中国人民銀行は、大規模資金供給で、市場下支え
2月3日、中国国家衛生健康委員会は、新型コロナウイルスの感染者は、2日時点で2829人増加し、累計では1万7205人、このうち2296人が重症患者になったことを発表した。死者数は57人増えて累計361人となった。
新型コロナウイルスの感染拡大と長期化が心配される事態だが、中国経済に与える影響への懸念が拡大している。一部中国系シンクタンクが、春節の大型連休中の小売りや飲食、旅行などの産業で、損失が1兆人民元(16兆円)を超える規模になるとの試算を発表した。
今後3月から4月にかけて収束した場合でも、建設業や金融業など幅広い分野に影響が及ぶとして、2020年第1四半期の中国GDPの成長率が、前四半期の+6.0%から2.0%低い+4.0%まで低下しする見通しを公表した。1992年以降最も低い成長ペースになる。これを前提とすると、年間の中国GDPの成長率は、2019年の6.1%から0.7%下回って5.4%になるという。
アメリカとの通商協議では、一定の成果が得られ、先行き見通しが改善したものの、今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、中国経済にとって新たなリスク要因となる。
デルタ航空・アメリカン航空等の空運株がそろって下落
世界で第2位の経済大国である中国経済の停滞は、世界経済の先行き見通しも不透明にすることから、1月31日のNY市場では、昨年10月2日以来の下落率で値を下げた。特に、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を理由に、米国と中国を結ぶ全便の運航を停止すると発表したデルタ航空が2.38%安、アメリカン航空が3.17%と、直接の影響を受ける空運株が目立って下落した。
31日発表された米国経済指標では、2019年12月の個人消費支出が、前月比0.3%増加と市場予想に沿った安定的な動きを示した。一方で、所得が緩慢な伸びだったことから、今年は個人消費が緩やかな伸びにとどまるとの見方が台頭した。また金融情報会社MNIが発表した1月のシカゴ景気指数は、2015年12月以来4年ぶりの低水準になるなど、予想ほど強い内容でなかったことも、市場での懸念拡大を妨げる材料とはならなかった。
世界的に株価が調整色を強めるなか、旧正月による休場期間が延長されていた中国国内の株式市場取引が3日に再開されることから、市場では売りが先行して株価が下落、市場が荒れるのは必至、との懸念は先週末、強まっていた。
そこで、2日、中国人民銀行は、3日の金融市場で公開市場操作(リバースレポ・債券の買取を通じた資金供給)で1.2兆元(約18兆7千億円)もの大量の資金供給を実施すると発表した。資金の流動性を十分に確保し、企業の資金繰り悪化などにつながらないように、機先を制して対応してきたということだろう。中国証券監督管理委員会(証監会、CSRC)も、中国国内の証券各社に対して、春節(旧正月)休暇明けで市場が再開する3日は、顧客の空売りを禁止するように口頭での指導を実施した模様である。
なおリバースレポ金利だが、3日に実施される際、期間7日が2.50%から2.40%に、期間14日が2.65%から2.55%に、いずれも0.10%金利が低めに設定されたことも、注目しておくべきだろう。
中国人民銀行(中央銀行)はかねてから、断続的にプライムレートなどの貸出し金利を引き下げたり、預金準備率の引下げなどの流動性拡大を図ったり、市中銀行にも企業向けに資金供給を増やすように要請したりと、金融緩和姿勢を鮮明にしてきた。危機的な状況も想定されるなか、危機管理対応としての流動性供給と金利低下誘導を同時に図ってきたと思われる。
3日の午前中の時点で、上海株式市場の総合インデックスの下落幅は-7から-8%程度と、決して小さくはないものの、パニック的な売り浴びせとは異なる様相を呈していると筆者は見ている。人民元は、オンショア市場で今年に入って初めて1米ドル=7.00人民元を下回って取引されている。今後、中国人民銀行がこの為替水準で為替介入など追加の対応をするのかどうかにも注目しておきたい。なお、市場では、中国政府による財政出動の可能性も一部で取り沙汰されており、こちらにも気をつけておきたい。
新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、避けられないが、まずは、冷静に居るべきというのが、現時点での筆者のスタンスである。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO