「波乱相場」なのに運用方針をほとんど変えなくていい理由

※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2020年5月12日に公開されたものです。

コロナ相場の予測が難しい理由

本稿執筆時点で、新型コロナウイルスの感染症(以下「コロナ」と略称する)が猛威を振るっている。世界の人々の生活と経済に甚大な影響が及んでいるが、資本市場にも大きな影響が表れており、内外の株価は大幅に下落して、定義上も「弱気相場」に入った(高値から2割安が一般的な定義だ)。

 

筆者は、ここのところ、「コロナを踏まえて、①今後の相場展開の見通しと、②個人が資産運用をどうしたらいいか、について教えて下さい」といった取材やコメント、原稿の依頼を頂くことが多い。

 

率直に言って、①は大変難しい質問だ。

 

難しさの理由は、一つにはコロナ自体に未知の要素が多くあることと、もう一つには、過去のパターンが当てはまらないことだ。コロナ・ショックが、金融的なバブル崩壊が実物経済に悪影響を及ぼした、リーマン・ショック(2008年)、ネットバブル崩壊(2000年)、日本のバブル崩壊(1990年代)のような典型的な経済サイクルに準じて発生したものではなく、新しい感染症の登場がいきなり実物経済に急ブレーキを掛けたためだ。

 

過去のバブルと経済循環のロジックから考えると、コロナによる不況が金融システムの危機に及んで、リーマン・ショック的な信用収縮メカニズムをさらに発生させるか否かが大きな問題であり、こうした問題の有無で将来の経済状況は大きく異なる。

 

政策的に手を打たなければ、特に海外の大手銀行にも経営破たんが起こることは不可避とも思えるが、既にリーマン・ショック後を大きく上回るような金融と財政の両政策が発動されていて、今後に追加される政策も含めて、その効果を読むことが難しい。コロナの経済への悪影響が異例である一方、経済政策の大きさも未曾有のものなので、帰趨(きすう)を見極めにくい。

 

今後、どうなるのか
実物経済への影響は計り知れず、先を読むことは難しい

 

もちろん、この要素の他に、コロナをめぐる、ワクチンや治療薬の開発の行方、ウイルスに対する免疫の有効性、ウイルスの変異や再流行の可能性、など医学的な不確実性が存在する。

 

少し考えてみただけで、やっぱり難しい。

 

おそらく、こと相場だけに限っても、先を読むことが難しいと考える専門家が多いだろう。

運用方針を考えて行き当たる「意外性」

ところが、考えるべき問題が②個人が資産運用をどうしたらいいかに移ると、答えが何ともシンプルなのだ。理屈は分かっているつもりなのだが、①相場見通しの難しさと、②個人に適切な運用方針、との二つの問に対する答えの質感のあまりのギャップに、自分でも驚く。

 

②に対する典型的な答えは、以下のようなものだ。

 

「生活費に必要なお金を別途確保して、悪いケースで3分の1程度の損失額を想定して許容できる範囲内の額をリスク資産に投資しましょう。この中身はおおむね外国株のインデックスファンド6割と国内株のインデックスファンド4割がいいでしょう。リスクを取りたくない資金は個人向け国債変動金利型10年満期と銀行の普通預金で運用しておくといいでしょう」。

 

以下、質問者と筆者(山崎)のやり取りを想定すると以下のような感じだ。

 

質問者「今回の相場下落で、かなり含み損が出ているのですが、損切りしなくていいのでしょうか?」
山崎「今の時点でリスクの額が過大でなければ、そのままで構いません。それに、長期投資に損切りという考え方を持ち込むことは不適切です」

 

質問者「株価が下がったので、リスク資産を買増するチャンスではないでしょうか?」
山崎「特に有利不利はありません。余裕があるなら、追加投資してもいいでしょう」

 

質問者「内外の株式の比率とか、リバランスの必要はありませんか?」
山崎「よほどのバランスの崩れがない場合は、大差ないので面倒ではないですか。リバランスが大事だと言うのは、多くの場合マネーアドバイザーが自分の仕事を作るためのポジショントークです」

 

質問者「今はリスクが大きいので、投資を休んだほうがいいですか?」
山崎「前からリスクはあったので、事情は変わっていません。そのままでいいでしょう」

 

質問者「積み立て投資を一時休んで様子を見ようかと思うのですが、不適切ですか?」
山崎「たぶん不適切です。将来に備える必要性は何も変わっていないはずですから」

 

質問者「結局、だいたいにおいて、投資は今まで通り、そのままでいい、ということですか?」
山崎「そうです。一言で言うと『そのままでいい』ということです」

 

いささか、サービス精神に欠けた答え方かもしれないが、以上のように答えることになる。「コロナ前」、「コロナ中」、「コロナ後」で投資方針は変わらないのだ。

投資方針が変わらない理由

投資方針が変わらない理由は、以下の二点だ。

 

①現在の株価には、市場参加者全体の将来の見通しとリスク・プレミアムが反映しているから

②個人なり会社なりが、市場参加者全体の見通しを凌駕できる見通しを持てるわけではないから

 

市場参加者全体の見通しが、常に正確なわけではないが、株価はその見通しを反映して形成されているので、「その見通しを一応妥当だとするなら」、リスク・プレミアムが変わらない限り、高い株価の時に投資しても、低い株価の時に投資しても、有利不利の差はない理屈だ。

 

