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現代の資本主義システムは、限界が近いのか
◆資本主義、4つのサイクル
リーマン・ショックをきっかけに資本主義の終焉に関する議論が活発になっている。だがその多くは漠然としたイメージであり、しっかりとした根拠に基づく議論は少ない。
現代の資本主義システムはそろそろ限界に来ているのではないかという疑問は多くの人に共有されているが、満足のいく答は得られていないのだ。
この大きなテーマに対するひとつの「解」を提供しているのがジョヴァンニ・アリギの『長い20世紀』(作品社)である。本書は資本主義システムの歴史的展開について16世紀にまで遡って論じたものである。
アリギはマルクス主義的な立場をベースにしており、この点については少し割り引いて考える必要がある。だが、歴史の中に、長期的な資本蓄積サイクルが存在しているという指摘は興味深い。
アリギによると、資本主義の各サイクル内において、資本はまず生産拡大に投入されるという。その後、生産拡大が限界に達すると、今度は金融拡大局面へと進み、最後はそれも限界に来て、最初の生産拡大に戻るという。
実際の歴史に当てはめてみると、過去500年の間に、4つのサイクルが存在しており、最初はイタリア(ジェノバ)からスタートし、オランダ、英国と続き、現在では米国サイクルの最終局面という認識になる。
3つのサイクルはすべて1世紀以上継続しているが、新しいサイクルほどその期間が短くなっているのが特徴である([図表1]参照)。
「経済覇権」はどのように移り変わってきたのか
中世のイタリアでは多くの都市国家が出没し、商業が活発化して資本の蓄積が進んだ。だが地理上の発見によって大西洋とインド洋の貿易が台頭してくると、地中海に依存していたイタリアは衰退を始める。
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次に勃興したのはオランダであった。アムステルダムでは世界初の本格的な証券取引所が設立され、高度な金融技術が発達した。
オランダの発展をベースに覇権を握ったのは英国である。英国は当初、オランダ製品のコピー商品から産業をスタートさせた。
初期の英国製品は、いわゆる「安かろう悪かろう」だったが、英国はたちまち工業国としての実力をつけ、産業革命を成し遂げることに成功した。英国は一気にオランダを抜いて、世界の工場として君臨することになったのである。
産業革命期の英国は、旺盛な設備投資需要に支えられ、経済は順調に推移した。この時代の末期には、全英で鉄道株ブームが発生したが、資本家ばかりでなく主婦や労働者までこぞって鉄道株を購入する騒ぎとなり億万長者が続出している。
その後英国は、ビクトリア時代と呼ばれる絶頂期を経て、1873年から大不況に突入する。
この時代は現代社会とよく似ているといわれる。人々は豊かになったため、かつてほどモノに対するニーズがなくなり、工業製品のコモディティ化が進んだ。新興国の台頭で生産が過剰となり物価が下落してデフレ状態が続いた。人々が保有する豊富なマネーは行き場を失い、金融商品や新興市場(当時は戦争で獲得した植民地)へ殺到している。
デフレ脱却のきっかけはマネタリーなものであった。
1800年代後半にカナダやアラスカ、南アメリカにゴールドラッシュが起こり、金が大幅に増産された。これによってベースマネーが増加しインフレへと転じた(今でいう緩和政策)。この時代から第二次大戦開戦までが英国サイクルの最終局面ということになる。
英国はすべての海洋の制海権を持ち、グローバルに植民地を展開していたが、この頃からこうした覇権主義的な国家運営は経済的に割に合わなくなってきた。最終的に英国は第二次大戦で疲弊し、覇権国家の座を米国に譲ることになる。
金融拡大局面の限界点で、金利低下が起こりやすくなる
一般に、資本蓄積が過剰に進みマネーが余ってしまうと、貨幣需要が減少して金利が低下する。生産が拡大しているうちはよいが、生産拡大も限界になるとマネーは新たな投資先を求めてさまようことになる。
これが、金融の拡大局面ということになる。各サイクルの終末期は金融拡大局面の限界点であるため、著しい金利の低下が起こりやすい。
[図表2]は過去500年にわたる長期金利の動向を示したものである。当記事で定義された各サイクルと当該国における長期金利をグラフ化した。
各サイクルがスタートすると、徐々に金利の低下が起こり、最終局面ではかなりの低金利になっていることがわかる。
長期金利が低下するということは、投資収益が低下することと同じであり、GDPの潜在的な成長率が低下することでもある。
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また、時間のコストが限りなく低下するという意味にもなる。もし金利の低下が極限まで進むと、その枠組みでは、経済活動がうまく機能しないという状態に陥ってしまう。
最終的に、その枠組み自体が維持できなくなり、すべてがリセットされる。再構築された新しい枠組みでは旺盛な資金需要があるため、金利は一気に上昇することになる。これが資本蓄積が循環的に推移する理由である。
「アメリカ覇権」は終わりを迎えたのか
イタリアからオランダに経済覇権が移ると、金利は1%台から6%台に急騰している。オランダから英国、英国から米国へシフトする際にも、同様に金利が高騰するという現象が見られた。
一連の現象の中で、位置づけがはっきりしないのが、現在のアメリカ・サイクルである。米国は第二次世界大戦をきっかけに英国から完全に覇権を奪い、世界経済のリーダーとなった。英国の金余りと金利低下が終わり、米国に覇権が移ることで、金利は正常化したかに見えたが、1970年代に入ると、今度は、米国の金利が急騰するという事態に陥った。
当時の米国は、インフレと低成長が両立するスタグフレーションが発生しており、金利がかなり上昇していた。当時、米国FRB議長であったボルカー氏がインフレ退治を目的として強烈な金融引き締めを実施したことで、さらに金利が急騰したのである。
だがこの金利急騰が、アメリカ・サイクルの終了で、次のサイクルの始まりなのか、あくまでアメリカ・サイクルの一過程なのかは何ともいえない。
アリギは、80年代以降の日本経済の台頭を根拠に、米国サイクルの終了を匂わせている。
だが、この解釈については少し注意が必要だ。本書が書かれたのは1994年であり、当時は日本経済に対する世界の期待は極めて高かった。若い世代の読者の方には信じられないかもしれないが、次の経済覇権を握るのは日本ではないかという議論も存在していたのである。
しかし、現実には日本経済は長期の不況に突入し、経済は横ばいのままで推移した。この間、米国や欧州の経済はめざましい成長を見せ、日本は相対的にかなり貧しくなってしまった。日本が米国の覇権に取って代わるという話は、今となってはまったく非現実な話になっている。
新しいサイクルがすでに始まっているのだとすると、急激な金利の上昇はこれからやってくる可能性がある。あるいは、例外的に金利上昇を伴わず、新しい経済フェーズに移行することになるのかもしれない。
ただ、大規模なインフラ投資を主張するトランプ氏が大統領に選出されたことを考えると、金利が上昇する確率は以前より高まってきたといえるだろう。
加谷 珪一
経済評論家