今回は前回に引き続き、会社員の確定申告「20万円問題」を取りあげます。特に勘違いしがちな落とし穴や株式投資をしている個人投資家のケースなどについて解説していきます。
確定申告したらとにかく全ての所得を申告
年末調整を行った会社員で給与所得・退職所得以外の所得が20万円以内であれば確定申告しなくてもよい制度。この制度が適用できるのは「確定申告をしない」ことが大前提です。
言い換えれば、確定申告をする場合は、20万円以内の給与所得・退職所得以外の所得であっても、それを含めて申告をしなければいけません。
また、住宅ローン控除の適用初年度(必ず確定申告をする必要がある)の場合や、医療費控除やふるさと納税(寄付金控除)などを受けるため確定申告する場合は、全ての所得を申告する必要があります。
確定申告しない方がよい場合も
例えば、こんなケースを考えてみましょう。給与所得については年末調整を実施済で、それ以外の所得が19万円ある会社員Aさん。この状況だけだと、Aさんは確定申告をしなくてもよいことになります。
もし、Aさんに多額の医療費がかかったことにより12万円の医療費控除を受けることができるとしたら、果たして確定申告するのが得策なのか?
確定申告をしなければ、還付を受けることも追加で税金を納めることもありません。でも、医療費控除を受けるために確定申告をした場合、19万円の所得も併せて申告しなければなりません。
そのため、確定申告をすることにより、19万円-12万円=7万円の所得が増額となり、医療費控除で還付を受けるつもりが、逆に税金が追加でかかることになってしまうのです。
確定申告不要の少額所得がある場合、医療費控除などを受けるために確定申告した方が有利なのかどうか、あらかじめシミュレーションしたうえで判断するようにしてください。
株式投資をしている個人投資家はどうなる?
個人投資家が、確定申告を必要とする場合はいくつかありますが、こうした場合にも確定申告不要な少額所得とのからみで気を付けないといけないケースがあります。
最も典型的なのが、株式売買で発生した損失の繰り越しをするために確定申告をするケースです。上場株式の譲渡損失は3年間にわたり繰り越すことができますが、そのためには必ず確定申告をしなければなりません。
一方、確定申告をすることで、20万円以下の少額所得も申告の対象となります。
もし、譲渡損失の金額が小さく、確定申告をすると少額所得についても申告が必要となる場合、確定申告するケースとしないケースでシミュレーションを行い、有利な方を選ぶようにしましょう。
譲渡損失の繰り越しは最長3年間にわたり確定申告が必要になります。また、少額所得は総合課税の税率が適用となる一方、株式の譲渡所得は申告分離課税の税率となります。このため、上の医療費控除等と少額所得がからむケースと比べると、シミュレーションもやや複雑になってきます。
源泉徴収ありの特定口座+株式数比例配分方式が有利に働く
繰り越した過去の譲渡損失と、配当所得とを損益通算するときも、確定申告が必要となりますので、同様のシミュレーションで有利不利の判定が必要です。
また、同じ年(今回の確定申告であれば2019年)での株式の譲渡損失と配当所得がある場合も、これらを損益通算して源泉徴収された税額の還付を受けるためには確定申告が必要です。このときも少額所得がある場合は確定申告した方がよいのかどうかシミュレーションをしましょう。
なお、特定口座かつ配当金の受け取り方法を株式数比例配分方式としている場合、同じ年での株式投資の譲渡損失と配当所得があるときは、確定申告しなくても両者を特定口座内で損益通算してくれます。配当金の受け取り方法がどうなっているか、ご自身で確認してみてください。
住民税には確定申告不要の制度はないので注意
20万円以内であれば確定申告不要というこの制度、実は所得税だけに設けられていることはご存知ですか?
住民税には、確定申告不要の制度はありません。そのため、給与所得・退職所得以外の所得が20万円以内であり、かつ所得税の確定申告をしないとしても、別途住民税の確定申告は必要、ということになっています。
一見ややこしいようにも思える20万円以下の少額所得の確定申告不要制度。年末調整をした会社員など適用される人が限られていること、そして確定申告をした場合は適用がないことはぜひ押さえておいてください。
足立 武志
足立公認会計士事務所代表 公認会計士・税理士・ファイナンシャルプランナー
※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2020年2月21日に公開されたものです。