それでは、この前提条件の「その見通しを一応妥当だとするなら」を否定できるかというと、思い込むのは個人や会社の勝手だが、それは困難だし、振り返ってみると、その困難さは「コロナ前」も同じだったと気づく。

 

「投資はリスク・プレミアムのコレクション(蒐集:しゅうしゅう)だ」という基本原理に返ると、「今の株価」を否定できる根拠がないなら、リスク・プレミアムを集めるべく、市場にお金を投じておくべきだという結論になる。

 

投資家にとって、コロナはいきなり生じた不運だったが、持っているリスクの大きさが適切であり、リスクの持ち方が適切である限り、コロナの前・中・後で、投資方針を変えなくていい場合が多いことが分かるだろう。

コロナで投資方針が変わる場合の補足

コロナの有無によって、「おおむね」投資方針はそのままでいいことをご理解頂いたとしよう。多くの読者にとって、それでいいはずだが、二点補足したい。

 

一つ目は、コロナで人的資本の価値が大きく変動した場合に、「最適なリスク額」が変わる可能性があるという点だ。

 

例えば、コロナによって失業したり、失業や減収の可能性が急激に高まったりした人の場合、取るべきリスクの額が変化(縮小方向へ)する可能性が若干あることは申し添えておこう。

 

もっとも、失業した人も遠からず再就職するだろうから、失業の精神的苦痛から想像されるほど人的資本は損なわれていない場合が多いはずだ。

 

人的資本が主に将来の年金額から決まる高齢者の場合は、人的資本が損なわれることをそもそも心配しなくていい場合が多い。また、働いている若い人の場合、そもそも人的資本の大きさに比して金融資産が小さいために、金融資産の中で取っている投資のリスクが問題にならないくらい小さいケースが多い。

 

つまり、たいていの人にとって、投資のリスクの大きさが「気にはなっても、問題になるほどではない」という状況なのだ。人生のリスク要因は投資ばかりにあるのではない。普通の投資で持っているリスクは、たいした問題でない場合が多い。

 

また、失業や減収が深刻な場合でも、将来の生活に対する備えの必要性は大きく変わらないはずだ。縮小すべきは、積み立て投資の金額よりも、当面の生活費だと判断される場合が多いのが、厳しいけれども現実だろう。

 

もう一点考慮すべきなのは、先ほどから何度か言及しているリスク・プレミアムだ。コロナのような状況は、市場参加者が要求するリスク・プレミアムを拡大するのか、あるいは縮小するのか、どれなのだろうか?

 

直接観察することができないのだが、市場参加者が「リスクは嫌いだ」と思う感覚がリスク・プレミアムの源泉なのだとすると、「コロナ前」よりも「コロナ中」の方がリスク・プレミアムは大きくなっている可能性がある。

 

先ほどの想定問答の中で、「余裕があるなら、追加投資してもいいでしょう」という、厳密には正しくないかもしれない発言を混ぜたのは、この可能性に対する期待が理由だ。成果を保証などできるものでは全くないが、この仮説に同意して投資を増やす方がいるなら、筆者は大いに応援したい。

 

【補足】「リスク・プレミアム」について

 

リスク・プレミアムとは、「投資家がリスクの負担に対して追加的に要求するリターン」のことで、株価は、リスク・プレミアムを反映して形成される。

 

例えば、20年後に「200」の価値を作っていると予想される会社の株式があるとしよう。

 

この200の価値が、絶対的に確実なものなら、金利がゼロである昨今、この株式は現時点で200に限りなく近い価値で評価され、200に近い株価が形成されるだろう。

 

しかし、言うまでもなく、「20年後に200の価値」が実現するかどうかは不確実だ。投資家は、20年間この株式を持っていると損をする可能性があり、そのリスクを負担しなければならない。

 

その損を負担するための追加的なリターン(=リスク・プレミアム)が、年率で3.5%なら、現在の株価はおおむね100くらいで形成されるはずだ(200÷1.03520=100.51…)。

 

仮に、「20年後に200の価値」の予想がそのままで、リスク・プレミアムが年率5%に拡大するなら、現在の株価は75くらいに評価されるはずだ(200÷1.0520=75.38…)。

 

仮に、以前に投資家の要求するリスク・プレミアムが年率3.5%だと分かっていて100だった株価が、75に下落した場合、(A)20年後の200の価値が、150くらいに下方修正された可能性と(75☓1.03520=149.234…)、(B)リスク・プレミアムが3.5%から5%に拡大した可能性、(C)予想の下方修正とリスク・プレミアムの拡大が両方少しずつ起こったケース、を想定することができる。

 

もちろん、この間にリスク・プレミアムが縮小した可能性も数学的には想定できるのだが、「コロナで相場大幅下落!」というようなイベントが起こった場合、投資家のリスク・プレミアムが縮小するとは想像しにくい。

 

だとすると、現実的に最もありそうなのは、(C)ではないだろうか。このケースならば、コロナで投資の期待リターンが上昇している可能性があるということだ。

 

ちなみに、(A)の場合に「現在、75の株価で投資すること」は「かつての時点で100の株価で投資すること」との間に有利不利はない。(B)あるいは(C)の場合には「現在、75の株価で投資すること」はかつて投資することよりもより期待リターンが高い。もちろん、いずれの場合にも、将来の状況が想定よりも悪くて、損をする可能性はある。

 

 

山崎元

楽天証券経済研究所

 

※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2020年5月12日に公開されたものです。

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