「失敗」は誰にでもあることですが、言い訳ばかりしていては、自らの成長のチャンスを逃してしまいます。今回は、元インテル株式会社(日本法人)執行役員・板越正彦氏の書籍『部下が自分で考えて動き出す 上司のすごいひと言』(かんき出版)より一部を抜粋し、「言い訳や反発をする部下へかける言葉」について解説します。

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遅刻しても言い訳ばかりの部下、田中くん

【本記事のモデルケース】上司が手を焼く部下:田中君

入社3年目、20代後半の営業マン(法人営業)。仕事をキッチリこなし、上司の指示もきちんと聞く、どこの職場にもいるマジメなタイプ。ただ、与えられた以上の仕事を、自分で考えて行動することはない。プライベートを重視するタイプで、社会貢献に熱心。

能力が高いため、上司はより一層の成長を期待しているが、上司や先輩がちょっと厳しくしかるだけで、「そういうのは僕、苦手なんです」と全力で逃げてしまう。

 

◆聞く耳を持たない部下のサポート

 

言い訳の多い部下や、反発する部下。そんな部下に対して、つい正論で問い詰めてしまったことはありませんか。私も、上司だった時代にそんな経験をした記憶があります。

 

しかし、それで部下の行動が変わったわけではありませんでした。ますます意固地になって、言い訳を繰り返していた気がします。人は簡単には変えられません。ただ、他人が変えようとしても変えられないけれども、自分が変わりたいと思ったら変えられるものでもあるのです。

 

部下を問い詰めたりやりこめたりするのではなく、意識を変えるきっかけを与えれば、行動を変えられます。

もし田中君が上司だったら、今の自分を見てどう思う?

【シーン5】言い訳で自分を守る部下の視野を広げるひと言「もし君が上司だったら、今の自分を見てどう思う?」

 

上司最近、遅刻が増えているみたいだけれど、どうしたのかな①

 

部下「仕事量が多くて、最近はずっと終電で帰っているからです」

 

上司「そうか、熱心に残業してくれるのは助かるんだけど、朝礼はみんながそろっていないとできない話もあるから、9時前には出社してもらいたいんだ」

 

部下「自分も残業はしたくないんですが、仕事が終わらないから、しょうがないっていうか」

 

上司「どの仕事で時間がかかっているんだろう」

 

部下「うーん、やっぱり日報ですかね」

 

上司「それじゃあ仮定の話だけど、もし田中君が上司だったら、今の自分を見てどう思う?②

 

部下「……たるんでるなって思います」

 

上司「たるんでいると感じる部下に対して、何ていう?」

 

部下「そうですね……『お前、何で毎日遅れてくるんだ、あと10分早く家を出ればいいじゃないか』とか」

 

上司「それは的確なアドバイスだね。田中君がそういわれたら、どうする?」

 

部下「まあ、10分早く家を出ようって思います」

 

上司「そうか。どうすれば10分早く家を出られるのかな」

 

部下「目覚ましを10分早くかけておくとか、朝はテレビを観ないとか」

 

上司いいね。田中君自身は、今の方法をどう思う?③

 

部下「……いいと思います」

 

上司「そうだよね。僕も田中君が実際に10分早く家を出られたら、素晴らしいことだと思うよ」

 

① 部下を非難しない

 

「遅刻が多いけど、自分が上司だったらどう思う?」と最初に聴いてしまうと、詰問しているように相手は感じます。少し遠回りになっても、問題行動の理由や原因をまず聞くと、問い詰められているとは感じないでしょう。

 

② 部下の言い訳を責めない

 

「あなたが上司だったらどう思いますか」という質問は、相手の視点を変える効果があります。「相手の立場に立って考えてみよう」は、おそらく皆さんも学校で教わったと思いますが、これはコーチングでは非常にポピュラーな手法です。

 

この質問は、あらゆる相手に使えます。先輩や上司の立場の人に対しては、「あなたが部下だったら」と問いかけられますし、もっと大きな視点を持ってもらいたいなら「もし視野を経営者のレベルに上げると、何をするか」という問いを投げかけます。

 

部下が言い訳ばかりで逃げようとしているのなら、視点を変える問いかけをしてみてください。本当は、部下は自分でも何をどうすればいいのかはよくわかっています。その答えを引き出すのです。

 

③ 行動を変えるよう強制しない

 

部下が改善策を思いついたら、「いいね、それをやってみてよ」と強制はしないように。自分で考えたアイデアであっても、人に命じられると、とたんにやる気はなくなります。「どう思う?」のように考えさせる質問を投げかける程度で留めましょう。

 

 質問&リスニングの効果

 

このやりとりは、部下を直接的にワクワクさせる質問&リスニングではないのですが、問題を抱えていると仕事でワクワクすることはありません。言い訳が多いのは、おそらく自分の失敗とは向き合いたくないからです。

 

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その意識でいる限り、仕事を心から楽しめないでしょうし、成長もしません。ですので、言い訳の多い部下ほど、質問&リスニングで本人に問題と向き合う機会をなるべくつくってあげるようにしてください。部下は自分で今の状態から抜け出さなければならないのだと悟ります。

 

上司も目くじらを立てて怒るより、部下に自分で問題を自覚してもらい、解決策を出してもらうほうが、精神的にとても楽です。自分がラクをするために、質問&リスニングをするのだと考えましょう。

 

部下には自分で課題解決法を考えてもらう
部下に、自分で解決策を考えてもらう

議事録を残す「目的」って何だと思う?

【シーン6】部下が反発してくる「本当の原因」を探るひと言「その仕事にワクワクしているかな?」

 

上司「田中君、最近疲れた顔をしているね」

 

部下「仕事量が多くて、いっぱいいっぱいなんです」

 

上司「そうなんだ。どの仕事に一番時間がかかっているんだろう」

 

部下「会議の議事録を作るのに時間がかかっています」

 

上司「そうか。田中君は、その仕事にワクワクしているかな?①

 

部下「ワクワクなんてするわけないですよ。っていうか、議事録って必要なんですかね? 各自がメモを取ればいいんじゃないかって思うんですけれど」

 

上司「議事録はいらないと考えているんだね。実は、今までもそういう意見はあったんだ。でも、会議に出られない人や他部署との情報共有のために必要だから、継続することになったんだ」

 

部下「そうなんですか……でも、ボイスレコーダーで録音した音声を聞きながら作成するのはつらすぎます。それだけで4、5時間もかかるんですから」

 

上司苦労しているんだね。それなら、議事録を残す目的って何だと思う?②

 

部下「それは、会議の決定事項とか、そこに至ったプロセスを記録として残すことだと思います」

 

上司「その通りだよ。読んでいる側にそれが伝わればいいってことだね」

 

部下「じゃあ、1枚か2枚で簡潔にまとめてもいいんですか?」

 

上司「いいと思う。わかりやすいほうが、記録として読む側も重宝するからね」

 

部下「それならもっと簡単にできますよ。もっと早くいってもらいたかったです」

 

上司「解決の糸口が見つかったかな。僕からひとつ付け加えるなら、議事録はその人の仕事の能力がわかるからって、うちの管理職はけっこう注目しているんだ③

 

部下「そうなんですか。誰も議事録なんて読まないって思ってました。読まれる議事録にすればいいってことですね」

 

上司「それは素晴らしい気づきだね」

 

① あえて「ワクワクしているのか」と聞く

 

仕事がつまらない、自分がやりたかった仕事ではない。部下がそんな言葉を漏らしたら、「仕事は楽しくないのが当たり前なんだ」「好きなことを仕事にできる人のほうが少ない」と諭したくなるのが上司の性です。

 

確かに現実としてはそうなのですが、ただでさえモチベーションがダウンしているところにそんな言葉をかけたら、部下のワクワクエンジンはずっと止まったままです。現実を突きつけるより、部下がワクワクするような糸口を見つけたほうが部下のやる気を起こすことができます。

 

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私は部下からそんなグチを聞いたら、ストレートに「最近ワクワクしている?」と聞いていました。田中君のようにワクワクしていないときは、その裏側に反発を抱く原因があります。「ワクワク」を入り口に、本心を引き出すのです。

 

そして、部下が納得いかないことを吐き出したら、それを受け止めるようにしてください。そこで「今までの新人はみんな担当してきたんだ」といい聞かせたら、ますます反発するだけです。

 

②仕事の目的を考えてもらう

 

上司が仕事の目的を説明するだけでは、部下はいつまでも能動的になりません。部下自身になぜその仕事が必要なのかの背景を考えてもらうと、すべての仕事に意味があるのだと理解しやすくなります。たとえば、お茶くみをする必要はないと部下がいうのなら、「なぜお茶くみをするのだと思う?」と投げかければ、自ずとその必要性を考えます。

 

③ワクワクエンジンがかかるひと言を伝える

 

その仕事をするとどのようなメリットがあるのかを伝えると、部下のワクワクエンジンが動き始めます。

 

◆ 質問&リスニングの効果

 

仕事の意義を感じていないとワクワクエンジンはかかりませんし、ダラダラ仕事をするだけです。どんなつまらない仕事にも意味があるのだと気づけば、自分で工夫しようという意識になるでしょう。それが部下の行動を変えるきっかけになります。

 

なお、部下に「ワクワクしているか?」と尋ねるのは、気恥ずかしいと思うかもしれませんが、普段から「この企画じゃワクワク感が足りないな」のように口癖にして使っていれば、不自然ではなくなります。部下が自分で、「今、自分はワクワクしているか?」と自問自答できるようになるぐらい、上司は普段から問いかけてみてください。

 

◆ 「ワクワク」をキーワードにしよう

 

最新コーチングは自分の人生をワクワクして生きるための手法でもあるので、「何をしているときにワクワクしますか」「一番ワクワクすることは何ですか」といった問いかけ方もよく使います。今はワクワクしていない人でも、そのときの気持ちを思い出すことで意識が上向いていくのです。

 

すべての仕事が面白いということはなく、つまらない作業ややりたくない作業はどうしても発生します。そういう場合は、「何の仕事ならワクワクするのか」と聞くことで、視野を広げてあげられます。

 

もし、部下がどの仕事にもワクワクしないと答えたのなら、仕事以外で悩みを抱えているのかもしれません。そのときは本書(『部下が自分で考えて動き出す 上司のすごいひと言』)第1章を参考にして「今まで一番、一所懸命になったのは?」「最近楽しかったことは?」と聞いてみると、ワクワクエンジンのスイッチを入れられるでしょう。

 

 

板越 正彦

株式会社1on1エンゲージメント研究所 代表取締役

部下が自分で考えて動き出す 上司のすごいひと言

部下が自分で考えて動き出す 上司のすごいひと言

板越 正彦

かんき出版

世界企業「インテル」で、クビ寸前から世界トップ0.5%に選抜された著者が、大逆転の原動力となった、部下を動かす『すごいひと言(キラーフレーズ)』を初公開!本書は『すごいひと言』を入り口に、上司が部下との「質問&ヒア…

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