義父母を15年も介護…「長男の嫁」がそれでも罵倒されたワケ

年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、義理の父母を介護した長男の嫁にまつわるトラブルを、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

義父の介護は10年、義母の介護は5年にも及んだ

今回ご紹介するのは、地方のある都市に住むAさんとその妻であるBさん。Aさんはいわゆる本家の長男。3人姉弟の末っ子で上に二人の姉がいましたが、幼少の頃から「お前は大事な跡取りだ」と両親に言われて育てられてきました。

 

中学、高校と進学するにつれ、決められたレールの上の人生に嫌気がさし、大学は東京の大学に進学、実家を離れました。そして東京の企業に就職し、地元に帰ることを拒みました。

 

しかしAさんが30歳になる直前のある日、父が倒れたとの一報を受けます。幸い、命を取り留めましたが、会社の承継を早急にすすめる必要が出てきました。Aさんは地元に戻り会社を継ぐように説得を受けました。

 

「人が敷いたレールをいくのが嫌だと、さんざん言ってきたので……地元に戻ることに踏ん切りがつかなかったのですが、当時お付き合いしていた彼女が、一緒に行くと言ってくれて。そこで地元に戻る決心がついたんです。このとき、付いてきてくれた彼女が、いまの奥さん(=Bさん)です」

 

こうしてAさんは地元に戻るのと同時にBさんと結婚。せっかくの新婚生活、実家とは別に新居をもうけようとAさんはBさんに提案しましたが、BさんはAさんの実家での新婚生活を希望しました。

 

「お義父さんが倒れたあとでしたし、できるだけ早く家族に馴染みたいなと思って」とBさん。こうして、Aさんの実家でAさん夫婦の新婚生活はスタートしました。

 

結婚の翌年には、長男が誕生。その翌年にはさらに次男が誕生と子宝に恵まれました。Aさんは実家の家業を継ぎ忙しい毎日を過ごし、Bさんもまた育児に加えて、闘病生活を続けている義父の介護と、目の回るような忙しい日々を過ごしました。Bさんの献身的な支えもあったからでしょう、Aさんの父は大好きな家で最期を迎えることができたそうです。育児と介護の両立は、10年以上に及びました。

 

「おやじはいい最期を迎えることができた。本当にありがとう」とAさんはBさんに何度も感謝を伝えました。「社長業なんて自分にはできないと思っていたけど、なんとかやってこれた。これも君が育児も父の介護も一手に引き受けてくれたからだよ」

 

Aさんの母も、Bさんには感謝してもしきれないといった様子。「本当であれば、わたしが夫の世話をすべきでしたが、わたしも体が弱くて……。夫には施設に入ってもらう、という案もあったんですけどね、Bさんが『わたしがいるから大丈夫。一緒に暮らしましょう』って言ってくれて。本当にAにはもったいないくらい、いいお嫁さんですよ」

 

そんなある日、長女と次女が実家に遊びにきました。そこでこんな会話がなされたのです。

 

長女「お父さんのこと、落ち着いた?」

 

Aさん母「そうね、納骨も済んだしね」

 

次女「そういえば、Bさんとは上手くやってるの」

 

Aさん母「そうね、仲良くやっているわ」

 

長女「それはよかった。嫁姑問題なんて、無縁ね」

 

Aさん母「ただ、料理の味が濃いのよね」

 

次女「そうなの、お母さん、塩分とか気をつけないと」

 

Aさん母「でもあの子たち(=孫)が育ち盛りじゃない。若い子は濃い味が好きだから」

 

長女「でもお母さんの健康にも気をつけてほしいわね」

 

実家に帰るたびにAさんの母はちょっとした愚痴をこぼしたといいます。そして長女と次女は、Bさんへの不信感を少しずつつのらせていったといいます。しかしその気持ちを直接、本人にぶつけるようなことはありませんでした。

 

Aさんの父の死から3年ほど経ったある日、今後はAさんの母も介護が必要になりました。Aさんの母は自ら施設に入ると言いました。やっと介護から解放されたBさんに、これ以上迷惑をかけらないと思ったそうです。しかしBさんは「わたしは、お義母さんと一緒に暮らしていきたいです。家族ですから」とAさんの母を引き止めました。あまりに熱心な説得を受け、Aさんの母は施設に入るのをやめました。

 

Aさんの母の介護は5年ほど続きました。晩年は、ほとんど寝たきり状態だったそうです。

遺産協議の場…相続とは関係ない話でギクシャク

Aさんの母の葬儀がひと通り終わった夜のこと。Aさんと長女、次女、そしてBさんが、遺産分割の話をしていました。

 

次女「ねえ、Bさんは相続人ではないから部外者よね」

 

長女「そうよ。席を外してもらえる?」

 

Aさん「俺がお願いしたんだよ。家族だから」

 

長女・次女「……わかったわよ。ただ部外者であることに代わりはないから、口は挟まないでくれる」

 

Bさん「わかってます。ただ聞いているだけなんで」

 

Aさん「お母さんの遺産は、この自宅。あとは親父の遺産がそのまま残っているから、貯金が5,000万円くらいある」

 

長女「この家には、二人がそのまま住むんでしょ」

 

長男「ああ。ずっと継いできた家だからな。俺にまかせてほしい」

 

次女「それでいいと思うわ」

 

長男「ありがとう。実家をもらう代わりに、貯金はふたりで分けたらいいと思うんだ」

 

長女「そうしてくれると、わだかまりもないわね」

 

次女「ちょっといい?」

 

長男「なに?」

 

次女「この際だから、Bさんに言いたいことがあるの」

 

Bさん「わたしに、ですか?」

 

次女「そう。Bさん、あなた、お母さんに色々と意地悪をしていたんじゃない?」

 

