「遺言を書いておけばいいんでしょ?」「お金少ないし、子どもたちが何とかしてくれる」…相続のシーンでは、こういった声が多く聞かれます。しかし、安易な生前対策をした結果、骨肉の「争族」が発生してしまう例は後を絶ちません。そこで本連載では、税理士法人レディング代表・木下勇人氏の書籍『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版)より一部を抜粋し、相続の基礎知識を解説していきます。

再婚も悪くないけど、自分の遺産が心配

佐々木さん(58)は20年前に前妻と離婚しました。一人娘は前妻が引き取り、今は交流がありません。最近、新たな出会いがあり「再婚も悪くはないな」と考え始めました。再婚した場合に自分の遺産がどうなるか、気がかりです。

 

○再婚しない場合

前妻との子供も子供としての相続権を持つので、再婚しない場合は、子供が全部の財産(遺産)を受け継ぐことになります。

 

○再婚した場合

再婚した場合、新しい配偶者ももちろん相続権を持ちます。そして前妻との子供も、子供としての相続権を失うことはありません。よって法定相続分は配偶者1/2、子供1/2 となります。新しい配偶者との間に子供ができたときの法定相続分は、新しい妻1/2・前妻との子1/4・新しい妻との子1/4 となります。

 

遺言を書いていれば、新しい家族だけに財産(遺産)を残すということもできますが、前妻との間の子供が遺留分(法定相続分×1/2=1/8) を請求してくる可能性もあります。また、前妻が再婚し、前妻との間の子が、新しい父親と養子縁組をしている場合、その子は実の父と養父と両方の相続権を持つことになります。

再婚相手の子供にも、自分の財産を継がせたい

山田さん(42)は前妻との間の息子(6)と暮らしていましたが、職場の友人の紹介で、息子(4)を女手ひとつで育てるシングルマザーの弓恵さん(36)と知り合い、再婚することになりました。幸いなことに新しい結婚生活は順調で、子供たちも本当の兄弟のように仲良く遊んでいます。山田さんは「もし自分に何かあったら弓恵さんの息子にも財産を継がせたい」と考えるようになりました。

 

○あなた……再婚、連れ子あり

 配偶者……再婚、連れ子あり、という場合

 

配偶者の連れ子は、あなたとは血縁ではないため、あなたの財産の相続権はありません。実の子供と同じように財産を残してあげたいときは、「養子縁組」をすればその子にも実子と同じ権利が発生します。

 

【知っておきたい 相続の基礎知識】養子縁組

 

血の繋がりがない相手と法律上の親子関係を発生させる行為をいいます。養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」がありますが、ここでは一般的な「普通養子縁組」を前提に話を進めます。

 

養子縁組の条件は、養子となる人が養親より年下であることです。そのほかには性別や立場などの制約はありません。

 

養子縁組をすれば、養親との間に法律上の親子関係が成立するため、財産を相続する権利も実子と同じく発生します。また、普通養子縁組は、実親との親子関係も継続するため、養子縁組によって養子となった人は、2組の親(実親・養親)を持つことになります。

 

連れ子が幼かったりして「自分の子供のように育てたい」と養子縁組をすることもありますが、自分の孫を養子とする「相続税対策」としての養子縁組も多くみられます。相続税は基礎控除額3,000万円+(600万円×法定相続人の数)が控除されるため、相続人の数が多い方が、節税効果があるというわけです。

 

ここで覚えておきたいのは、万が一離婚してしまった場合でも、妻の連れ子との養子縁組自体は継続するということ。養子縁組は子供と親の契約なので、夫婦の離婚とは関係がないのです。

 

妻の連れ子を養子にした後に妻と別れた、というケースで、養子にした子に財産(遺産)を残したくない場合は、養子縁組を解消(養子離縁)する手続きを行う必要があります。養子縁組を解消する養子離縁手続きには、協議、調停、裁判があり、離婚と同じように非常に面倒になっています。

