どこの街に住むかの選択は、仕事やプライベートに大きな影響を与える。さらに家賃が家計支出の大きなウェイトを占めることを考えると、居住地は資産形成までも左右するといえるだろう。総合的に考えて住みやすい街はどこなのだろうか? 今回は取り上げるのは、西武新宿線。

乗換えが不便、整備の遅れ…マイナス要素ばかり!?

 

「西武新宿」駅と「本川越」駅を結ぶ、西武鉄道新宿線。池袋線とともに、西武鉄道の2本柱ではあるが、よく残念な路線と称されることが多い。東京の主要私鉄路線は、地下鉄やJRなどと相互乗り入れをして利便性を高めあっているが、西武新宿線は他路線との相互乗り入れはない。

 

また沿線の交通渋滞解消などを目的に、各私鉄路線では地下化、高架化などの事業を進めているが、西武新宿線は出遅れ感が目立つ。同じ西武鉄道でも、東京メトロ有楽町線や副都心線と相互乗り入れを行っている西武池袋線では整備が進み、周辺駅では再開発も進んでいる状況と比較すると、なおさらである。

 

さらに、「西武新宿」~「上石神井」で複々線化の構想があったが、バブル崩壊や人口構造の変化に伴う利用者の減少などもあり、昨年、正式に計画の廃止が決まっている。

 

このような状況もあってか、沿線には名の知れた駅は少なく、主要路線でありながらローカル色が強いと揶揄されることが多い。一方で穴場路線として紹介されることも珍しくない。そこで、今回は西武新宿線の各駅の平均家賃などから、沿線の住みやすさを考えていこう。

 

まず交通の利便性から各駅を見ていこう。「新宿」までの平均時間帯の所要時間を見てみると(図表1)、10分圏内であれば「新井薬師前」まで、20分圏内であれば「上石神井」まで(各駅停車しか停まらない「上井草」は除く)、30分圏内であれば「田無」までがボーダーとなる。

 

出所:平均家賃、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ(1月31日時点)、各駅より徒歩10分圏内の物件を対象とする
[図表1]西武新宿線各駅の「高田馬場」までの所要時間と、駅周辺の平均家賃 出所:平均家賃、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ(1月31日時点)、各駅より徒歩10分圏内の物件を対象とする

 

西武新宿線の混雑率は160%(「中井」~「高田馬場」)。150%で新聞を広げて読める程度、180%で折りたためば新聞が読める程度と言われているが、他路線と同様に、列車の種別によって混み具合はさまざま。朝ラッシュの急行や準急は、かなり圧迫感である。

 

各駅の平均家賃(駅から徒歩10分圏内/1K~1DK)を見ていこう(図表1)。西武新宿線のターミナル駅である「高田馬場」で7.46万円。大江戸線との乗換駅である「中井」までが7万円台、「井荻」までが6万円台、以降は「田無」を除き5万円台以下となる。西武鉄道の埼玉県下のターミナル駅である「所沢」でも5.14万円となり、ほかの私鉄路線と比較しても、平均家賃はリーズナブルである。

 

厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、都内勤務の男性会社員の平均給与/月は、20~24歳で23.01万円、25~29歳で26.01万円、30~34歳で29.34万円、35~39歳で32.22万円となっている。企業規模によって平均給与は異なるが、そこから住民税や所得税などを差し引いた手取り額は、20代であれば18~20万円、30代で22~24万円程度と考えられる。また、手取り月収の1/3以内を適正家賃と考えると、20代会社員の適正家賃は6万~6.7万円、30代会社員の適正家賃は7.4万~8.1万円となる。

 

これをもとに各駅の平均家賃を見ていくと、だいたい「新井薬師前」以西が居住地選びのスタートとなり、30代会社員であればほとんどの駅が適正家賃内となる。「西武新宿線」は、交通や生活の利便性など、個々の優先順位で居住地が探せる、選択肢が実に広い路線といえるのではないだろうか。

「高田馬場30分圏内」に穴場駅が点在

平日通勤時間帯の「高田馬場」までの所要時間と各駅の平均家賃を見てきたが、実際の暮らしはどうなのだろうか。それぞれ見ていこう。

 

■「高田馬場」~「新井薬師前」

「高田馬場」まで10分圏内のエリアだが、JR山手線で「新宿」「渋谷」「池袋」、東京メトロ東西線で「大手町」など都心へのアクセルも良好な「高田馬場」の利便性が光る。駅周辺には専門学校が点在し、学生をターゲットとした飲食店や古本屋などが多く立地する。一人暮らしに便利な店も多数点在し、さらに学生街のため物価も安い。

 

「中井」は、一度改札を出て商店街をあることになるが、都営地下鉄大江戸線の利用も可能。また深夜まで営業しているスーパーのある「新井薬師」も、一人暮らしの部屋選びの際は有力な候補になるだろう。

 

山手線との接続駅ながら家賃はリーズナブルな「高田馬場」
山手線との接続駅ながら家賃はリーズナブルな「高田馬場」

 

■「沼袋」~「上石神井」

「高田馬場」まで20分圏内のエリア。交通利便性を優先するなら、急行などが停まる「鷺ノ宮」、生活利便性を優先するなら、深夜、または24時間営業の中規模スーパーが駅周辺にある「都立家政」「下井草」「井荻」は便利だ。そのなかで「上石神井」は急行などが停まり、さらに24時間営業の「西友 上石神井店」があるなど、交通、生活、双方の利便性を兼ね備えている。

 

さらに注目したいのが、「沼袋」。現在、西武新宿線では「中井」~「野方」で地下化工事が進められ、「沼袋」は地下駅となる。「開かずの踏切」は解消され、街の利便性も大きく変わるかもしれない。

 

■「武蔵関」~「田無」

「高田馬場」まで30分圏内のエリアだが、この中では「田無」の存在感が光る。1995年に「田無西武」としてオープンした「リヴィン田無店」や、駅直結の「エミオ 田無」などの商業施設のほか、複数の商店街が駅周辺に点在し、沿線のなかでも比較的規模の大きな商業地を形成している。さらに朝夕には、当駅始発の準急・急行もあり、「座って通勤」がかなう駅でもある。

 

西武新宿線駅のなかでは比較的商業の集積が進む「田無」
西武新宿線駅のなかでは比較的商業の集積が進む「田無」

 

他の私鉄路線に比べて、いわゆる人気の街の少ない西武新宿線は、商業の集積が進んでいる駅も少ない。しかし各駅とも一人暮らしであれば問題ない程度の生活利便性は兼ね備えており、さらに平均家賃は他路線と比較しても、実にリーズブルだ。色々と揶揄されることの多い西武新宿線だが、コストパフォーマンスの良さが光る穴場路線だといえるだろう。

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