Bさん「えっ、お母さんにですか?」

 

長女「そうね、お母さん、よく愚痴を言っていたわ。料理の味が濃いとか、嫌いなものばかり食卓に並ぶとか。わざとしていたんでしょ」

 

Bさん「そんな、わざとだなんて……」

 

次女「いえ。だいたい嫁と姑がうまくいくわけなんてないのよ」

 

長女「お母さん、Bさんと一緒に暮らして、寿命、縮まっちゃんたんじゃない」

 

長女と次女が長年つのらせていったBさんへの思い。一度吐き出すと、とめどなく流れていきます。長女と次女の話に、Bさんはただ聞くことしかできませんでした。そのとき、机を大きく叩く音がしました。Aさんです。

 

Aさん「いいかげんにしないか、ふたりとも!」

 

長女・次女「えっ、どうしたのよ、お兄ちゃん」

 

Aさん「お前ら、Bがどれだけやってくれたのか、知っているのか! 親父と母さんの介護合わせて15年以上だぞ。お前ら、その間、自分の親に何をしてきたんだよ!」

 

長女「でも、お母さんが言ったというのは、本当のこととで……」

 

Aさん「一緒に暮らしていたら、愚痴のひとつやふたつ、あるさ。それを何もしてこなかったお前らが責め立てるな!」

 

長女・次女「……」

 

このあと、険悪な空気が包み込みましたが、遺産分割協議は実家はAさんが、貯金は長女と次女で1/2ずつ分けるという当初の案で決着。しかしAさんの長女・次女への怒りは消えず、いまのところ、連絡を一切とっていないそうです。

 

義父母の介護に力を尽くしたのに……
義父母の介護に力を尽くしたのに……

介護の苦労は「特別の寄与」では報われない!?

相続トラブルでは、介護が焦点になることがしばしばあります。相続人以外の親族が亡くなった方の介護に尽力したのに、いざ、相続が発生しても何も報われないという事態が起きるからです。事例では、献身的に義父母を介護したのにも関わらず、相続人から責められました。相続の現場では、理不尽なことが普通に発生します。

 

この献身的に介護をしたのに報われない、という不公平を是正しようと、2019年7月1日に相続法は改正され、「特別の寄与」という制度が始まりました。それにより、「相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、相続人に対して金銭の請求をすることができる」ようになりました。

 

この「寄与」というのは以前からありましたが、相続人にしか認められていませんでした。相続人以外にも対象が広がったのです。

 

この「特別の寄与」のポイントは3つ。

 

まず「特別寄与者となれる」のは、亡くなった人の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)だけです。内縁の妻がどんなに介護をがんばっても、特別寄与者にはなれません。次に「権利行使期間」は、相続開始及び相続人を知った時から6カ月以内、かつ相続開始時から1年以内とされています。そして「特別寄与料の額」は、相続人が複数存在する場合、各自が法定相続分に応じて特別寄与料を負担するとされています。

 

しかし「特別の寄与は簡単には認められない」という懸念があります。制度がスタートして1年も経っていないので何とも言えない部分がありますが、相続人に認められてきた寄与の概念が、そのまま新制度にもスライドして適用されると考えると、「特別の寄与」が認められるのは、非常に厳しいと考えられます。平成25年に東京家庭裁判所から出ている「寄与分の主張を検討する皆様へ」というパンフレットには、下記のような記述があります。

 

寄与分が認められるためには

②寄与分が認められるだけの要件を満たしていること
※要件とは、
「その寄与行為が被相続人にとって必要不可欠であったこと」、
「特別な貢献であること」
「被相続人から対価を得ていないこと」
「寄与行為が一定の期間あること」
「片手間ではなくかなりの負担を要していること」
「寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加に因果関係があること」
などで、その要件の一つでも欠けると認めることが難しくなります。

③客観的な裏付け資料が提出されていること
寄与分の主張をするには、誰が見ても、もっともだと分かる資料を提出する必要があります。主張の裏付けとなる資料のないまま主張すると、解決を長引かせてしまうだけです。

平成25年12月3日 東京家庭裁判所家事第5部より

 

要件は非常に多く、さらに客観的な裏付け資料を提出する必要があります。しかし将来寄与料を請求することを想定して、資料を作成しながら介護・看護を行っている方がどれほどいることか。

 

さらに寄与料とは介護保険における介護報酬基準をもとに計算されます。筆者の知っている方では時給3,000円というケースがありました。そして実際に介護士などに頼らなかった分、つまり1人で負担した時間、労力だけを計算していくと、想像以上に、請求できる金額は少ないのです。

 

 

【動画/筆者が「特別の寄与」を分かりやすく解説】

 

 

橘慶太
円満相続税理士法人

 

円満相続税理士法人 代表 税理士

中学・高校とバンド活動に明け暮れる。大学受験の失敗から一念発起し税理士を志す。大学在学中に税理士試験に4科目合格(法人税法の公開模試では全国1位)し、大学卒業前から国内最大手の税理士法人山田&パートナーズに正社員として入社する。

税理士法人山田&パートナーズでは相続専門の部署で6年間、相続税に専念。これまで手掛けた相続税申告は、上場企業の創業家や芸能人を含め、通算300件以上。また、三井住友銀行・静岡銀行・ゆうちょ銀行を中心に、全国の銀行で年間130回以上の相続税セミナーの講師を務め、27歳という若さで管理職に抜擢される。

税理士の使命は、難解な法律や税金をできる限りわかりやすく伝えることだと考えている。平成29年1月に表参道相続専門税理士事務所を設立し、平成30年より法人化に伴い、円満相続税理士法人に商号を変更した。

著者紹介

連載円満相続税理士が楽しく解説!「相続の基礎知識」

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