チリ最南部「凍てつく寒さ」のなかに、大ぶりのウニがあった

『なぜ僕は「ケニアのバラ」を輸入したのか?』(幻冬舎MC)を上梓した小林邦宏氏は、「東大から財閥系商社」というキャリアを投げ捨て、アフリカ・ケニアのバラ農園との取引をたった一人で開拓した。同氏は、世界の花屋として成功を収めたが、もう一つ、重要なビジネスの柱を持っている。「水産業」だ。

水産業の世界に飛び込み、何故「サバを諦めた」のか

僕は、住友商事の社員だった頃、アイルランドを担当していました。そのつながりで政府関係者と知り合い、水産業に興味を持つようになりました。

 

ただ、当時水産業に関する知識は、まったくありませんでした。英語はビジネスで困らない程度に話せたにもかかわらず、「ホースマッカレル(アジ)ってどんな魚だろう」というレベル。これは日本でアジという魚を知らないようなもので、本当に無知でした。

 

それでも僕は、とりあえず水産業の世界に飛び込んでみることにしました。

 

アイルランドに行き、ビジネスにできそうな商材が何かないか、探すところから始めました。例の如く、アイルランドの魚の卸問屋や工場を回り、「水産業のことが全然分からないので、教えてください」と頼み込みました。そうしたやり方で、情報は次第に集まってきました。

 

僕が最初に目を付けたのは、サバでした。アイルランド周辺では大量に獲れて値段も安いし、日本人が最もよく食べる魚の一つであり、ビジネスにもなりやすいだろう。そんな目算がありました。

 

しかしそれは、「取らぬ狸の皮算用」であると気づくのに、そう時間は掛かりませんでした。

 

サバという王道の魚は、日本の水産業において長い歴史を持つような大手企業の独壇場であり、中小企業が介入できる余地はほぼありませんでした。サバは早々に諦めました。

 

次に目星を付けたのは、サケ。これもまた王道の魚であり、中小企業で扱うのは難しい魚です。しかしサバに比べれば、まだ可能性があるように感じました。僕はそこで、とりあえずチャレンジすることにしました。チャレンジしてみなければ、その先にある突破口までたどり着かないからです。

「サケって魚は、小さくやる世界じゃないんだよ」

人の紹介などでつながった、チリの業者から、試しにサケを仕入れてみました。実際にチリに行って、業者と話すなかで、諭すように言われたことがあります。

 

「いいか、サケって魚は、小さくやる世界じゃないんだよ」

 

サケの取引のほとんどは、20トンのコンテナを50個、100個というレベルの規模で行われていました。僕のように、コンテナ一つほどの量で商いをするような商社はまずありませんでした。

 

大量に仕入れる大手企業に対し、中小企業が売値で勝てるはずはありません。同じところから仕入れれば、品質はほとんど同じです。加えて、サケ市場は値段の上下が激しく、ギャンブル性が高いものでした。結果的に、サケの輸入ではだいぶ赤字を出し、痛い目に遭いました。

 

ただ、この経験を通じて得たものは大きかったと、今では思います。少なからず足を突っ込んでやると、見えてくる世界があるものです。

「サバの挫折」と「サケの大赤字」で得た知見

まず、大手企業と中小企業では、そもそも扱うべき商品が違うという、ビジネスの原理が身に染みて分かりました。

 

例えば、品質が良くて値段もそれなりに安いエビを見つけたとします。しかし、消費量の多い有名な食材は、すでにどこかの大企業が手掛けているものです。現代においては、日本の大手企業が何十億、何百億という資金を投資し、エビの養殖場そのものを買収し、取引をしています。

 

日本人にとってなじみ深い食材の一つであるマグロの場合、大手企業は漁船を何艘も所有し、資源の確保から関わっています。それをやられては、基本的に小規模取引しかできない中小企業の出る幕はありません。この構図は、あらゆるビジネスに当てはまります。

 

そこで僕は改めて、中小企業が生きる道について、じっくりと考えてみました。そして、大手が手を出さないような小規模でニッチな商材こそ、中小企業が手掛けるべきものだと考えるようになりました。

 

また、サケ事業に実際に飛び込んだことで、水産業の関係者と知り合うことができ、さまざまな人脈や生きた情報を得られるようになったのが、財産となりました。関係者とのつながりのなかから、次の水産業の取引が生まれましたから、まさに「失敗は成功の母」であると感じます。

