「遺言を書いておけばいいんでしょ?」「お金少ないし、子どもたちが何とかしてくれる」…相続のシーンでは、こういった声が多く聞かれます。しかし、安易な生前対策をした結果、骨肉の「争族」が発生してしまう例は後を絶ちません。そこで本連載では、税理士法人レディング代表・木下勇人氏の書籍『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版)より一部を抜粋し、相続の基礎知識を解説していきます。

独身貴族を謳歌しているが…亡くなったら資産は?

山田貴男さん(66)は結婚をせず、気ままな生活を楽しんでいます。それなりの貯えもあり、老後も生活に不自由はないのですが、最近ふと「自分が死んだら財産はどこに行くのか」と考えることがあります。

 

もしあなたが独身のまま、遺言を書かずに亡くなってしまったら、あなたの財産(遺産)は誰が引き継ぐのでしょうか? それはどんな身内がいるかで変わってきます。

 

◆両親が生きている場合

 

あ
両親が生きている場合

 

あなたが亡くなったときに親が生きていれば、相続人は兄弟姉妹ではなく、親となります。兄弟姉妹より親のほうが優先です。遺産はあなたの両親のものになります。独身の子供が亡くなれば、遺産はその両親が引き継ぐことになるのです。

 

両親がいくら年をとっていても、たとえ100歳でも120歳でも、両親が引き継ぐことになります。お父さん、お母さんの両方が生きている場合は1/2ずつ。両親のうちどちらかしかいない場合は、生きている親が100%引き継ぎます。

 

◆両親が亡くなっている場合

 

あ
両親が亡くなっている場合

 

●すでに親がいなくて、兄弟姉妹がいる場合

 

・ 兄弟姉妹一人の場合……100%その人が引き継ぎます。

・ 兄弟姉妹が複数いる場合……兄弟姉妹全員に権利があります。年齢の上下や性別に関係なく、均等に分けます。

・ 兄弟姉妹がいない場合……もしあなたが独身、子供なし、両親なし、兄弟姉妹なしという場合は、相続人がいません。あなたの残した財産(遺産)は、特別縁故者がいなければ国庫に納められます。

 

【知っておきたい 相続の基礎知識】相続人の範囲と優先順位

 

人が亡くなったとき、誰が相続人になるのか、その範囲と優先順位は民法で定められています。

 

●相続の順位

 

① 配偶者……夫や妻(内縁は除く)は、お互いが常に相続人になります。

  子供……子供が複数いる場合は、それぞれ平等に権利を持ちます。養子、胎児、非嫡出子 (結婚していない男女の間に生まれた子)も「子供」に含みます。子供がすでに亡くなっている場合は、その子供が代襲相続人になります。

 

※ 代襲相続人とは

本来相続人となるはずの人がすでに死亡している場合に、代わって相続する人のことをいう。本来の相続人の子や孫。(ただし、兄弟姉妹の孫は代襲相続人にはなれない。)

 

② 両親……子供や、子供の代襲相続人がいない場合は、両親が相続人になります。

 

③ 兄弟姉妹……結婚をせず、子供がなく、両親も亡くなっている場合に、相続人になります。兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子供が代襲相続人になります。

 

[図表]相続人の範囲と優先順位
 

※尊属とは

自分よりも先の世代に属する直系および傍系の血族のこと。例えば、父母・祖父母などを直系尊属、おじ・おばなどを傍系尊属という。

 

※卑属とは

自分より後の世代に属する直系および傍系の血族のこと。例えば、子・孫などを直系卑属、おい・めいなどを傍系卑属という。(兄弟姉妹やいとこなど、本人と同世代の場合は、尊属でも卑属でもない。また、配偶者はいずれにも属さず、姻族についてもこの区分はない。)

 

●法定相続分

 

法定相続分とは、相続人間の公平を図る理念のもと、民法で定められた割合のことをいいます。必ずしも、法定相続分にそって分けなければならないというルールはありません。遺言や遺産分割協議で決めた内容が優先されます。

 

親、子供、兄弟姉妹が複数のときは、それぞれ均等になります。ただし、半血兄弟姉妹(いわゆる腹違いの兄弟姉妹)は均等ではなく半分になります。

 

法定相続分の割合

 

●妻子のいるあなたが亡くなったら?

 

あ
妻子のいるあなたが亡くなったら?

 

すでに両親は他界して、妻と子供ふたり、そんなあなたが亡くなったとき、法定相続分は妻が半分、子供たちが1/4ずつとなります。

 

●子供のいない一人息子のあなたが亡くなったら?

 

あ
子供のいない一人息子のあなたが亡くなったら?

 

すでに両親は他界して、子供がいない場合、あなたの財産(遺産)は妻が100%受け継ぎます。両親がまだ生きている場合の法定相続分は妻が2/3、あなたのお父さんとお母さんが1/6 ずつとなります。

 

●すでに夫を見送った妻が亡くなったら?

 

あ
すでに夫を見送った妻が亡くなったら?

 

夫がすでに亡くなっている場合で、その後、妻が亡くなったときの法定相続分は、1/3 ずつとなります。

浪費癖のある息子よりも、孫に相続させたい…

吉岡さん(78)は、自分の財産は、浪費癖のある一人息子(49)ではなく、将来有望な孫(23)に継いで欲しいと考えています。
あ
孫に引き継いでほしい…

 

子供はまだ生きているが、孫に少しでも多く相続させたいという場合、養子縁組する、という方法もありますが、やはり遺言を残すのが一番有効です。しかし、子供が遺留分を請求してくる可能性もあるので、遺留分に配慮した遺言を作成することをおすすめします。

 

もしも浪費癖のある一人息子が、あなたより先に亡くなっていて、孫以外に法定相続人がいない場合は、相続財産の全額を孫が相続することになります(孫が代襲相続人となるため)。

 

【知っておきたい 相続の基礎知識】相続人の範囲と優先順位

 

●遺留分

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人にだけ認められた、民法で保障されている一定割合の相続の取り分です。

 

遺留分の割合・・・遺留分は、法定相続分に1/2 または1/3 を掛けた割合になります。

 

法定相続分× 1/2のケース(ほとんどがこちら)

・配偶者のみ

・子(またはその代襲相続人)のみ

・配偶者と子(またはその代襲相続人)

・配偶者と直系尊属(父母または祖父母)

 

法定相続分× 1/3のケース

・相続人が直系尊属(父母または祖父母)のみ

 

遺言などによって、自分の取り分が遺留分よりも少なくなってしまった場合に、遺留分を請求できます(遺留分侵害額請求)。遺留分侵害額請求は、兄弟姉妹以外の法定相続人にだけ認められている権利ですが、必ず使わなければならないものではありません。

 

「自分の取り分は遺留分より少なくてもいい」という場合は遺留分侵害額請求をする必要はなく、遺言の内容に沿った相続をすることになります。

 

 

木下 勇人

税理士法人レディング 代表

 

本連載は、2020年1月27日刊行の書籍『「知らなかった」では済まされない ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版)から一部を抜粋・再編集したものです。最新の法令・税制等には対応してない場合がございますので、予めご了承ください。なお、本連載で記載されている事例は、状況や行動パターンなどは実在の人物にヒントを得ていますが、登場する人物は、筆者の身内以外、すべて架空の存在です。

ホントは怖い 相続の話

ホントは怖い 相続の話

木下 勇人

ぱる出版

「知らなかった」では済まされない! ×遺言書を書いておけば大丈夫 ×財産が少ないから財産目録はいらない ×成年後見人を付ければ安心 ……これらはすべて間違い! 3000件の遺産相続に関わった相続専門税理士が教え…

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