「いい人ぶらないで!」20歳下の後妻が遺産を放棄したが…

年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、先妻と後妻の間で起きた相続トラブルを、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

別れを決めた二人だったが、子どもができて結婚

今回ご紹介するのは、Aさん(夫)、Bさん(妻)、長男という3人家族です。AさんとBさんが結婚する前、交際は10年近くにも及んでいました。ただどこか惰性でお付き合いが続いていた部分もあり、お互いが30歳を超えたあたりで、別れようという話が持ち上がりました。ところが、そのタイミングでBさんの妊娠が発覚し、ならばということで結婚に至ったそうです。

 

しかし、一度は別れようとした関係。子どもができたとはいえ、夫婦の間は、どこか冷めきったものがありました。傍から見れば、仲のいい家族に見えるのに、わからないものです。

 

Aさんは、新卒で入社した会社で15年ほど働いた後に独立。いつか自分一人の力で仕事をするというのが、Aさんの夢だったのです。数年後には従業員を数人抱えるようになり、会社の経営は小さいながらも順調でした。

 

そんな家族に変化が生じたのは、長男が大学を卒業したあとのこと。AさんとBさんは、子育てを終えるとともに、夫婦としての関係も終わらせることにしたのです。

 

「もともと、別れようとしていましたから……子どもが独立した今となっては、一緒にいる意味がなくなってしまったんですよ」とAさん。慰謝料などもなく、円満な離婚でした。

 

さようなら
さようなら

 

さらにAさんは、離婚から数ヵ月後にCさんという女性と再婚をしました。Aさんの会社で10年近く働いている従業員で、Aさんとの年の差は20歳以上もありました。Aさんの離婚を機に、交際へと発展し、すぐに結婚という話になったのです。

 

「家族以上に一緒にいたので、気心も知れていたということが大きかったですね。交際がスタートしたのは、本当に離婚のあとですよ」と笑うAさん。我が子はかわいいけれど、結婚自体は失敗だったと語っていましたが、やっと納得のいく人と結婚ができ、幸せいっぱいの生活が始まりました。

 

AさんとCさんの年の差は20歳以上。「せめてCさんが還暦を迎えるころまでは元気で長生きしないと」と笑って話していたAさんでしたが、人生とは残酷なものです。60歳のときに余命8ヵ月の宣告を受けてしまいます。

聞き分けのいい後妻に、先妻がイラっときて……

まさに青天の霹靂。Cさんのためにも長生きをしようと、健康には気を付けてきた自負もありました。しかし病気は事実です。少しでもCさんといられるよう治療にがんばったAさんでしたが、病気の発覚から1年半後、息を引き取りました。

 

「彼、がんばりましたよね。できるだけ長く一緒にいられるようにって。本当に、優しいひとなんです」とAさんをしのぶCさん。しかし穏やかなときは、なかなか訪れることはありませんでした。

 

葬儀のあと、Cさんのもとを訪ねてきたのはBさんとその子ども。そう、Aさんの先妻とその長男です。

 

Bさん「相続の話がしたくて、おじゃましました」

 

Aさんから聞いていたとおり、気の強そうな人だなと、Cさんは感じました。

 

Bさん「もちろん、私には相続の権利はありません。ただ、私たちの子どもには権利があること、おわかりですよね」

 

Cさん「もちろん、知っています」

 

Bさん「Aは、遺言書は残しているですか?」

 

Cさん「いえ、ありません」

 

Bさん「……そうですか。ではAの遺産は」

 

Cさん「会社は、病気がわかってから整理したので……残っているのは、この自宅と、あとは貯金ですね」

 

Bさん「Aの貯金って、結構ありますよね。会社、うまくいっていましたから」

 

Cさん「そうですね」

 

堅実な性格のAさん。仕事も忙しかったこともあり「なかなか(お金を)使う暇がなくてね」というのが口癖だったといいます。そのためか、Aさんの貯金は億を超えていました。

 

