※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2020年4月7日に公開されたものです。

突き詰めて考えると、「投資」とは

何を今さら、と思われる読者が少なくないかもしれないが、「投資とは何か?」という問いへの答えを筆者は時々考えている。

 

例えば、「投資とは、経済活動に資本を提供して価値の生産活動に参加して、その一部を受け取ることだ」というような説明を思いつき、この説明は、ゼロサム・ゲーム的な「投機」(FXや商品相場などが該当する)よりも、資本を提供する「投資」が資産形成のためには有利であることを示唆する点で役に立つのだが、投資家がリスクを取って投資を続ける行為の意味を今一つ上手く説明していない。

 

最近、筆者の頭の中にあるフレーズは、投資とは、リスク・プレミアムのコレクションだというものだ。このように理解すると、投資家は正しい納得の下に投資を続けられるのではないだろうか。

 

投資家の損得の点から見ると、結果がばらつき損をするかもしれないというリスクを取ってでも投資を行う合理的な理由は、「リスク負担の対価を得ることができるから」という理由以外にあり得ない。

 

この点を理解すると、投資家は、「長期で投資すると絶対にもうかるはずだ」とか「世界経済は成長するはずだ」などという根拠の薄弱な「信念」に頼らずに投資に参加できるはずだ。

 

例えば、20年後に株価が200になると予想される株式の現在の株価は(簡単化のために配当はゼロとしよう)、「20年後に200」が達成されることが確実なら、現在たぶん190以上に形成されるだろう。しかし、「20年後に200」という予想が外れるリスクがあるなら、現在の株価は100くらいで形成されるかもしれない(この場合の割引率はおおよそ年率3.5%だ)。

 

「絶対に…」という条件が成立すると、株式投資はリスクの無い運用よりももうかるものになり得ない。

 

株式市場では、10年に一度くらい大きな株価の下落が起こる。そのたびに、「もう株式投資なんてダメなのかもしれない…」、「資本主義の終わりだ」、「株式投資なんてもうこりごりだ」、などと投資家が思うことによって、株価は有利なリターンを生むように形成される。それを繰り返しているのが株式市場であり、「本当に終わり」が来るかどうかは、将来になってみないと分からない。

 

その危うさに耐えられないと思う人は、株式投資をしなくてもいい。真面目に働いて、計画的に貯蓄するなら、生活は破綻しない。大丈夫だ。投資をしなくても、人生はやっていける。

 

一方、投資には有利なリターンがあるだろうと思う人は、自分が取ることのできるリスクの範囲で投資をしたらいい。世の中に投資の損失を恐れる人が多いほど、その投資は報われる可能性が大きいはずだ。人々の恐怖心こそが投資を支える栄養なのだ。

 

損をする可能性が絶対に無いとは言えないが、損をしても、しょせんお金で済む話ならいいではないか。そう思える人こそが、投資でリターンを得る資格を持っている。

株価はこうして決まる

ここから1,000字くらいは、少し理屈っぽい話をするので、数式とか論理とかが面倒くさい読者は、このパートを飛ばして、次のセクションまで飛んでいただいて結構だ。

 

さて、株価を予想される企業の利益の割引現在価値だと理解すると、株価をP一株あたりの利益をE将来まで一定の利益成長率をg投資家が株式投資に要求するリターン(割引率)をrとして、以下の関係が成り立つ(高校の数学に出てくる「等比数列の和の公式」の応用だ)。

 

P=E/(r―g)

 

例えば、一株あたりの利益が100円で割引率が6%(=0.06)の時、永続的な利益成長率が+2%(=0.02)なら、株価は2,500円になるし、利益成長率がマイナス2%(=▲0.02)なら株価は1,250円だ。それぞれの株価で投資した時の期待リターンは同じだ。

 

適正に形成された株価に投資するなら、世界経済がプラス成長でもマイナス成長でも、株式投資は同じ期待リターンを持つと考えることができる。投資家は、資本主義の未来まで心配しなくていい。ただ、他の投資家が十分な恐怖を株式投資に感じているかどうかが重要なのだ。