「チリで、ウニ」覚えたてのスペイン語で飛び込み営業

サケの仕入元を探すためチリを歩き回るなかで出会ったのが、ウニの生産者でした。

 

「チリで、ウニか。聞いたことがないし、面白そうだ」

 

ウニ
ウニ

 

興味が出て調べてみると、南極にほど近いマゼラン海峡のあたりで、身が大ぶりなウニが獲れ、日本にもそれなりに輸出されているものの、大手はそれほど参入していないことが分かりました。

 

ウニという水産物は、キロ単価としてはサケやサバなどよりはるかに高いですが、身が小さく漁獲量が圧倒的に少ないことから、1度の取引で扱うのはせいぜい数百キロです。その規模では、大企業としては儲けが薄いためまず扱いません。まさに僕が求めていた、小規模でニッチな商材にほかなりません。

 

さっそく僕は、チリへと飛びました。チリという国は、南北に細長く伸びており、その長さは約4300㎞にも及びます。沖縄を含めた日本列島が約2700㎞ですから、2倍近い長さです。

 

同じチリでも、北部と南部では気候がまったく異なります。北部にはからからに乾いた砂漠があり、南部には一年中氷に覆われた地域があります。

 

僕がまず目指したのは、プエルトナタレス。チリの最南部に近いところにある町で、パタゴニアの玄関口として知られています。最初に訪れたのは4月のこと。「地球の果て」という意味の街道、「フィンデルムンド街道」を、レンタカーで片道3~4時間、ひた走りました。

 

チリ、プエルトナタレス。
チリ、プエルトナタレス。

 

次に訪れた7月は、南半球の冬の時期です。凍てつく寒さで、街道の路面が凍っていました。つるつるの路面を車で恐る恐る走りながら、インターネットで調べて引っ掛かった水産加工の会社に、手当たり次第に当たっていきました。

 

小さな田舎町ですから、会社といっても、漁師が家族で営んでいるようなところがほとんどであり、英語はほぼ通じませんでした。覚え立ての片言のスペイン語で、必死にコミュニケーションを取ったのを覚えています。

 

飛び込み営業と変わりませんから、当然一筋縄ではいきません。僕の感覚では、このようにして100軒に飛び込んでいって、話を聞いてくれるのは30から40軒、つながりができるのは5から10軒、といったところです。

 

それでも、現地に行っていろいろな人と話すことで、突破口が開けていきます。実際にこの時も「あなたのようなビジネスをしたいなら、この会社を当たってみたらいい」などと、貴重なアドバイスをもらえました。

 

中小企業に合う、良い商品や企業というのは、インターネットで検索しても、展示会に足を運んでも、ほぼ出てくることはありません。すでにパートナーがいて商売が安定しているため、わざわざインターネットに情報を上げる必要がないからです。そうした売り手の情報をつかむには、現地に行って、その土地の人から話を聞くしかないのです。

 

【次回に続く】

 

小林 邦宏

株式会社グリーンパックス 専務取締役

 

株式会社グリーンパックス 専務取締役

東京大学卒業後、住友商事株式会社の情報産業部門に入るも、世界を旅しながら仕事をするという夢が諦めきれず、28歳で商社を起業。花、水産物、オイルなど、さまざまな商品の卸売りを始める。

中国などアジアを中心にビジネスをしていたが、「中小企業は大手と同じことをやっていては生き残れない」と考え、南米、アフリカ、東欧、中近東など、「人が行きたがらない場所」に行って、知られていないニッチな商材を見つけ、取引するようになる。情報番組への出演や、ラジオ局のゲストコメンテーター、講演業など、幅広く活躍中。

著者紹介

連載なぜ僕は「ケニアのバラ」を輸入したのか?

なぜ僕は「ケニアのバラ」を輸入したのか?

なぜ僕は「ケニアのバラ」を輸入したのか?

小林 邦宏

幻冬舎メディアコンサルティング

「東大から財閥系商社」というキャリアを投げ捨て、アフリカ・ケニアのバラ農園との取引をたった一人で開拓し、「世界の花屋」チーフバイヤーとして多くのメディアから注目を集める著者。 なぜ、財閥系商社を飛び出して「フ…

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