本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

4月のトピック
景気判断理由で新型コロナウイルスについてのコメントは6割近くに。新型コロナウイルスに翻弄され、6~7年ぶりの悪いデータが散見。「アビガン」などが、新型コロナウイルスの治療薬になることを期待。

東京の桜の開花は観測史上最も早かったが、お花見自粛で景気支援材料にならず。大阪との差が長い点は要注視

新型コロナウイルスの感染拡大はこれまで比較的堅調だった身近なデータにも影を落とすようになっている。

 

今年の東京の桜の開花日は3月14日とこれまでの最も早かった3月16日より2日早く咲いた。1953年から実施されている気象庁の生物観測調査で、東京の桜の開花が3月21日以前と早い時は昨年までで14回あり、この時、景気は後退局面になったことがこれまではなかった(図表1)。早く春が来ると春物が売れるし、お花見で人々の気分が高揚するからだ。しかし、今年は新型コロナウイルスの感染を予防するために、お花見の宴会が自粛された。足元の景気は後退局面になってしまったと思われるので、とても残念だ。今年の東京の桜の満開日は3月22日だったが、4月に入っても東京都内の桜は満開の状況を維持しているところが多かったように思われる。

 

なお、大阪の桜の開花日は3月23日だった。東京との開花日の差は9日と長い。平年は東京が3月26日、大阪が3月28日でその差は2日である。過去、1972年以降、米の作況指数が91~94以下の不良や、90以下の著しい不良になった年は、1976年(作況指数94)、1980年(作況指数87)、1993年(作況指数74)の3回あるが、大阪と東京の開花日の差は各々7日、3日、5日と平年より長かった。平年より間隔が長くても平年並みになる年も多いので大丈夫だと思われるが、作況指数や天候の状況は要注視だろう。

 

中央競馬の売得金・年初からの累計前年比、無観客レースで減少に。3月31日まででは▲5.0%

JR東海によると、1月の東海道新幹線の輸送量は前年比+3%の増加と堅調だったが、2月の東海道新幹線の輸送量・前年比は▲8%と減少に転じた。3月は25日までの輸送量・前年比が、新型コロナウイルスの感染拡大による国内旅行や出張の自粛で前年比▲55%と大幅な下落と、利用者が半減している(図表2)。

 

昨年まで8年連続前年比増加となった中央競馬の売得金は年初から2月9日までの累計前年比では+2.3%の増加となっていたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、2月23日までの累計前年比で+0.4%に鈍化した。初の無観客競馬となった2月29日、3月1日は電話・ネット発売のみとなり、3月1日までの売得金の年初からの累計前年比は▲1.4%と減少に転じた。3月31日まででは同▲5.0%までマイナス幅が拡大した。ちなみに、3月31日までの入場者数の年初からの累計前年比は▲40.4%の大幅減少だ(図表3)。なお、初の無観客レースとなった高松宮記念の売得金は前年比+0.4%の増加であった。本来ならもう少し高めの伸び率になった可能性もあろう。

 

 

 

1月SixTONES vs Snow Man、2月日向坂46、3月にAKB48と乃木坂46がCD初動売上50万枚超達成

初動50万枚のシングルCDが出ているときに景気は拡張局面となる傾向がある。今年は1~3月にかけて毎月初動50万枚のシングルCDが出ていた。1月22日発売のジャニーズ史上初となる同時CDデビューを果たしたSixTONESとSnow Manのデビューシングル、SixTONES vs Snow Man「Imitation Rain/D.D.」の初動売上が132.8万枚となり、ミリオンを達成した。ジャニーズ・グループのデビューシングルでこれまで最高の初動売上だったのは2006年のKAT-TUN「Real Face」75.4万枚だったので、これを抜く新記録となった。3/29までの累計で157.8万枚だ。2月19日発売の日向坂46「ソンナコトナイヨ」は初動55.8万枚。3月18日発売のAKB48「失恋、ありがとう」は初動116.6万枚。3月25日発売の乃木坂46「しあわせの保護色」は初動99.5万枚となっている。こうしたデータからは、新型コロナウイルスの問題さえなかったら、景気局面も違ったものになったと思われる。