 

先の関係を株式投資の期待リターンであるrについて整理すると、

 

r=E/P+g

 

となる。

 

株式投資の期待リターン(r)は、株価に対する一株利益の比率、つまり益利回りに利益の成長率を足したものになる。

 

さらに、株式投資の期待リターンであるrは、リスク無しにお金を増やすことができる無リスク金利(i)と、株式投資のリスクを負担することに対して投資家が要求する「リスク・プレミアム」(小文字の「p」としよう)に分解できる。pについて整理すると、

 

p=E/P+g―i

 

ということになる。株式に投資することによるリスク・プレミアムは、株式の益利回りに利益成長率を足して、そこから無リスク資産の金利を差し引いたものになる。投資家は、このリスク・プレミアムの獲得を目指して、株式に投資するのだ。

 

例えば、新型コロナウイルスの影響で企業の利益成長率が大幅に低下あるいはマイナスと予想される場合、投資家が求めるリスク・プレミアム(p)が一定なら、株価(P)が下落して株式の益利回り(E/P)を上げることで、式の右辺と左辺を均衡させるしかない。概念的には、これが最近起こったコロナ・ショックによる株価下落の説明だ。

 

しゃくし定規にこの関係を当てはめると、株価が高い時に投資しても、株価が低い時に投資しても、リスク・プレミアムの大きさが同じなら、有利・不利はないはずだ。

 

しかし、現在、投資家は、自らの投資に関して、コロナウイルス問題の経済的影響について「恐怖」を感じているのではないだろうか。そうなのだとすると、株式投資のリスク負担に対する追加的なリターンであるリスク・プレミアム(p)を通常よりも大きく要求して株価を形成しているということは十分ありそうだ。リスク・プレミアムの拡大は株価の下落に拍車を掛ける。

 

いかにもありそうな話だが、仮にリスク・プレミアムが拡大しているとしよう。すると、投資家の立場から今回の株価下落を見ると、株式市場の参加者が見積もる将来の利益成長率(g)が、仮に、将来実現する値よりも高いか・低いかが五分五分であるとすれば、今の株価で株式に投資することは、通常の株式投資よりも有利な(期待リターンがより高い)投資だと考えることができる。

 

投資がリスク・プレミアムのコレクションなのだとすると、コロナ・ショック暴落の渦中にある今のような時こそが投資のチャンスなのだと考える事ができる訳だ。

有利なコレクションの方法は

投資をリスク・プレミアムのコレクションだと考える場合に、有利なコレクションの方法について、原則を3つ述べておく。

 

まず、株式のリターンには大いに変動があるとしても、平均的にはリスク・プレミアムが存在することを期待して投資する訳なので、資金を長期的に変動リスクに晒して、長い期間にわたってリスク・プレミアムを集める必要がある。つまり第一の原則は「長期投資」だ。

 

リスク・プレミアムは投資の利回りとして実現するのだから、複利で増やすことが有効だし、株式を途中で売買して利益に課税されることは平均的に見て不利となる。基本的には、じっと持っていて、配当金が出たら再投資するのがいい。

 

第二の原則は、同じリスク・プレミアムを期待できるなら、リスクを抑えてこれを求めるほうが有利なので、「分散投資」ということになる。株式をじっと持ち、資金を長期にわたってリスクに晒すためには、分散投資されたポートフォリオを持つほうが有利だ。なるべくリスクを抑えながら、より多くのリスク・プレミアムを集めることが、投資家のスキルの中核だ。

 

勘のいい読者は既にお気づきだろうが、第三の原則は「低コスト」だ。長期にわたるリスク・プレミアムの収集作業に当たって、確実なマイナス・リターンであるコストは小さく抑えたい。

 

人々がリスクを十分恐れて株価を形成してくれるなら、「長期」・「分散」・「低コスト」の三原則を活用して投資していると、その投資はリスク・プレミアムを伴ったリターンを生むことが期待できる。投資は、そういう仕組みになっている。

 

 

山崎元

楽天証券経済研究所

 

※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2020年4月7日に公開されたものです。

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