確定申告シーズンになりました。ここでよく話題になるのが2,000万円問題ではなく、いわゆる「20万円問題」。
副業で稼いだ収入や仮想通貨の売却益、外貨預金の為替差益など、給与所得以外のちょっとした所得が20万円以内であれば、確定申告しなくてもよい、という制度です。
今回は、この知っているようでよく分からない20万円問題を分かりやすく解説します。
確定申告をしなければいけない人とは
国税庁のホームページをみると、給与所得者であっても、次に該当する人は確定申告をしなければならない、となっています。
1. 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
2. 1カ所から給与の支払いを受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人
3. 2カ所以上から給与の支払いを受けている人で、主たる給与以外の給与の収入金額と給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人
(注) 給与の収入金額の合計額から、雑損控除、医療費控除、寄附金控除、基礎控除以外の各所得控除の合計額を差し引いた金額が150万円以下で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円以下の人は、申告の必要はありません。
4. 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人
5. 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
6. 源泉徴収義務のない者から給与等の支払いを受けている人
7. 退職所得について正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人
ここでポイントとなるのが2の記述です。1カ所から給与の支払いを受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人は確定申告が必要と書いてあります。
したがって、その裏を返せば、1カ所から給与の支払いを受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円以内であれば確定申告は不要である、と読むことができます。
これが、「会社員で給与以外の所得が20万円以内なら確定申告しなくてよい」と言われている理由です。
なお、一部では2カ所以上から給与の支払いを受けている人は対象外という説明がなされていますが、厳密には正しくありません。
上記3のように、主たる1カ所の給与を除いた所得の合計額が20万円以内であれば、確定申告を不要とすることができます。3の注書に該当する場合も確定申告不要です。
給与収入が2,000万円を超える方については、年末調整で課税が完了しない(そもそも年末調整できない)ので給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円以内であっても確定申告が必要です。
20万円に入るもの・入らないもの
そして、国税庁のホームページでは、確定申告の要・不要(他の所得が20万円を超えるかどうか)を判定する際に、所得として含めなくてよいものとして、次のように列記しています。
(注) 給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額には、次の所得は入りません。
1. 上場株式等の配当等や非上場株式の少額配当等で確定申告をしないことを選択したもの
2. 特定口座の源泉徴収選択口座内の上場株式等の譲渡による所得で、確定申告をしないことを選択したもの
3. 特定公社債の利子で確定申告をしないことを選択したもの
4. 源泉分離課税とされる預貯金や一般公社債等の利子等
5. 源泉分離課税とされる抵当証券などの金融類似商品の収益
6. 源泉分離課税とされる一時払養老保険の差益(保険期間等が5年以下のもの及び保険期間等が5年超で5年以内に解約されたもの)
この中で多くの方に関係がありそうなものが1、2、4です。
1は配当金です。上場株式の配当金は、受け取るときに20.315%の税金が天引きされていて、確定申告せずに課税関係を終わらせることができます。この金額が仮に20万円を超えていても、他の給与所得、退職所得以外の所得が20万円以内であれば確定申告をしなくても良いことになります。
2は源泉徴収ありの特定口座で取引した株式等の売却益です。源泉徴収ありの特定口座でいくら大きな利益を出したとしても、他の給与所得、退職所得以外の所得が20万円以内であれば確定申告は不要です。
4は受け取るときに税金が天引きされている預金や公社債の利息です。これらも20万円の計算には含まれません。
そもそもこんな人は対象外?
例えば、こんなケースを考えてみましょう。源泉徴収なしの特定口座で株の売却益が15万円生じている場合です。
もし年収2,000万円以下の会社員で、給料と15万円の売却益しかなければ、「20万円以内」の基準に該当しますので確定申告は不要となります。
でも商売をしている方や、フリーランスで事業所得がある方、不動産賃貸をしていて不動産取得がある方などの場合は、上記の15万円の売却益も確定申告する必要があります。
なぜなら確定申告をしなくてもよいのは「給与所得者」であり、年末調整のみで課税が終了している人のうち、給与所得と退職所得以外の所得が20万円以内の人だからです。
事業所得や不動産所得がある方は、年末調整ではなくそもそも確定申告で税額を計算し、納税しなければなりません。そのため、他の所得が20万円以内であっても確定申告が不要、とはならないのです。
なお、公的年金の収入が400万円以下で、かつそのすべてが源泉徴収の対象となっている場合は、公的年金等に係る雑所得以外の所得が20万円以内であれば確定申告不要になります。
次回は、この「20万円問題」で勘違いしがちな落とし穴をいくつかご紹介したいと思います。
足立 武志
足立公認会計士事務所代表 公認会計士・税理士・ファイナンシャルプランナー
※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2020年2月7日に公開されたものです。