新型コロナウイルスの感染者を出さずに15日間を終えた春場所。懸賞は1,068本と6年4ヵ月ぶりの低水準

大相撲春場所は無観客開催となった。懸賞はかけられたが、事前に申し込んだ74社中、一時39社が取り止めたという。その後数社が戻ったが15日間終わって、結局1,068本と前年同場所比▲44.9%の減少となった(図表4)。平成25年(2013年)九州場所の735本以来6年4ヵ月ぶりの低水準になってしまった。優勝した横綱・白鵬に掛かった懸賞が少ない日は1本ということもあった。横綱同士の相星決戦となった千秋楽結びの一番の懸賞は27本にとどまった。

 

新型コロナウイルスの感染者を出さずに、春場所15日間を無事に乗り切って開催でき、場所後に新大関・朝乃山誕生となったことは明るい話題だ。初日の八角理事長の協会挨拶の中に「古来から力士の四股には邪悪なものを土の下に押し込む力があると言われてきました」とあったが、力士の四股が結果的には邪悪なウイルス封じ込めたかもしれない。

 

2月景気ウォッチャー調査、新型コロナウイルス感染拡大は百貨店、旅行・交通関連、飲食関連などに打撃

「景気ウォッチャー調査」は2020年1月調査に初めて「新型コロナウイルス」という言葉が登場した。翌月の2月調査は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が景況感に大きな悪材料となっていることを示すものになった。現状判断DI(季節調整値)は27.4で前月に比べ14.5ポイント低下した。東日本大震災直後の2011年4月の23.9以来8年10ヵ月ぶりの低水準になった。また、下落幅は前回消費税率引き上げ時の2014年4月の15.6ポイント低下以来の大幅なものだ。

 

景気ウォッチャー調査で分野・業種別データの1月から2月の変化幅から、新型コロナウイルスの悪影響が最も多く出たのはどの分野・業種か調べてみよう。細かい業種分類での季節調整値がないので、原数値の前月差を使用する。最大の低下は百貨店の▲32.2ポイントだ。2月分全国百貨店売上高・前年同月比が▲12.2%と、1月分に比べ9.1ポイント悪化していることと整合的だ。インバウンド需要が落ちている。次に大幅に低下したのは▲25.8ポイント低下した旅行・交通関連だ。飲食関連が▲23.7ポイントでこれに続いている(図表5)。一方、プラスになったのはスーパーである。+0.7ポイント改善した。チェーンストア協会の2月分スーパー売上高は、買いだめの動きに加え、うるう年の影響もあり前年同月比が+4.1%と5ヵ月ぶりの増加になった。

 

2月分景気ウォッチャー調査・先行き判断DIはリーマンショック時に次ぐ史上3番目の悪さ

2月の景気ウォッチャー調査で特徴的なことは先行き判断DIが大きく悪化したことだ。なお、現状判断DI(季節調整値)は悪い方から数えて11番目の指数水準に当たる。1~10番目は2008~2009年にかけての8回と東日本大震災の2011年の2回だけだ。現状水準判断DI(季節調整値)は30.0と1月から▲9.0ポイント低下したが、指数自体は悪い方から数えて27番目タイだ。リーマンショック時、東日本大震災の他に、2002年~2003年にかけて30.0以下は7回つけている指数水準になる。

 

先行き判断DI(季節調整値)は前月差17.2ポイント低下の24.6になった。この水準はリーマンショック時の2008年12月の21.3、2009年1月の23.8に次ぎ3番目に悪い水準である。東日本大震災の時には現状判断DIは大幅に悪化したが、復興期待があるため先行き判断DIがそれほどは悪化しなかったと言える。今回の新型コロナウイルス感染は先行きが見えないため、先行き判断の悪化の程度が大きいようだ(図表6)。

