2人の税理士の相続税申告額…差が生じるポイントは?
相続税の申告書の作成は、基本的に1家族1人の税理士に依頼をするのが原則です。つまり1人の税理士が作った申告書に相続人全員が印鑑を押して、その申告書を税務署に提出するのが原則なのです。
しかし相続争いが起きてしまい、相続人同士が顔も合わせたくない、というときに、お互い別々の税理士に申告書の作成を依頼し、別々に提出する場合があります。このとき、申告書が同じ内容にならないことはよくあります。
このように2人以上の税理士が登場するケースにはパターンがあります。よくあるのが、亡くなった方とその家族に、毎年の確定申告をお願いしていたり、経営者であれば法人の決算をしていたりと、元々付き合いのある顧問税理士がいるパターンです。
この場合、遺産分割で揉めると、顧問税理士が仲裁に入ろうとすることがあります。これは違法行為です。揉めている相続の仲裁に入れるのは弁護士だけです(正しくいうと、弁護士でも仲裁には入ることはできず、対立しているどちらか一方の味方しかできません。お互いが弁護士を立てて、争うことになります)。しかし、このようなケースは結構あります。
さらにこのケースだと、顧問税理士が元々付き合いのある相続人に有利なことを言ってしまうことが多いのです。そうすると、対立しているほうの相続人はたまったものではありません。「あの税理士、あっちのほうばかり肩入れして!」となり、別の税理士に依頼することになるのです。
こうして、別々の税理士に相続税の申告書の作成を依頼することになった場合、最初、双方の税理士は、自身が揉めているわけではないので、協力しようというスタンスでいる場合が多いです。しかし、最終的には内容はバラバラになってしまいます。
その要因は大きく2つあります。まず「不動産の評価額」。不動産の評価は、現地に行って実測しないと適正な評価は出ない場合が多いです。必要以上に高く評価してしまったり、周囲にお墓や高圧電線があるなど、評価減ができるにも関わらずしていなかったりなど、同じ不動産でも、依頼する税理士によってずいぶんと評価額は変わってきます。
次に「隠し財産」。亡くなった方と一緒に住んでいた相続人が、被相続人の生前中に勝手に財産を引き出してしまうことはよくあります。被相続人の介護をしている相続人が、生活費の名目でたくさん引き出してしまう、などのパターンですね。そして、ほかの相続人が通帳を見ると「なんでこんなに財産が使われているの?」と争いに発展することがあります。
このような争いでは、相続税の申告まで影響を及ぼします。「隠された! 取り返したい!」と考えているほうは、隠し財産まで申告しないと追徴課税になってしまいます。一方、「隠し財産があるだろう!」と言われている側は、「いやいや、そんなお金はないよ」と申告はしません。ここで評価が大きく変わるということがよくあります。
さらに隠し財産だけでなく、貸付金ということもよくあります。たとえば「お兄ちゃん、10年くらい前に、お母さんから3,000万円借りていたでしょ。相続税の対象になるんだから、きちんと申告しなさいよ」というようなケースですね。お兄さんからすると「いやいや、あのお金は返さなくてもいいと言われているんだ」と意見が食い違い、評価額にも大きな差が生じてしまうのです。
相続争い…相手の申告書を見ることはできるのか?
では相手方の税理士が提出した申告書は、税務署に行けば見ることはできるのでしょうか。2人以上の税理士が登場する場合、申告前に申告書を見せ合うようなこともありますが、相続人同士の関係性が悪くなっていては、なかなか実現しません。
相続争いに発展している場合、相手がどのような申告書を出したかは、裁判の重要な手掛かりになるものなので、弁護士であれば何とか見たい、となるでしょうが、結論から言うと、相手の申告書は見ることはできません。
なぜ見ることができないのかというと、閲覧するために必要な書類に関係します。提出した申告書を見るためには、下記の①~④が必要になります。
①相続人全員の実印のある委任状
②印鑑証明書(発行から30日以内のもの)
③被相続人、相続人との関係性が確認できる戸籍
➃相続人全員の本人確認書類
実印が必要になるので、相続人全員の協力がないと揃えることができないわけです。
また一方の相続人から委任されて閲覧の申請をし、受理をされたとしても、出てくる閲覧書類は、ほとんど黒く塗りつぶされています。個人情報ですから、税務署側も神経をとがらせているわけです。
相続税の申告書作りを2人以上の税理士に依頼すると、その分、コストがかさみます。相続人同士がそこまで揉めていないのであれば、1人の税理士に依頼するのがベストでしょう。また相続人同士で揉め事が生じた際、税理士が特定の相続人の肩を持つようなことがあったら、「法律違反ですよ」としっかりと主張するほうがいいでしょう。
【動画/筆者が「相続税申告で別の税理士に依頼する場合の注意点」を解説】
橘慶太
円満相続税理士法人