Bさん「Aが独立したのは、私たちが結婚していたころです。それができたのも、私が子育てを一手に引き受けていたからです。だからこのお金、私がいなかったら貯めることはできなかったわけですよね」

 

Cさん「……」

 

Bさん「だから貯金はすべて、私たちの子どもに分けてください」

 

Cさん「……はい」

 

めちゃくちゃな要求にも素直に応じるCさんの姿を見て、イライラとした表情を浮かべたBさん。急に大きな声をあげました。

 

Bさん「何をいい人ぶっているのよ! どうせ、あなたたち不倫していたんでしょ!」

 

Cさん「えっ⁉」

 

Bさん「ずっと言いたかったのよ、本当はわたし知っているんだから! 私たちを騙していたんでしょ! 自分ばかり幸せになって、天罰が下ったのよ!」

 

Cさんに一方的に罵声を浴びせ、Bさんとその子ども(長男)は帰っていきました。その後、CさんはAさんの遺産を放棄したため、すべてをAさんとBさんの長男が相続しました。なぜ、Cさんはそのそのようなことをしたのでしょうか。またなぜ、遺言書を書いてもらわなかったのでしょうか。

 

「Aさん、十分すぎるくらい保険に入っていたので、わたし、これから困ることなんてないんですよ」とCさん。「それに、財産目的の結婚と思われたくなかったので、遺言書も彼にお願いして書いてもらわなかったです。前の奥さんにすごい罵声を浴びせられましたけどね」

 

Cさんは新しい家で、Aさんとの思い出とともに穏やかに暮らしています。

遺言書を残すなら「遺留分」を気にして

相続トラブルを避けるためにも、遺言書は有効ですが、今回はあえて遺言書を残さなかったという珍しいケースでした。

 

遺言書を残すのであれば、気を付けたいのが遺留分です。遺留分とは「残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は相続できる権利」のことで、法定相続分の半分が認められます。

 

今回の事例のように、先妻との間に子どもがいて、……と複雑な事情があるとき、今の妻を気遣って「全財産を後妻に」という遺言書を残す方がいます。しかし「遺留分が侵害されている!」と争いになることがあるので、遺言書に記す遺産の配分には気を付けるようにしましょう。

 

実際に遺留分の侵害が発生した場合には、間に弁護士を入れることが一般的です。そしてその弁護士が話をまとめながら、遺留分に達するまでの遺産の受け渡し(=遺留分の減殺請求)などを行います。

 

また、この遺留分という最低保障されている権利には、有効期限が存在します。遺留分が侵害されていることを知った日から1年です。1年を過ぎてしまうと遺留分の減殺請求はできなくなります。

 

ちなみに遺言書は法的に非常に強い効力をもっています。相続人全員が同意をした場合には、その内容を変更することが可能ですが、1人でも「遺言書通りに遺産を分けたい」という人がいたなら、遺言書の通りに遺産を分けなければいけません。

 

【動画/筆者が「遺言書の書き方の基本」を分かりやすく解説】

 

橘慶太

円満相続税理士法人

円満相続税理士法人 代表 税理士

中学・高校とバンド活動に明け暮れる。大学受験の失敗から一念発起し税理士を志す。大学在学中に税理士試験に4科目合格(法人税法の公開模試では全国1位)し、大学卒業前から国内最大手の税理士法人山田&パートナーズに正社員として入社する。

税理士法人山田&パートナーズでは相続専門の部署で6年間、相続税に専念。これまで手掛けた相続税申告は、上場企業の創業家や芸能人を含め、通算300件以上。また、三井住友銀行・静岡銀行・ゆうちょ銀行を中心に、全国の銀行で年間130回以上の相続税セミナーの講師を務め、27歳という若さで管理職に抜擢される。

税理士の使命は、難解な法律や税金をできる限りわかりやすく伝えることだと考えている。平成29年1月に表参道相続専門税理士事務所を設立し、平成30年より法人化に伴い、円満相続税理士法人に商号を変更した。

著者紹介

連載円満相続税理士が楽しく解説!「相続の基礎知識」

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