「遺言を書いておけばいいんでしょ?」「お金少ないし、子どもたちが何とかしてくれる」…相続のシーンでは、こういった声が多く聞かれます。しかし、安易な生前対策をした結果、骨肉の「争族」が発生してしまう例は後を絶ちません。そこで本連載では、税理士法人レディング代表・木下勇人氏の書籍『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版)より一部を抜粋し、相続の基礎知識を解説していきます。

父の愛読書を開くと、「遺言書」と書かれた封筒が…

【本記事のケース】 亡き父の遺産分割を終えて、平穏な暮らしに戻った恩田さん(58)。ある日、父の愛読書を開くと、「遺言書」と書いた封筒が出てきました。「中身を確かめたい」という好奇心もあります。恩田さんは、勝手に開けていいのでしょうか?

 

遺言書が出てきた…

 

遺言は、自分の財産をどうしてほしいのか、亡くなった人からのメッセージです。一刻も早く開いて内容を確認したい、とはやる気持ちは分かりますが、ちょっと待って! 遺言書は勝手に開けてはいけません! 特に自宅で見つかった自筆の遺言書は絶対に開けてはダメ! そのまま家庭裁判所に持っていきましょう。

 

遺言を先に発見した人が封を開けてしまうと、他の相続人は「開けた人が自分に有利なように書き換えたんじゃないの?」と疑って、トラブルの元になります。また、封のしていない遺言書であっても、自筆証書遺言であれば必ず検認が必要となります(ただし2020年7月10日以降に開始する法務局保管の場合は不要)。

 

そこで「誰も手を加えていませんよ」と証明するために、家庭裁判所での「検認」手続きが必要になるのです。

「紛失や改ざんのリスクが低い」遺言書の種類は?

遺言書は、自分の死後に財産などをどのように処遇してほしいかを残された人々に伝えるツールです。遺言書の形式には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があります。

 

① 自筆証書遺言
遺言する本人が、遺言の全文・日付・氏名を自書し、捺印した遺言書です(ワープロや代筆は不可。ただし2019年1月13日以降に亡くなられた方の相続については、作成する自筆証書遺言の財産目録は自書でなくてもよいこととなりました)。

いつでも新しく書くことができ、費用もかからないため手軽ですが、形式の不備で遺言が無効になったり、偽造されたり、本人保管のため発見されにくいなどのリスクがあります。

② 秘密証書遺言
遺言の存在は明らかにしつつ、内容は秘密にできる遺言書です。ワープロや代筆も可。遺言する本人が遺言書に署名・捺印のうえ封印、封紙に公証人および2人以上の証人が署名・捺印、本人が保管します。公証人よる形式チェックも実施されないため、実際にはほとんど使われていないのが現状です。

③ 公正証書遺言
遺言者が口述し、公証人が筆記する遺言書です。遺言者、公証人および2人以上の証人が、内容を承認のうえ署名・捺印します。家庭裁判所の検認手続きは不要です。

自筆証書遺言、秘密証書遺言は、家庭裁判所で相続人などの立会いのもと、遺言書を開封し、内容を確認する検認という手続きをする必要があります。

 

現状で一番おすすめなのは、公正証書遺言です。遺言書は公証人役場で保管し、コピーを受け取ります。コピーを紛失したとしても、公証人役場には120歳になるまで原本が保管されますから、紛失や改ざんのリスクは限りなく低いと言えます。

 

自筆証書遺言の保管場所には規定はありません。自宅の金庫での保管がおすすめですが、仏壇の引き出しに入れている方が多いです。火事などのリスクがあるので2通書いて、2ヶ所に保管するのがいいでしょう(コピーは不可です)。

 

銀行の貸金庫に保管する場合、相続発生後、その貸金庫を開けるのに相続人全員の同意と書類が必要となります。その手間を省くためにと、遺言に金庫を開ける人を選んで書いても、貸金庫に遺言書があったのでは用を成しません。保管場所の選定は、くれぐれも慎重に。

 

なお、2020年7月10日からは、自筆証書遺言は法務局で保管してもらうことが可能になります。遺言自体は現物保管ですが画像情報等は電子化されるため、全国どこからでも、どの法務局に保管してあるかを探せるようになります(保管期間は遺言書50年、画像情報等150年)。

「遺言書が見つからない…」探すための3ステップ

相続が発生したら、まずはじめに遺言書を探します。故人の意思を伝える遺言書の有無は相続に大きく影響しますし、遺言書が手続きの途中で見つかった場合、やり直しになってしまいます。
 

探す順番は…

① まずは、自宅(貸金庫含む)を探す。
② 公正証書遺言がないか最寄りの公証役場で確認する。
③ 見つからない場合は、法務局に預けていないか確認する。 

 

相続させる立場の人は、遺族の手間を省くためにも「遺言書はここにある」と伝えておくべきでしょう。

 

遺言書は形式にのっとった形で書かれていることが大切です。日付の書き忘れなど、形式から外れている場合は無効になってしまいます。もしも形式にのっとった正式な遺言書が複数出てきてしまった場合は、日付が一番新しいものが有効です。

ちなみに…遺言書は何歳になったら書ける?

以前は20歳からだった選挙権が、2016年から18歳に引き下げられました。では、遺言書は何歳から書けると思いますか? 20歳? 18歳? それとも…?

 

答えは、なんと15歳。民法第961条に規定されています。その理由は、明治民法を踏襲したから。そして、15歳になれば遺言能力があると考えられているから、とされています。

 

明治民法では婚姻適齢が男性は17歳、女性は15歳でした。その低い方の年齢に合わせたと言われています。また、15歳になれば遺言を作成する意思能力は備わっているだろうということが前提となっています。

 

ただし、親が代筆した遺言書は無効です。子供であっても、遺言の「最終意思を尊重する」という考えからすれば当然ですよね。

 

 

木下 勇人

税理士法人レディング 代表

 

ホントは怖い 相続の話

ホントは怖い 相続の話

木下 勇人

ぱる出版

「知らなかった」では済まされない! ×遺言書を書いておけば大丈夫 ×財産が少ないから財産目録はいらない ×成年後見人を付ければ安心 ……これらはすべて間違い! 3000件の遺産相続に関わった相続専門税理士が教え…

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