父死亡…「認知症で寝たきりの母」に相続権はありますか?

「遺言を書いておけばいいんでしょ?」「お金少ないし、子どもたちが何とかしてくれる」…相続のシーンでは、こういった声が多く聞かれます。しかし、安易な生前対策をした結果、骨肉の「争族」が発生してしまう例は後を絶ちません。そこで本連載では、税理士法人レディング代表・木下勇人氏の書籍『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版)より一部を抜粋し、相続の基礎知識を解説していきます。

法定相続人は「母、姉、私」の3人だけど…

鈴木さん(59歳)の父親が亡くなりました。相続人は、妻である鈴木さんの母親、姉、鈴木さんの3人ですが、母親は認知症で寝たきりに近い状態です。お母さんに相続権はあるのでしょうか?

 

母に相続権はあるの?
母に相続権はあるの?

 

相続人が認知症や知的障害などで相続した財産を管理できないことが予想される場合、相続権はどうなってしまうのかというと、権利は当然にあります。

 

ですが、重度の認知症や重度の知的障害の人は、銀行預金の名義の書き換えなど、相続に必要な書類を書くことはできません。そこで、元気な兄弟姉妹や子供がついつい「家族だからいいだろう」と代筆したくなりますが……ちょっと待って! これは犯罪です。たとえ実の子供が書いたとしても、私文書偽造の罪に問われる可能性があります。

 

「筆跡も似ているからバレないだろう」と思っていても、相続登記をお願いする司法書士さんは必ず取得者の本人確認をしますし、金融機関も最近は法令遵守が徹底され、書類の確認等も非常に厳しくなっています。

 

このようなケースでは、次の2つの方法が考えられます。

 

・未分割のまま(その人が亡くなってから、その人の相続人が分割)

・「成年後見制度」を利用し成年後見人が法定相続分で遺産分割

 

◆成年後見人制度には「2パターン」ある

 

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神上の疾患などにより、判断能力が不十分で自分の財産の管理や法律行為を行えない人が、不利益を被らないように、財産を管理したり、必要な契約などを行ったりする代理人を付けてもらう制度です。その代理人を成年後見人と呼びます。

 

本人の判断能力が衰える前から準備できる「任意後見制度」と、判断能力が衰えた後に手続きをする「法定後見制度」があります。法定後見制度は被後見人の判断能力に応じて、後見、保佐、補助の3つにわけられます。

 

●任意後見

認知症などになる前に、自分で自由に後見人の候補者(任意後見受任者)を選任します。

 

●法定後見

後見人は家庭裁判所が選任します。希望する候補者をあげることはできますが、候補者が相続関係等から不相当だと判断されると選任されません。候補がいないときは、家庭裁判所が司法書士などの専門家から選任します。

 

成年後見人がつくと財産は家庭裁判所の監督のもと、成年後見人が管理します。本人であっても自由に財産を処分できなくなりますし、周囲の親族も成年後見人の同意なく勝手に財産を使用することができなくなります。また、本人(成年被後見人)が単独で行った法律行為は、成年後見人が取り消せます(日用品の購入等を除く)。

 

気を付けなければならないのは、家庭裁判所からの審判で、希望する候補者(多くの場合はその子供)が選任されないなら、この制度は使いませんというわけにはいかないところです。審判が行われる前なら申し立ての取り下げもできますが、その場合でも家庭裁判所の許可が必要となり、取り下げの理由も必要となります。

 

また、成年後見人は勝手に辞めることも、気に入らないからという理由だけで辞めさせることもできないので、制度を利用する前によく検討することが必要です。

起業をしたがっている長男が遺産の取り分を主張した

急逝した星野さん(55)の相続人は妻の雪子さん(52)、長男(24)、長女(15)です。起業を考えている長男が取り分を主張したため、妻、長男、長女で遺産分割協議をすることになったのですが…[図表]。

 

[図表]

 

未成年者でも相続権に変化はありません。法定相続分は、妻1/2、ふたりの子供が1/4ずつです。

 

未成年者は財産に関わる法律行為に制限があるので、遺産分割協議や手続書類の記入・捺印などを行うための法定代理人を立てる必要があります。通常は親が法定代理人となりますが、親も相続人で、かつ遺産分割協議が行われるときは、利益が対立する利益相反になってしまうため、親が法定代理人になれません。

 

その場合は、子の住所地の家庭裁判所に申し立てを行い、特別代理人を立てます。未成年の子が2人以上いるときは、それぞれに特別代理人を選任します。本ケースの場合、本人や妻の両親などが該当するかもしれません。

 

◆特別代理人

 

特別代理人は、その手続きのためだけに、家庭裁判所によって特別に選任される代理人です。家庭裁判所への申立書には候補者を記載する欄があります。叔父、叔母などの相続人でない親族や、第三者を候補者として挙げることが可能です。特別代理人は家庭裁判所で決められた行為が終了すると同時に、任務が終了します。

 

○成年後見人がいる場合の特別代理人

 

成年後見人を付けている場合、両者が相続人になるなど、成年被後見人と成年後見人との間で利益相反がある場合も、特別代理人の選任が必要です。具体的には、認知症の母の成年後見人として長男が選任されており、母と長男がともに相続人になる場合などです。ただし、あらかじめ後見監督人が選任されているときは、あらためて特別代理人を選任する必要はありません。

 

 

木下 勇人

税理士法人レディング 代表

 

相続・事業承継専門『税理士法人レディング』 代表
税理士
公認会計士
宅地建物取引士

1975年、愛知県津島市出身。大学時代に宅建、不動産鑑定士を取得。28歳で公認会計士試験に合格し、「監査法人トーマツ」名古屋事務所に入所。上場企業級の非上場会社オーナーファミリーの事業継承対策に従事。約5年勤務の後、33歳で独立し、名古屋で公認会計士木下事務所・木下勇人税理士事務所を開設。翌2009年に、相続・事業承継専門の税理士法人レディングの代表となる。2017年、東京にも事務所を開設。現在、全国の税理士向け、保険募集人向け、不動産事業者向けなど、相続を取り巻くプロ相手に年間150回の研修講師をしながら、相続に関する情報を発信している。不動産鑑定士第2次試験合格者。AFP資格認定。東京税理士会 京橋支部所属。

著者紹介

連載「知らなかった」では済まされない!ホントは怖い相続の話

ホントは怖い 相続の話

ホントは怖い 相続の話

木下 勇人

ぱる出版

「知らなかった」では済まされない! ×遺言書を書いておけば大丈夫 ×財産が少ないから財産目録はいらない ×成年後見人を付ければ安心 ……これらはすべて間違い! 3000件の遺産相続に関わった相続専門税理士が教え…

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