 

2月分景気ウォッチャー調査・先行き判断で新型コロナウイルスについて触れたウォッチャー数は全体の58%と過半数に

「新型コロナウイルス」関連現状判断DIは1月の29.1から2月は17.5へ悪化した。「新型コロナウイルス」関連先行き判断DIは1月の29.9から2月は20.4へと悪化した。先行き判断で新型コロナウイルスについてコメントしたウォッチャー数も345人から1,059人に拡大し、全体の58%と過半数にのぼった。「新型コロナウイルス対応の不手際により、信用できる情報が何かを見極められない状況である。信頼できる安全宣言、終息宣言が発せられるまで、回復を見通すことができない。」(北関東・旅行代理店〔所長〕)、「新型コロナウイルス感染が日本を始め世界的な規模で拡大している。当地でも、発生こそないが、観光業を始めとする基幹産業での影響が、今後強く懸念される。」(九州・職業安定所〔職員〕)といった厳しいコメントが散見される状況だ。

 

新型コロナウイルスに関してコメントしたウォッチャーの割合が74.8%と最も多い地域は、インバウンドの悪影響が大きく、感染者が当初全国で一番多かった北海道だ。関連DIは16.6という低水準である。全員が「やや悪くなる」と回答すると25.0だが、それを8.4ポイントも下回る悪い数字となっている(図表7)。

 

3月調査日銀短観大企業・製造業・業況判断DIが7年ぶりのマイナス。中小・非製造業・業況判断DIもマイナスに

3月調査の日銀短観では大企業・製造業・業況判断DIが▲8と5期連続悪化し、13年3月調査(▲8)以来の低水準になった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響からサプライチェーンが支障をきたすなど、米中貿易戦争に起因する世界経済減速や、台風19号など自然災害による工場の操業停止などで弱含んでいた大企業・製造業・業況判断DIをマイナス圏に突き落とした。また、大企業・非製造業・業況判断DIは+8と12月調査から12ポイント低下した。12四半期続いていた+20台という「良い」という回答がかなり多い状況は途絶えた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、インバウンド需要の低下、イベント中止、外出自粛による消費減少などの悪影響をもたらした。大企業・宿泊・飲食サービスは12月調査の+11から3月調査では▲59まで70ポイントも悪化した。

 

中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10ヵ月ぶりのプラスになった。内需の底堅さを背景に、14年12月を新しい調査対象企業で見ると25期連続してマイナスになっていない状況が続いていたが、20年3月調査で▲1と14年12月調査の旧企業ベースの▲1以来のマイナスがついてしまった。▲1という数字は、慎重にみる傾向がある12月調査時点の「先行き」+1さえも2ポイント下回る水準で、予測よりはかなり悪かったということになろう。雇用吸収力がある非製造業の業況判断DIが変調をきたしたことで、先行きの雇用の悪化が懸念される。

 

新型コロナウイルスへの対応では、第一に、多くの命を救うことを考える必要がある。感染拡大防止が最優先で、そのために経済面で支障が出ることは、止むをえないだろう。新型インフルエンザ治療薬、「アビガン」を製造している日本の製薬会社は、新型コロナウイルスの治療薬として国の承認を受けるための臨床試験を始めたと3月31日発表した。「アビガン」は新型コロナウイルスに感染した患者に投与すると肺炎の症状などを改善させる効果があると言われている。臨床試験は新型コロナウイルスに感染した患者、約100人を対象として東京都内の病院で6月末まで行われ、治療の効果や安全性を確認するということだ。早期に有効な治療薬が発見・開発されたり、ワクチン開発が行われるなど、人々に安心感が生まれることを期待したい状況だ。

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『新型コロナウイルスに翻弄される景気…感染拡大防止策に期待』を参照)。

 

2020年4月3日

 

宅森 昭吉

株式会社三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト 

 

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