本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

大企業・製造業・業況判断DIは▲8と5期連続悪化、13年3月調査(▲8)以来の低水準に

大企業・非製造業・業況判断DIは+8、12ポイント低下で+20台は12四半期連続で途絶える

新型コロナウイルスは製造業だけでなく、堅調だった非製造業を直撃。宿泊・飲食など大幅悪化

中小企業、製造業・業況判断DI▲15。先行き▲29は10年6月調査▲32以来の低水準

20年度ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模設備投資+1.2%

 

 

●3月調査日銀短観では、大企業・製造業・業況判断DIが▲8と13年3月調査(▲8)以来7年ぶりのマイナスになった。悪化は5期連続である。13年3月調査(▲8)以来のマイナスになった。19年12月調査は0だった。


●新型コロナウイルスの感染拡大の影響からサプライチェーンが支障をきたすなど、米中貿易戦争に起因する世界経済減速や、台風19号など自然災害による工場の操業停止などで弱含んでいた大企業・製造業・業況判断DIをマイナス圏に突き落としたかたちだ。


●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は17年12月調査で4%まで低下した。しかし、18年3月調査・6月調査で5%に戻り、9月調査・12月調査では6%に、19年3月調査では8%に、6月調査では9%、9月調査では10%に、12月調査では12%と徐々に増えていたが、今回20年3月調査では19%へと大きく増加した。


●なお、3月調査で「悪い」と答えた割合は「最近」では19%だが、「先行き」では20%と1ポイントの増加見込みである。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では11%、「先行き」では9%で、2ポイント減少となっている。

 

 

●3月調査の大企業・製造業の業況判断DI▲8は12月調査の「先行き」見通し0より8ポイント悪化した。足元の景況感が予測より悪かったということになる。


●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIは▲11と「最近」の▲8から3ポイント低い水準が見込まれている。3月調査の20年度の想定為替レートは107円98銭で、足元の実際の為替レート(4月1日朝時点:1ドル=107円台)と概ね同水準に置いている。


●新型コロナウイルスの感染拡大の影響は非製造業も直撃した。大企業・非製造業・業況判断DIでは、前回12月調査の+20から今回3月調査は+8と12ポイントも低下した。低下幅はリーマンショック時の09年3月調査の22ポイント以来の大幅低下となった。消費税増税が実施された前回12月調査でも「良い」超が+20台と内需の底堅さを反映し高水準が続いていていたが、+20台は12期連続で途切れた。


●新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、インバウンド需要の低下、イベント中止、外出自粛による消費減少などの悪影響をもたらした。大企業・宿泊・飲食サービスは12月調査の+11から3月調査では▲59まで70ポイントも悪化した。大企業・運輸・郵便は12月調査の+17から3月調査では▲7まで24ポイント悪化した。大企業・対個人サービスは12月調査の+25から3月調査では▲6まで31ポイント悪化した。大企業・小売は消費税増税が実施後の前回12月調査で▲3とマイナスになっていたが、3月調査では▲7とさらにマイナス幅が拡大した。


●20年3月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは悪化したものの35期連続のプラスは維持した。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は17年9月調査19年9月調査まで4%または5%で安定的に推移していた。前回19年12月調査は5%だったが、今回20年3月調査では13%まで一気に8ポイントも悪化した。


●大企業・非製造業・業況判断DIの「先行き」は▲1と「最近」の+8より9ポイント低下が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「先行き」は14%で「最近」から1ポイント増加している。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では21%、「先行き」では13%で8ポイントの減少だ。先行きが見えない新型コロナウイルスの感染拡大の影響に対する不安感が強いとみられる。


●中小企業・製造業の業況判断DIは今回3月調査で▲15と12月調査の▲9から6ポイントマイナス幅が拡大した。12月調査の「先行き」見通しでは▲12とみていたので、足元の景況感は予測よりも悪かったという結果である。

 

 

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10ヵ月ぶりのプラスになった。内需の底堅さを背景に、14年12月を新しい調査対象企業でみると25期連続してマイナスになっていない状況が続いていたが、20年3月調査で▲1と14年12月調査の旧企業ベースの▲1以来のマイナスがついてしまった。▲1という数字は、慎重にみる傾向がある12月調査時点の「先行き」+1さえも2ポイント下回る水準で、予測よりはかなり悪かったということになろう。


●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は▲29と「最近」▲15から14ポイント悪化し5期連続マイナスになる見通しである。また、中小企業・非製造業は▲19とこちらは「最近」▲1より18ポイントの悪化見通しである。


●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになり、以降プラスが続いていたが、今回20年3月調査で▲4と12月調査の+4から8ポイント低下しマイナスになってしまった。しかも3月調査の「先行き」は▲18と2ケタのマイナスで、終息が見通せない新型コロナウイルスの影響で、景況感は先行き悪化が続く見込みである。


●但し、売上高や経常利益の20年度の計画の前年同期比をみると、上期は概ね減少傾向だが、下期は概ね増加傾向に戻るかたちだ。調査期間が2月25日~3月31日なので、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の見通しが、どの時点で回答したかによっては異なる可能性もあり、計画の見通しに関しては幅をもって読み取る必要があるかもしれない。


●雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足感が新型コロナウイルスの影響で、今回20年3月調査で若干不足感が薄れる結果となった。大企業・全産業の雇用人員判断DIは▲20と前回19年12月調査の▲21から1ポイント低下した。「先行き」は▲18とさらに3ポイント低下する見込みと不足超が減少する見立てである。一方、中小企業・全産業では12月調査で▲34であったが、今回3月調査は▲31と3ポイント低下した。しかし、人手不足感が根強いのか、「先行き」は▲32と1ポイント戻る見通しだ。


●20年3月調査の20年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+4.3%になった。一方、20年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲11.7%だった。うち製造業は▲9.4%とこの時期としてはマイナス幅が小さい状況である。20年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は▲0.4%になった。


●また、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2020年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+1.9%。一方、20年度の中小企業・全産業で▲7.3%だった。20年度の全規模・全産業では+1.2%と19年度の計画+4.2%よりは低いが、新型コロナウイルスの影響がある中では底堅い数字になった感がある。テレワークや5Gなど新しい環境に備えた投資が下支えしている可能性がありそうだ。


●「企業の物価見通し」では、全規模・全産業でみて、物価全般の見通しでは、1年後が+0.5%と前回より▲0.3ポイント低下、3年後が+1.0%と前回より▲0.2ポイント低下、5年後が+1.0%と前回より▲0.1ポイント低下となった。新型コロナウイルスの影響による景気悪化や、原油価格低下の影響で物価上昇の鈍化が見込まれている。


●今回の日銀短観は、新型コロナウイルス感染拡大の影響は、製造業だけでなく、これまで堅調だった非製造業をも直撃した。宿泊・飲食サービス、運輸・郵便、小売などの業種が悪化したことが、数字の上から確認できた。また、20年度の設備投資計画は、現状の環境下では底堅さが感じられるものになった。新型コロナウイルス感染拡大の新たな局面を織り込むことになるであろう、次回6月調査が注目される状況だ。
 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年3月調査 日銀短観』を参照)。

 

2020年4月1日

 

宅森 昭吉

株式会社三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト 

 

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