愛人にずっと住んでほしい vs 出て行ってほしい

妻子ある横山さん(72)は、自分が所有している複数のマンションのうちの一室に愛人(29)を住まわせています。横山さんは「自分が死んだ後もずっと愛人を住ませてあげたい」と思っていますが、家族は「お父さんが死んだらあの人には出て行ってもらう」と決めているようです。愛人の末路はどうなるのでしょうか。

 

29歳の愛人に住み続けてほしい
29歳の愛人に住み続けてほしい

 

横山さんが死んだ後、愛人(内縁の妻ではありません)はマンションを出て行くほかありません。愛人としてはマンションの居住権を主張したくなりますが、それはかなり危険です。逆に奥さんから不倫の慰謝料を請求されてしまう恐れがありますから。

 

遺族の気持になってみれば、愛人を追い出すだけでは足りず、「これまでの賃料を払え!」と思いますよね。実際「過去に遡って賃料を払え」と愛人に迫った遺族もいましたが、愛人側が「タダで住んでいいって言われたんだも~ん」と主張すれば「使用貸借の契約(タダで貸す契約)ができていた」となるため、追求できません。

 

不倫はおすすめしませんが、どうしても愛人に財産を残したいとき(あるいは、あなたが誰かの愛人で、財産をもらっておきたいとき)、その方法としては、① 籍を入れる、② 生きているうちに渡しておく(生前贈与)、③ 遺言を書く、のいずれかです。

 

そもそも①の入籍ができないから愛人なのでしょうし、③を選択して「愛人に財産を残す」なんて遺言を残すのはモメる元ですから、少しずつ②の生前贈与をする選択になるかもしれません。

 

【知っておきたい 相続の基礎知識】生前贈与

 

相続税の話題で必ずといっていいほど出てくる「生前贈与」という言葉。実にいいネーミングです。生前贈与は死んでからではなく、生きているうちに贈与することですが、そもそも贈与は生きているうちにしかできません。

 

また、例えば認知症(重度)のおじいちゃんは、贈与できません。「贈与」は、“あげます”“もらいます”というお互いの意思表示が必要となるからです。

 

「贈与」とは、ある財産を無償で相手方に贈るという意思表示に対して、相手方がこれを承諾することによって成立する契約の一種です。民法では以下のように定義しています。

 

「当事者の一方(贈与者)がある財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思を表示し、相手方の受諾によって成立する契約」(民法549 条以下)。

 

「贈与」をした財産の金額によっては、財産を取得した(もらった)側に贈与税がかかります。高額で登記を伴うマンションなどの不動産を贈与した場合、税務署から問い合わせ(お尋ね)が入ることもあります。「生前贈与」をする際は、贈与税の申告・納税についても必要か、検討することも忘れずに行いましょう。

「おやじ、入籍だけは止めてくれ」

20年前に妻に先立たれた下田さん(65)。10年前から恋人(52)と同棲しています。下田さんは本心では彼女と結婚したいのですが、下田さんの息子(33)が「おやじ、入籍だけは止めてくれ」と結婚に断固反対。彼女も「今さら姓を変えたくない」といいます。下田さんは「結婚という形を取らずに彼女に財産を残す方法はないか」と考えています。

 

内縁の妻に財産を残したい、という気持ちは分かりますが、配偶者でない内縁の妻には公然の立場がありません。つまり財産(遺産)に関しては何の権利もありません。あくまで日本国の法律にのっとった配偶者だけに相続権が認められます。

 

長年、妻のように一緒に住んでいた内縁の妻と、一緒に作ってきた財産があったとしても、です(ただし、あなたに相続人がいない場合、「特別縁故者」という地位で内縁の妻が相続できる可能性が残りますが、確実なものではありません)。

 

内縁の妻に財産を残したい場合は、① 生きているうちに渡しておく(生前贈与)、② 遺言を書く、のいずれかを行うことをおすすめします。

 

 

木下 勇人

税理士法人レディング 代表

 

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