どこの街に住むかの選択は、仕事やプライベートに大きな影響を与える。さらに家賃が家計支出の大きなウェイトを占めることを考えると、居住地は資産形成までも左右するといえる。総合的に考えて住みやすい街はどこなのだろうか? 今回取り上げるのは、『住みたい街ランキング』で、東京都で第1位の「恵比寿」。

会社員の適正家賃を超える家賃相場の「恵比寿」

毎年恒例の『住みたい街ランキング』(関東版)が発表され、全体で2位、東京都のなかで最高位だったのが「恵比寿」でした。「おしゃれな街」としても人気が高く、メディアでもたびたび取り上げられる街ですが、住み心地はどうなのでしょうか。20代・30代、独身の男性会社員の視点でみていきましょう。

 

「恵比寿」駅は、JR(山手線、埼京線、湘南新宿ライン)、東京メトロ日比谷線が乗り入れる接続駅です。JR駅の1日の乗車人数は14万人強、東京メトロ駅の乗降客は12万弱で、近年はゆるやかに増加傾向にあります。

 

待ち合わせ場所として知られるのは、駅西口のゑびす像。そのため駅名の由来は七福神の1人、恵比寿様にちなんだものと考える人もいますが、実際は「ヱビスビール」と深い関係があります。

 

1889年、現在のサッポロビールの前身となる日本麦酒醸造会社がこの地に工場を開設。その翌年に発売されたのが「ヱビスビール」です。1901年、ビールの運搬のために山手線に「ゑびす停留所」が開設され、1906年から「恵比寿」駅として一般の人も利用できるようになりました。ちなみに、当時、工場のあった一帯の地名は「下渋谷」。恵比寿という地名がついたのは1966年なので、駅名も地名も「ヱビスビール」が由来といえるでしょう。

 

いまでこそ「おしゃれな街」という印象が強い街ですが、1990年代の後半までは、小さな工場と古くからの住宅街が混在する下町でした。転機となったのは1988年、サッポロビールは「恵比寿工場」を千葉県船橋市に移転。工場跡地は再開発され、1994年に「恵比寿ガーデンプレイス」が開業を迎えます。

 

恵比寿三越(2021年2月閉店予定)やグラススクエアなどの商業施設のほか、新御三家と称されたウェスティンホテル東京、オフィスビル、東京都写真美術館などが集結する複合施設の誕生により、街のイメージは一転。アパレルショップや最先端の飲食店など、感度の高い店が集積するようになったのです。

 

駅に直結する「アトレ恵比寿」は、2016年に西館がオープン。都会生活者のニーズに応える多彩なテナントが並びます。駅周辺には洗練されたショップが点在する一方で、駅西口の「恵比寿新栄会」をはじめ、「恵比寿新橋商栄会」「エビス商店街」「恵比寿一番会」など古き良き商店街が残っています。最先端のスポットに注目が集まる恵比寿ですが、実際は、新旧混在した街並みが広がっています。

 

「恵比寿」駅前
「恵比寿」駅前

 

このような「恵比寿」駅周辺の居住性をみていきましょう。まずは駅周辺の家賃相場です。駅から徒歩10分圏内の1Kの平均家賃は11.24万円、11分を超えると、9.25万円という水準です(図表1)

 

出所:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ(4月11日時点)
[図表1]「恵比寿」駅周辺の平均家賃 出所:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ(4月11日時点)

 

厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、都内勤務の男性会社員の平均月給は、25~29歳で27.5万円、30~34歳で34.1万円です(図表2)。企業規模によって平均給与は異なりますが、そこから住民税や所得税などを差し引いた手取り額の1/3以内を適正家賃と考えると、都内勤務20代後半は6.9万円、都内勤務30代前半は8.5万円です。

 

出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査 」 ※10名以上の企業対象 ※数値は所定内給与額
[図表2]20代後半、30代前半の平均月給 出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査 」
※10名以上の企業対象
※数値は所定内給与額

 

家賃相場から考えると、恵比寿は一般の会社員の適正家賃からは大きく乖離する街だといえます。一方で恵比寿は築古の賃貸物件が多く残るエリアでもあります。大手ポータルサイトで検索すると、都内勤務30代前半の適正家賃内の賃貸物件が9件ヒット(4月11日現在)。その多くが、駅東側の東3丁目付近、築40~60年ほどの物件でした。

 

東3丁目付近は、明治通り沿いに単身者用マンションが建ち、そこから一歩入ると築古の物件が多く点在するエリア。いわゆる恵比寿をイメージする雰囲気は皆無です。物件の築年数、都会的な街の雰囲気にこだわらなければ、恵比寿での生活をかなえることができるでしょう。

利便性は申し分ないが、生活コストも高くつく覚悟を

次に交通の利便性をみてみましょう。前出のとおり「恵比寿」駅は、JRと東京メトロ日比谷線の接続駅です。JR利用で「渋谷」へは1駅で2分、「新宿」へは8分、「品川」へは11分、日比谷線利用で「六本木」へは6分、「日比谷」へは14分と、都心の主要なオフィス街へのアクセスは良好です(所要時間は平日8時に「恵比寿」駅を出発したと場合の目安)。また平日の通勤時間帯には各線3〜5分ごとに電車が出発し、電車を待つストレスはほぼありません。

 

生活の利便性をみてみましょう。まず単身者の生活を支える飲食店は、駅周辺を中心に集積。特に駅の西側のエリアからは「代官山」や「中目黒」まで徒歩圏内で、一帯に多彩なジャンルの店が点在しています。リーズナブルの店から肩肘張るような高級店まで揃い、オンもオフも恵比寿の街ですませることができるでしょう。

 

また駅周辺には「ザ・ガーデン自由が丘」や「成城石井」などのスーパーマーケットが点在しますが、少し値の張る品揃えの店が中心。最近増え始めている小型スーパーは近隣にはないエリアなので、生活のコストアップは覚悟しておいたほうがいいかもしれません。

 

「恵比寿」駅周辺は、都会的なイメージが先行していますが、実際は最先端と古き良き要素が共存した街です。交通、生活、双方の利便性は申し分のないエリアですが、家賃相場は高め。一般の会社員の適正家賃を超える水準です。一方で、築古であれば一般の会社員でも適正家賃となる物件を見つけることができます。恵比寿らしさを諦めることができれば、居住地の選択肢になりえるエリアだといえます。

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