると発表しています。15工場を2日間ずつ停止し、北米や中近東向けの自動車を生産する5工場では5月半ばから最大5日間稼働を停止するようです。これにより、市場関係者の多くが、製造業の厳しい事業環境を再認識したのかもしれません。
米国では悪材料が相次ぎ、NYダウは大きく下落
厳しい状況を再認識したのは、日本の金融マーケットだけではありません。15日(水)の米国株式市場では、NYダウは大きく下落しました。これは、この日に発表された経済統計などで楽観ムードが吹き飛び、米国経済の厳しい状況が再認識されたためとの解説が聞かれます。
NYダウの終値は23,504.35ドル(前日比-445.41ドル)で、1.86%の下落でした。最もショッキングだったのは、この日発表された3月分の小売売上高で、結果は前月比-8.7%となり、市場予想の-8.0%を下振れました。
15日(水)に発表された経済統計はどれも悪く、3月分の鉱工業生産は市場予想の-4.0%を下回る-5.4%に、4月のニューヨーク連銀製造業景気指数は市場予想の-35.0を大幅に下回る-78.2となりました。いずれも景気の状況を反映しているものであり、景気悪化が示されました。
また、経済統計ではありませんが、この日に発表された米国の金融大手の決算がさえなかったことも、投資家の失望につながりました。
産油国への減産圧力は今後強まりそう
このように、ネガティブな材料が相次いだ米国市場ですが、景気悪化への懸念が一気に高まったため、原油価格が再び安値圏に下落しています。
新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に経済が停滞し、原油の需要が減少するとの見方から、WTI原油(NY原油)は3月に節目の20ドルを割り込む場面がありました。
その後、産油国の会合で減産が決まるとの思惑や、早期の景気回復期待で原油価格は持ち直しました。しかし、減産の幅が足りないとの見方が市場に広がり、原油価格は再び下落しています。ロシアも含めた「OPECプラス」の会合で、過去最大の減産幅である日量970万バレルの減産が決まりましたが、市場関係者の目線は2,000万バレルとされており、半分です。
もともと、原油価格に下押し圧力がかかっている状況で、15日(水)に新たなネガティブ材料が出ました。米国の週間石油在庫統計(前週比)が発表となり、原油は+1,924.8万バレル(5億0,362万バレル)、ガソリンは+491.4万バレル(2億6,222万バレル)、留出油は+628万バレル(1億2,900万バレル)となりました。
これは、米国の当局が市中の供給状況をみて、備蓄を増やしたり、放出したりしているものです。需要に対して供給が過多となっており、原油価格も下落しているため、在庫を増やしたものと解釈できます。NY原油先物5月限(WTI)の終値は19.87ドルでした。
すなわち、原油の需要と供給が釣り合っていないということであって、産油国への減産圧力は今後強まりそうです。
ただ、先に決まった日量970万バレルの減産でも、各国はもめました。自国の経済にとってはマイナスの話であり、簡単に受け入れられるものではありません。新たな政治的な対立につながるリスクもあって、難しい話です。
今のところは、WTI原油(NY原油)は一時的に19ドル台をつけても値を戻し、20ドル近辺が1つのサポートライン(下値支持線)となっています。一方の上値は30ドル近辺であり、レンジ相場の様相です。
しかし、経済状況や原油の算出をめぐる諸問題を考えると、原油価格はレンジを下方向に放れて、一段安となる可能性がありそうです。
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